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宝石の駒  作者: 彩霞
第四章

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第56話 思い出と果実

「これだね。透明感のある赤い色が美しい。何て言うんだろう……深くて、でも、光が当たると柔らかい色が見えるような、そんな感じかな」


 ロバートは兄が指さしたものをじっと見る。

 彼の言う通り、透き通った赤い色の宝石だった。


(なんかこの色、どこかで見たことがあるような……)


 昔、母が一度だけ食べさせてくれたことがあった果実の実に似ている。

 幼かったとき見たので、てのひらに載せてもらったら大きくて中身がぎゅっと詰まったような重さがあった。そのままでは食べられないからとその赤い実を割ると、その中に沢山の種のようなものが入っていたのである。それが透明感のある赤い色をしていて、よく似ているように思った。


「ありがとうございます。……タルナートさん、コンラートさまが指さしたのは『パイロープ・ガーネット』ですね?」


 ティナが確認すると、タルナートは大きくうなずいた。


「その通りです。よくお分かりになりましたね」


 感心する彼に対し、ティナは困った表情で恐縮する。


「いえ、自信がなかったので確認させてもらいました」


「そうでしたか」


「ええ。それで……駒の名前の一つである(パイロープ)は、『パイロープ・ガーネット』に由来しています。コンラートさまがおっしゃったようにガーネットといえば、まず真っ先にこの宝石が思い浮かばれることでしょう」


「そうなのですか?」


 ロバートが尋ねると、父がうなずいた。


「そうだね。私も、ガーネットはこの印象がある」


「ふぅん……」


「『パイロープ・ガーネット』に対して少し付け加えますと、パイロープというのは古い外国語である『ピロポス』と言うのが語源で、それが変化してパイロープと言われたそうです。『ピロポス』には『火のような』という意味があり、昔の人が『パイロープ・ガーネット』に炎を連想していたことが想像されます」


「炎……? 僕はてっきり赤い果実くだものに似ているので、その名前かと……」


 ティナは「え……?」と少し驚きの声を出すと、タルナートとちらりと見る。二人は視線を交叉こうさささせ、目で何かを会話すると、タルナートがこくりとうなずいた。


(何? 変なことでも言ったのか?)


 二人の態度に首を傾げていると、ティナはロバートのほうを向いて言った。


「ロバートさま、もしかしてそれは『グラナトゥス』という果物では?」


 ロバートは目をぱちくりさせる。

 ティナがそう言ってくれたのはいいが、自分は過去に見た果実がどういう名前だったのかが分からない。母が教えてくれたようにも思うが、一度しか食べたことがなかったし、二度と食べることもないと思っていたので積極的に覚えようと思わなかった。


「『グラナトゥス』?……あの、実は果物の名前自体は知らなくて……。でも、前に見て、ちょっとだけ食べたことがあるだけなんですけど、それに似ているなって……」


「『グラナトゥス』は、赤い皮をした実の中に、沢山の小さな赤い仮種皮かしゅひに覆われた種が入っているんです」


仮種皮かしゅひ?」


「種の表面を覆っているものです。それが果肉のようになって食べられるものがあり、『グラナトゥス』はその一種なんですよ。ええと……、その果実は赤い実をぱかっと割ると、その中からつやつやと光る赤い粒が出てきませんでしたか?」


 それなら分かる、と思ったロバートは、首を縦に振った。


「出てきました」


「では、ロバートさまが見たという果実は『グラナトゥス』で間違いないですね。実は『ガーネット』の由来は、『グラナトゥス』からきています。ですから、ロバートさまがおっしゃったように、『グラナトゥス』の仮種皮かしゅひに色が形が似ていることから、その名が付いたんです。今は『ガーネット』と『グラナトゥス』では同じものを示しているようには聞こえませんが、時代を経て言葉が変化し、『ガーネット』と言われるようになったのです」


「そうなのですね……」


「ええ」


(そっか。じゃあ、俺が感じたことは間違いじゃなかったんだ……。それにしても、何だか不思議だ……)


 ロバートは目の前の「パイロープ・ガーネット」を見つめて思った。

 まさか過去に食べたことのある果実の名前が、ガーネットの由来に繋がるとは思っていなかったので驚いたのと同時に、これまで閉じていた母との大変だった生活の中に少しだけ明かりが灯ったような気がしたのである。


 その理由は、ロバートにも分からない。

 今の生活と、母との生活はまるで違うし、母と食べた果物とガーネットという宝石が名前で繋がったからと言って、何かが変わるわけでもない。

 しかし、過去と今との間に小さな接点を見つけたことで、ロバートは少し安堵あんどしたのかもしれなかった。


「話がれてしまいましたが、ロバートさまが先ほどされた質問に戻りますね。『独立したガーネットの名前』について再び説明いたします。今、『パイロープ・ガーネット』についてお話いたしましたから、次は(アンドラダイト)に注目しましょうか。……ガーネットの中には、『アンドラダイト・ガーネット』というものがあります。少し黄色味がかった緑が特徴的です。タルナートさんが出してくれた宝石の中にあるのですが、どれか分かりますか?」

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