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宝石の駒  作者: 彩霞
第四章

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第64話 手加減なしの勝負

 白木をやすりで磨いた駒は久しぶりだったので、ティナは心地の良いつるりとした手触りを確かめながら、少し時間をかけて置いた。


 手前のマスに左から右に向かって(ウパロ)を二つ、次に(デマントイド)を一つ、(グロッシュラー)を一つを置き、また(ウパロ)を二つ並べる。

 そして一つ上の列には、(デマントイド)の上に(パイロープ)を置き、(グロッシュラー)の上には(アンドラダイト)を置いた。


(よし、準備ができた)


 用意ができたティナがコンラートのほうを一瞥いちべつすると、みきが白い木を使った駒を置いていた。見ただけでは分からないが、カエデの木を使っているかもしれない。木材が何であれ、白い駒のほうも大変に美しかった。


 コンラートが駒を並べ終えると、顔を上げる。そのとき目が合ったので「いつでもどうぞ」とティナは言った。時間制限は設けなかったので、どちらかが負けるまでが勝負ということになる。


「分かりました」とコンラートは言って一つ息をはくと、「……では始めます」と神妙な面持おももちで言った。


「はい、よろしくお願いいたします」


「よろしくお願いします」


 試合の挨拶をしてから、コンラートは「二の一」に置いてある(ウパロ)を一マス進めて「二の二」に置く。

 それを見て、ティナはすぐに「六の六」に置いてある(ウパロ)を二マス進めて「六の四」に移動させた。


「早いですね」


「『手加減なしで』と言われたので、間を置かずに動かそうと思いまして」


「それも作戦ですか?」


 コンラートが探るような目で見てくるので、ティナは穏やかに笑って「さあ、どうでしょう」とだけ答えた。


「そういえば、『闇取引オウルス・クロウ』で行われるリブームの対戦は時間制限があって、厳しい戦いになると聞きました。確か、一人の持ち時間が十分だとか……」


 そう言いながら、彼は「四の一」の(デマントイド)を斜めに動かし、「五の二」の位置に置く。


「ええ、そうです。一夜の中で全ての決着を付けなくてはなりませんからね。参加者も多いですし、持ち時間を決めているのは運営上仕方のないことです。それにしても、よくご存じですね。コンラートさまも参加なさったことがあるのですか?」


 ティナは「四の五」の(アンドラダイト)を一マス前に動かし、「四の四」とした。コンラートはうなり、一度手を止める。そしてティナをじっと見た。その瞳は「想像していたのと違う」というような、素直な感情がにじみ出ていた。


「意外です」


「何がでしょう?」


 思った通りの言葉がコンラートから来たので、ティナはくすっと笑う。


「もう少し遠慮がちに話されるのかと思ったのに、一気に切り込んでくるので……。私のことも鋭く突いてきますし……」


「別に、特別なことではないと思いますよ。貴族や都市地主の子息や子女の中には、成人後すぐに『闇取引オウルス・クロウ』に参加する人たちもいますから」


「……」


「誤解のないように申しておきますが、別にコンラートさまがあの世界で自分の欲を満たそうとしていると思っているわけではありませんよ」


「え?」


「『闇取引オウルス・クロウ』は、色んな階級の人たちが身分を隠して出入りしていますからね。その分、様々な噂を聞くことができます。もちろん、嘘も混じってもいます。でも、それを仕事に利用する人もいるんですよ。私はそういう意味で、コンラートさまが参加なさったことがあるのではないかと思いました」


「……そうですか」


「ええ」


 コンラートは、ティナが長く話している間に動かす駒を決めたらしい。先ほど動かして「二の二」に置いてあった(ウパロ)を、二マス動かして「二の四」の一に置く。するとこの(ウパロ)は敵陣に入ったことになるので、ひっくり返り、(ウパロ)となって、前後だけでなく左右にも一度に最大二マスまで動けるようになった。


 ティナは間髪かんはつれずに、「一の六」の(ウパロ)を二マス前進させ、「一の四」の位置に置く。

 まるで反射のように使う駒と動かし方を決めて行くティナを見て、コンラートは渋い顔をした。


「……試合、早く終わらせようとしていません?」


「そんなことは思っていませんよ。ゆっくりお考えくださいませ」


「……」


(コンラートさまのお気持ちは分かるけどね)


 自分が打ったあとに相手がすぐに駒を打ち返してくると、自分ばかり考える時間が長くなるように見えてしまう。実際には、駒を打つ番の人が考えている間にも、相手は次にどうしようか考えているわけだが、それが目に見えないので焦ってくるのである。


(「手加減なし」とおっしゃったのはコンラートさまですから。私もある程度本気でやらせてもらいますよ)


 コンラートのように、ティナのことを「絶対に強い」と信じ切っている者を相手にする場合は、一度しっかり戦って、こちらが本当に強いのを見せつけないといけない。下手に優しく戦うと「本気を出していない」と思われて、いつまでも「手加減なし」の戦いを求められてしまうからだ。


「うーん……」


 コンラートは悩みつつも、「三の二」の(アンドラダイト)を一マス前に進め、「三の三」の位置に置く。

 それを確認するとすぐに、ティナは二手目で動かした「六の四」の(ウパロ)を一マス前進させて、「六の三」の位置とする。するとこの(ウパロ)は敵陣に入ったので裏返り、前後だけでなく左右にも動く(ウパロ)となる。


 ティナの動かした駒を見て、コンラートは腕組みをし、まだ序盤ではあるものの盤上の状態を確認した。

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