第53話 スマラグティ
「スマラグティ……」
「はい、そうです」
ロバートの呟きに、タルナートは宝石を出しながらうなずく。
彼は計五顆の、似たような緑色の宝石を布の上に載せた。どれもこれも正方形の四つの角を切り落としたような形をしている。
ただ、指輪にはついていない。きっと、この中から宝石を選んでから、コンラートに合うように作ってもらうのだろう。
「スマラグティは、緑色の美しい宝石です」
「地域によっては、『スマラグドス』とか『エメラルド』と呼ばれることもあるんですよね」
タルナートの説明に、コンラートが付け加えた。商人は客の反応に嬉しそうに笑う。
「ええ、おっしゃる通りです。そして、スマラグティは宝石の中でも特に人気が高いのです。古くから王族たちの間で装飾品として使われてきたこともあり、歴史的価値もありますし、そももそもこの吸い込まれそうな美しい緑色に皆さん釘付けになるようで、男性でも女性でも、スマラグティを求める人たちは多いですね。それと、最近新たな鉱脈が見つかったので市場での値段は安定しています」
「これは新しい鉱脈から見つかったものですか?」
「薄い緑色をしたものが、新しい鉱脈から見つかったものです。それ以外は以前から多く取り引きされているムルー・ラルゾー鉱脈のものですね。この鉱脈で産出された宝石こそ、『スマラグティ色』と呼ばれるような、スマラグティの中のスマラグティと言ったところでしょうか。スイングラー家のご子息の方でしたら、伝統あるほうの鉱脈の品物のほうがよいかと思い、こちらのほうを多く用意いたしました」
「なるほど……」
兄が相槌を打っているとき、ロバートは小さな声で「へぇ……、そうなんだ」と言った。
関心があったわけではない。しかし、宝石商がいる手前でつまらなそうにしているのは良くないと思ったため、興味を持ったふうに装ったのある。
レイモンドのように、この状況を見ている使用人の誰かに何か言われないでもない。そう思ったための演技だったのだが、耳聡く聞いていた兄が嬉しそうな笑みを浮かべて弟を見た。
「ロバート、こっちにおいで。ここのほうがよく見える」
「あ、いえ、そんな、僕はここで十分——」
「それがいい。そうしなさい」
ロバートが断る前に、ソファの後ろで立って様子を見ていた父がとにこやかな笑みを浮かべて勧める。こうなっては断ることもできない。
「……はい、ありがとうございます」
ロバートは、渋々《しぶしぶ》と兄の隣に座る。
一方のコンラートは嬉しそうだ。
「どう? きれいだろう?」
わくわくした明るい声で言っているのを見ると、さすがのロバートも愛想のない態度を取るのはできそうにない。
ロバートは少し笑ってうなずいた。
「……そうですね」
「これなんか見てごらん。透明度がとても高いのに、濃い緑色をしている。あの、タルナートさん、手に取ってみてもいいですか?」
「どうぞ」
コンラートは一つ手に取って、ロバートにそれを見せた。
一センチよりも少し大きい程度のそれは、兄が言うように透明度が高く緑色が濃かった。まるで夏の木々の葉を集めてぎゅっと閉じ込めたかのように鮮やかである。そして中にある細かい傷のようなものが光に当たって、角度を変えるごとにきらきらと輝いていた。
「気に入った?」
尋ねてくる兄に、ロバートは困った笑みを浮かべる。
「……気に入ったと言いますか、兄上の指輪を作るためのものなんですよね?」
「僕も作るけど、ロバートも作っていいんだよ」
「ですが、そういうつもりでここにいるわけではありませんし……」
「うーん、ということはロバートにとっては、スマラグティはピンとこないということだね」
「いえ、そういうわけでは……」
「タルナートさん、他のも出してもらえますか?」
「ええ、もちろんです」
ロバートの言葉などそっちのけで、コンラートがタルナートと話を進めてしまう。そのうちに、宝石商は赤や青はもちろん、黄色や薄桃色などの宝石を布の上に出したため、テーブルの上は宝石を収集しているような状態となってしまった。
(こんなに出してどうするんだ……)
宝石に興味のないロバートは内心ため息をついていると、コンラートが「ガーネットはどれですか?」と尋ねたのである。
その瞬間、ロバートは頭の隅で何かに引っかかるように感じた。
宝石に興味のないはずなのに、その名前は知っている。何故だろうと思っていると、コンラートがティナを見て問うた。
「ティナさんは、ガーネットに関してなら詳しいですよね?」
ロバートはゆっくりと目を見開く。
(そうか、分かった……)
彼は気づいた。
「ガーネット」とは、リブームの勝者が口にする言葉だということを――。




