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宝石の駒  作者: 彩霞
第四章

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第66話 スイングラー家の秘密

「コンラートさま……」


 そしてコンラートは姿勢を正すと、軽く頭を下げた。


「僕の我儘《わがまま》に応えて、本気で戦ってくださってありがとうございます」


「そんな、止《よ》してください……。スイングラー家の次期当主の方にそのようなことをされては困ります」


 ティナの言葉に顔を上げたコンラートだったが、表情はどこか思いつめているようで暗い。そして彼は、一つ息をはくとティナに言った。

 

「……分かりました。では、代わりに別のことをお尋ねします」


「別のこと……?」


「ここまで強いティナさんが、ロバートにリブームを教えているのは、いつか彼を『闇取引《オウルス・クロウ》』のゲームに参加する者として鍛《きた》えるためですか? 父にそのように頼まれましたか?」


 思いがけない質問で驚きはしたが、ティナはそれを態度に出さず静かに問い返す。


「……何故、そのようなことを聞かれるのです?」


 ティナがロバートの家庭教師になった大まかな理由として、スイングラー家の当主であるヴィヴェルシュからは、「ロバートが楽しめそうなものがリブームだったから」というようなことを聞いている。

 また都市地主の彼が、息子に良い教師をつけさせたいという気持ちは分からないでもない。


 その言動の裏付けとして、ロバートのために父親が用意した家庭教師たちがいた。ただし、ロバートが悉《ことご》く追い返してしまっており、まともに家庭教師として仕事をした者はいなかったらしい。


 その点から考えれば、ロバートを「闇取引《オウルス・クロウ》」に参加させてリブームのゲームで勝つために、ティナを呼んだとは考えにくい。


「ティナさんは、先ほど僕に『貴族や都市地主の子息や子女の中には、成人後すぐに闇取引《オウルス・クロウ》に参加する者もいる』と言いましたね。それも、商品のためではなく、そこで貴族や商人たちの情報を手に入れる場合もある、と……」


「はい」


「確かにそういう場合はあります。ですが参加者のほとんどが、競売やゲームを楽しんでいます。そのことを楽しまずに参加する者はいません。僕はそう思います」


「……」


 ティナは返答せず、コンラートの話をじっと聞いていた。


 彼の言う通り、「闇取引《オウルス・クロウ》」の参加者のほとんどが競売とゲームを楽しんでいる。

 さらに言えば、ゲームも「誰が勝つのか」が賭《か》け事になっているため、それを楽しんでいる者たちもいるのだ。そのため、彼の言う通り情報を得るためだけに参加している者はそうそういない。

 だが、ティナは一縷《いちる》の望みにかけたい思いがあった。


(私がコンラートさまにあのように言ったのは、「闇取引《オウルス・クロウ》を楽しむ側」でないことを願いたかったからだ……)


「闇取引《オウルス・クロウ》」を良く思っていない者たちがいて、潜入している者たちもいる。

 だからティナはロバートのためにも、コンラートが「闇取引《オウルス・クロウ》」の反対勢力であると思いたかったのである。

 しかし、その言葉を彼自身が否定してしまった。


(コンラートさま「楽しまずに参加する者はいません」というならば、彼自身も「闇取引《オウルス・クロウ》に行って楽しんだ」ということになる……)


 すると、コンラートはティナが聞きたくなかったことを口にした。


「あなたはどういう理由で僕のことを庇《かば》ったのかは分かりませんが、我がスイングラー家は父の代から『闇取引《オウルス・クロウ》』に参加しています。そして、僕も後継者として連れて行かれているのです。だから『闇取引《オウルス・クロウ》』の事情も知っているのです」


 ティナは内心ハッとしたが、表情を変えないように努める。


「……そうでしたか」


「その上、父は『闇取引《オウルス・クロウ》』の主催者側と繋がりがあります。ティナさんなら、この取引で人身売買が行われていたことはご存じですよね」


「……はい」


 ティナは重苦しくうなずく。


 自分は「闇取引《オウルス・クロウ》」のゲームで勝ち続けた。勝ち続け、「盤上の王」と称された分だけ、景品を手にしたのだ。


 その中には、宝石などの宝飾類や絵画などの芸術作品も含まれていたが、多くは「人」だった。それも、見目の美しい少数民族の女性たちである。


 ティナは己が生き延びるために、彼女たちの命と引き換えにしたとも言える。もちろん、ティナも平気だったわけではない。

 少女から成熟した若い女性たちが、主人に喰《く》われることを分かっていて、勝負を挑まなければならない苦しさに何度も飲まれそうになった。

 それでも、彼女は歯を食いしばって戦った。生きるために――。


 自分の選択が正しかったのかは分からない。

 しかし、生かされたのだ。生かされた分だけの恩返しをしなくてはならないと思った。

 だから彼女は、景品として連れて行かれた少数民族の者たちを助けようとしている貴族——グロリア侯爵に手を貸し、彼に「リブームを仕込んでほしい」という少女に惜《お》しみなく、勝つことだけに拘《こだわ》った戦いをリブームを教えたのだ。

 

「父は、その中でも『人』を調達する係をしています。『人』の調達場所は、少数民族のいる場所。ロバートの母親がいた、セレイアヌの民が暮らしているところです」


「セレイアヌ……」


「そうです。父は、ロバートの母親の故郷を食い物にしているんです。僕の推測ですが、多分あの子が生まれたのは、父がセレイアヌの土地を出入りしていたときに、ロバートの母親となる女性と出会ったからだと思います」


「あの……、何故私にこのような話をしているのですか? 聞いてはまずい話ばかりのように思うのですが……」


「ティナさんが父に雇われた理由が、ロバートを『闇取引《オウルス・クロウ》』のゲームに参加する者として鍛《きた》えるためだったとしたら、すぐに辞めさせるためです」


「……それはつまり、コンラートさまはロバートさまに『闇取引《オウルス・クロウ》』に関わってほしくないということでしょうか?」


 おずおずと尋ねると、コンラートは即答した。


「当り前です」


「……」


 そして彼は、膝《ひざ》の上でぎゅうっと拳《こぶし》を握ると、絞り出すような、しかしどこか諦めたような声で言った。


「僕でさえ行きたくない場所に、弟を行かせるわけにはいかないじゃないですか……」

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