↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宝石の駒  作者: 彩霞
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/86

第6話 盤と駒

「連れ出してきた……?」


 ロバートがつかむ力をゆるめたため、ティナはそのすきにするっと自分の手を引き抜いた。彼女は掴まれたところを、さりげなくさする。


「私は当初、この仕事を引き受けるつもりはありませんでした。つまり、あなたさまに『リブーム』を教えるつもりはなかったのです」


「……父上が連れ出すほどということは、お前は相当に優れた指導者なのか?」


 尋ねたロバートに対し、ティナは小さく肩をすくめる。


「さあ、どうでしょう。それこそご自分でお試しになってみては?」


「試すって?」


「『リブーム』で対戦をするということです。ロバートさまが、私と『リブーム』の勝負をすれば分かると思いますよ」


 それに対し、彼は嘲笑あざわらった。


「はっ、ふざけるな。お前は『リブーム』の指導者だ。俺が勝てるわけがないだろう」


 ロバートの一人称が「俺」になる。もしかすると、こちらのほうが素なのかもしれない。

 そして彼は勝敗にこだわっているようだった。ティナは、ロバートに「私に勝ってみなさい」とは言っていない。「勝負をしましょう」と言っただけである。


(これは利用できそうね)


 ティナは、ふっと笑うとロバートに提案した。


「でしたら、私の指導を素直に受ければよいではありませんか?」


「何?」


「確かに最初は、あたなさまの指導をするつもりはございませんでした。しかし私は、ここにいます。昨日も申しましたが、あなたさまののお父上に雇われて『リブーム』の指導することになったのです。教える限りは本気ですから、手は抜きません」


「俺が、あんたに勝つ日が来るっていうのか?」


「さあ、それはやってみなければわかりません。ですが、『リブーム』というのは戦っていると相手のことも分かってくるものです。——どうでしょう。試してみますか?」


 ロバートは空色の瞳で、ティナを見定めようとする。

 彼女はただ静かに、ロバートが決断するのを待っていた。

 北風が吹く中、じっと待っていたので手が冷えてくる。内心「早くしてほしい」と思いながらも、口出しするとロバートが口を閉ざしてしまうような気がして、気合いでえる。


「……いいだろう」


 ようやっとロバートが答えを出したので、ティナはほっとする。とりあえずこれで、雇い主であるヴィヴェルシュの要望にはえそうだ。


「分かりました。お教えいたします」


 ティナが答えると、ロバートはテーブルのばんこまを指さしながら、近くにいた髪の短いメイドの一人に命令をした。


「おい、お前。これを片付けて、代わりに試合用のものを出してくれ」


「承知いたしました」


 彼女は命令通りすぐに動くと、テーブルの上の盤を持ち上げる。

 すると、近くにいた髪を三つ編みにしているメイドも傍に来た。駒もバラバラで入れ物もないため、一人で持って行くのが大変だからだろう。


 駒に関しては、普通、箱のような入れ物があるはずである。

 だが、それがここにはなかった。もしかすると、ロバートはここに持ってくる際に、箱から出して持って来たのかもしれない。


 髪の短いメイドがテーブルの上に置いてあった「リブーム」のばんを持ち、三つ編みの子が手にこまを持って行く。途中で、木陰こかげに隠れていた別のメイドが「手伝いますか?」と声を掛けていたが、二人は「大丈夫そう」と応えていた。


「では、少々お待ちくださいませ」


 頭を下げて二人で屋敷の中に戻ろうとしたときである。ロバートが「ちょっと待て」と言って引き止めた。


 二人のメイドはすぐに振り返ったが、少し戸惑っている様子である。何か不手際をしたのかと思っているのかもしれない。


 ティナも、ロバートが彼女たちを引き止める理由が思い浮かばず、何を言うんだろうかと見守っていると、彼はティナを指さして言った。


「この人に何か掛けるものを持ってきてくれ。見ているほうが寒い」


 ティナは目を見張る。

 先ほどまでロバートは、彼女を追い出そうと画策かくさくしていたはずである。そのため、気を使われるなど思いもよらず驚いてしまった。


 一方のメイドたちは、あまり表情を変えなかったが、安堵あんどしたような、もしくは少しばかり嬉しそうな様子で「かしこまりました」と応対し、屋敷の中に戻っていった。


 メイドたちが思ったよりも早く戻ってきてくれたため、ティナは毛皮のコートを羽織らせてもらう。


 冷たい風を通さないので暖かいのは間違いないが、あまりに上等なもので本当に使ってよいのか心配になった。


 そのため、髪の短いメイドに「本当に使っていいのですか?」と尋ねると、「大丈夫です。執事のクイーズリーさまが、『エジンさまに必要なものがあれば、この部屋から使ってよい』とおっしゃっていたところからお持ちしましたので」と笑顔で返事をされた。


 必要になることを、主人が見越していたのだろう。

 ティナを見つけ出した執念もさることながら、ヴィヴェルシュの用意周到さには脱帽だつぼうするしかない。


「さて、やりましょうか」


 ティナは気を取り直して、テーブルをはさんでロバートと向かい合って座った。もちろん、その上には、盤と駒が用意されている。


 今度こそ、試合でも使えそうなものだ。

 だが、木目が美しい盤に、白い石と黒い石を(正方形)(ひし形)(円形)(三角形)(星形)に切り出し、つるりと磨かれた駒は、一般人が手に入れるには難しい上等なものだ。ティナがウエイトレスをしていたころなら、三ヶ月分の給料を全てはたかないと買えない。


 しかし、これにまた文句を付けても仕方あるまい。この家にはこれしかないのだと割り切る。


 ティナは、箱の中に入った駒を取り出しながら、指導を始めた。

 

「ルールは分かりますか?」


「リブーム」をやるには、まずはルールを知っていなければならない。

 ティナは、ヴィヴェルシュの話を思い出す。


 ——あの子は、「リブーム」が好きみたいなんだけど、やってくれる相手がいないもんで、つまらなくしている。


 ヴィヴェルシュがティナを「リブームの家庭教師」として呼んだのは、「上達させるため」と「対戦相手として構ってやってほしい」ということだと思われた。そのため、ルールは知っているだろうと思いつつも、念のために聞いてみる。


 すると、ロバートはそっぽを向いてぼそぼそと答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。