第57話 光の分散
ロバートが静かにしている横で、ティナはガーネットの話を続ける。
彼女の質問に答えたのは、先ほどに引き続きコンラートである。
「んー……、これですか?」
指で示したのは、タルナート側にある黄色味がかった緑色の宝石だ。
「はい。それが『アンドラダイト・ガーネット』です」
するとタルナートが、コンラートが指さしたアンドラダイト・ガーネットをロバートのほうに移動してくれる。そのとき、部屋に差し込む日の光りを受けて、きらきらと光るのが印象的だった。
「すごく輝いている……。なんか、赤い色もちょっと見えるような……」
ぽつりと呟くと、ティナはそれに対して「光の分散が強い宝石なのです」と言った。
「光の分散……ですか?」
「はい。ちゃんと説明すると難しくなってしまうので、大雑把に申し上げますが、宝石の中で光の色が分けられるのです。日の光りには、色んな色が混じり合っています。赤、青、紫、黄色、緑……。そういう色が混じり合って、日の光りは白い光に見えているんです」
急に難しい話になり、ロバートはぽかんとしてしまう。
(日の光りって「白」だっけ……? 透明じゃないの? あれ、ちょっと待てよ。夕日は赤い色だから、透明でもない……か? どういうことだ?)
「……?」
「つまり、色んな色が混じって白い光に見える日の光りが、アンドラダイト・ガーネットになると色がバラバラになるのです。束ねた複数の色の紐が、この中に入ると解けると思っていただくと分かりやすいかもしれません。そして『赤い色』が見えるとロバートさまがおっしゃいましたが、それは白い光の中にある分散したうちの『赤い色の光り』が見えているのでございます」
「え、ええ……?」
ロバートは訳が分からず、コンラートのほうを見る。
すると彼は弟に見られていることに気づくと、微笑した。
「ロバートにはちょっと難しいかもしれないね。物理学の話だし」
「ぶ、物理……学?」
(って、何だ……。どういう学問の話をしているんだ?)
ロバートが首を傾げている一方で、兄はティナが何の話をしているのか分かっているようである。そうでなければ、このような言い方はしないだろう。
さらに父のほうを見てみるとうなずきながら話を聞いているし、タルナートに至っては「そこまで知っている宝石商も中々いませんよ」と絶賛している。
しかし、ティナは「聞き齧った話ですから」と言って微笑んでいた。
「……」
ロバートはこのとき初めて、ティナのことが「怖い」と感じた。
貴族でもなく、都市地主でもない。貧しい村で育ててもらった娘であると自分で話していたのに、宝石のことやロバートですら触れたことない学問のことも知っている。
どういう生き方をしてきたら、「主婦」と言いながら、貧しさも、貴族たちが知っているような知識も享受できるのか、彼にはまるで想像が付かなかった。
ロバートの心境など露知らないティナは、話を続ける。
「次に●。『デマントイド・ガーネット』という名前のものがあります。明るい緑色が特徴です。コンラートさま、また選んでいただけますでしょうか」
「そうですね……これですか?」
ティナの頼みにコンラートはうなずくと、彼女が言ったような特徴の持つ宝石を指さす。
色々考えることはあったが、ロバートは気を取り直して彼女の話に集中することにした。
「はい。合っております。実は『デマントイド・ガーネット』は、『アンドラダイト・ガーネット』の中でも特にはっきりとした緑色をしているものを言います。ですから『デマントイド・ガーネット』と『アンドラダイト・ガーネット』はかなり近い仲間なのです」
ティナがちらりとタルナートを見ると、彼は苦笑しながら「合っていますよ」とうなずいた。先ほどの蘊蓄の披露を見たからであろう。彼ですら「いちいち内容の確認しなくても大丈夫なのでは?」という気持ちが漏れ出ている。
それでもティナは、謙虚に「念のためです」と付け加えてから、今度は▲の話をし始めた。
「▲という駒の名前がありますが、これは『グロッシュラー・ガーネット』があります。色は無色が多いですが、物によってはピンクや橙色、茶色などがあります。ここには綺麗な橙色がありそうですね」
「ティナさんの目の前にあるものですね」
コンラートがティナの近くにある橙色の宝石を示した。
しかし、これまで登場した宝石に比べると透明度は低い。また長方形の形になっているので、形は整えられているようだが磨きが足りないせいか、輝きがいまいちである。
「はい、そうです。そして最後に★。『ウバロバイト』がありますが……、さすがにここにはないですね」
ティナは、タルナートが出した宝石類をざっと見て判断した。
ロバートには一瞬でどれがどの宝石かを見抜く力がないので、ティナの判断能力にいちいち驚いてしまう。
「……どうしてですか?」
ロバートがおずおずと尋ねると、ティナは次のように答えた。




