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宝石の駒  作者: 彩霞
第四章

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第65話 勝負の駒「デマントイド」

(コンラートさまはきっと、どの駒でもいいから前に進めたいと思っている。それも私の陣に入るような前進……)


 中でも(アンドラダイト)はあと一マス前に進ませることができれば、敵陣——ティナ側に入る。そうすると、(アンドラダイト)は裏返り(アンドラダイト)となって、前後左右一マスずつしか進めなかったのが、何マスでも進めるようになるのだ。


 しかし、「三の三」にあるコンラートの(アンドラダイト)を一マス前に進めることはできない。


「一の四」にあるティナの(ウパロ)の隣には、コンラートの(ウパロ)があり、さらに「四の四」にはティナの(アンドラダイト)がある。つまり「三の四」に(アンドラダイト)を置くというのは、ティナの駒に(ウパロ)(アンドラダイト)を挟まれることになってしまうので、置けないのだ。


(もしコンラートさまがじっくりと構える覚悟があるのなら、「五の二」にある(デマントイド)を一旦「四の三」に移動させて、「五の一」にある(ウパロ)を地道に動かすのが賢明ってところかしらね……)


 リブームの戦い方は様々あるが、「敵陣に入ると性質が変わる駒をいかに動かすか」を考えるのは基本的な戦略である。


 特に(ウパロ)は、最大二マス動くことができるとしても、自分の陣地にいる限り前後の動きしかできない。そのため、敵に進む先を止められてしまったら、(ウパロ)は前後に動く以外にやりようがないのだ。


 (ウパロ)を敵陣に入れることで左右の動きを可能にするのは、(ウパロ)が持っている力を解放するということでもある。動ける範囲が広くなれば、その分力になってくれる。


 ただし、敵陣に入るというのは危険な手でもある。当然、駒が取られる可能性も高くなるからだ。


 そのため、多くのリブームの指南書では「(ウパロ)は最初のうちに動かしておくことが良い」とされている。実際、ティナも初心者に対してならそのように教える。(ウパロ)序盤じょばんで動かせば、敵に取られる危険性が低いからだ。


 だが、あくまでもそれは「初心者」であって、上級者ともなればそうとも言えない。


 というのも、何度も試合を繰り返していくうちに、その人の「型」というのが生まれてくる。最初にどのように駒を動かして、どういう形になったらどう駒を動かしてくるのか――。

 ある意味で、その人のくせでもあるので仕方のない部分ではあるのだが、戦い慣れてくると「型」を読まれて負けてしまうこともある。


 そのため本当に強い者は、同じような戦い方をしない。

 さらに「こういう場合は、こういう対応をしたほうがいい」という「定石」も使わないことすらある。

 そういう戦い方をされると、まるで雲のごとく。相手の尻尾を掴むことができない。

 だからこそ勝つことのできない相手となる。


(やはり(ウパロ)を動かしに行くかしら……)


 だが、予想は違った。

 コンラートは腕組みを外すと、「五の二」に置いてあった(デマントイド)を手に取って、「五の五」に移動させたのである。


「これでティナさんの(アンドラダイト)を取れました」


 コンラートは得意そうな顔を彼女に向けて言った。

 見ると、ティナの(アンドラダイト)をコンラートの(アンドラダイト)(デマントイド)はさみ、左斜めに一列になっていたのである。


 ティナはきょとんした状態で「そうですね」と答えた。

 コンラートは彼女の驚いたような顔も含めてほくほくとした気分になっていたようだった。そして、ティナの(アンドラダイト)を取って盤の外に置く。

 もしかすると「『盤上の王』から駒を取れた」ということが嬉しかったのかもしれない。

 ティナは彼の素直な感情表現に心和こころなごませると、「六の三」に置いてあった(ウパロ)を一マス後退させ「六の四」に置いた。


「『ガーネット』です」


 微笑んでリブームの勝者が放つ言葉を言う。

 しかし、コンラートはすぐに飲み込めなかったようで、たっぷりと間を空けてから「……え?」と呟いた。


「私の勝ちです、コンラートさま」


「勝ち? そんなどうして……まだ十手目で駒もこんなにあるのに……あっ!」


 コンラートが気づいた顔をしたので、ティナはふふふっと笑いながら代わりに説明した。


「リブームは(デマントイド)(グロッシュラー)を取られたら負けですよ」


 盤上では、ティナの(グロッシュラー)(ウパロ)が、コンラートの「五の五」に置いてあった(デマントイド)はさんで、右斜め一列になっていた。


「あぁ……! そうでした……!」


 コンラートはがっくりと肩を落とす。


「もしかして、忘れていたんですか?」


 あまりの落胆らくたんの仕方にティナはちょっと笑いつつ尋ねると、コンラートは顔を手で覆い、本当に悔しそうに言った。


「昨日、ティナさんと対戦したときは僕の(デマントイド)(グロッシュラー)は取られても試合終了にならないようにしてもらっていたので、そのつもりで今日も動かしていました……。手加減なしでって自分で言ったのに……!」


「そうでしたか」


 しんみりとした声で言いつつ、ティナは内心苦笑する。


(……もしかして「やり直し」って言われるかしらね)


 コンラートが本気ではなかったというならば、その可能性もある。

 あまり試合をやり直すというのはしたくないが、言われれば致し方あるまい。そう思っていると、彼がため息をつきつつ苦笑して言った。


「……いや、でも、そんなのは言い訳ですね。すみません、ティナさん」

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