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宝石の駒  作者: 彩霞
第三章

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第48話 兄

 馬車がスイングラー家の前に着くと、意外なことにクイーズリーが門前に立って出迎えていた。


「お帰りなさいませ、コンラートさま」


 青空の下に降り立った後継者を、クイーズリーはまぶしそうに見つめていた。その様子を見て、ロバートはハッとした。

 今日会う宝石商は、クイーズリーが手配していたと兄は言っていた。ということは、彼はコンラートが帰ってくることを知っていたということだ。


(……何で言わなかったんだろう)


 ロバートはクイーズリーを見てそう思う。


 確かに自分はティナと出掛ける予定をしていた。そのため、コンラートが帰ることを伝えなかったというのも可能性としてはある。


 しかし、スイングラー家の後継者が帰ってくるのだから、屋敷全員が知っていていい話ではないだろうか。しかも、ロバートは腹違いの弟である。兄が帰ってくることを知らされないということがあるのだろうか。


 そもそもコンラートが帰ってくるのであれば、数日前に事前に連絡があったはずである。

 ロバートは、都市地主の子息として過ごす時間はまだ半年程度だが、屋敷内のそのくらいの仕組みなら分かっているつもりだ。


(俺に対する気遣い……とか? まさかね……)


 ロバートは一人で、口の端をゆがめて小さく笑う。

 兄に関心があったわけではないし、会わなくて済むならそれに越したことはないとは思っていたが、だからといって帰ってくる日を黙っているというのはあまり気分のいいものではない。のけ者にされたような感じがしたからだ。


「ただいま、クイーズリー。久しぶりだね」


 ロバートの気持ちなど露知らないクイーズリーは、コンラートとの再会を喜んでいた。


「そうですね、三ヶ月ぶりくらいでしょうか。ご立派になられて……」


 感涙しそうになる執事に対し、コンラートは苦笑するような声で「三ヶ月で立派になんかなるもんか」と茶化した。


「いえいえ、そんなことはございませんよ。スイングラー家に仕える者として、素晴らしい後継者がいらっしゃることは何より嬉しく誇りに思います」


「そう?」


「ええ」


「まあ、クイーズリーにそこまで言われるのは悪くない、かな……」


「そう言っていただけると光栄にございます」


 クイーズリーはにこりと微笑ほほむと、その顔のまま「ところで」とコンラートに尋ねた。


「コンラートさまの馬車に、エジンさまとロバートさまがいらっしゃるのはどういうことでしょうか……?」


 話している最中に、ロバートとティナが乗っていることに気づいたらしい。

 コンラートは「ああ、それはね」と言って、弟たちのほうをくるりと振り返ってから説明をした。その間に、ティナとロバートは、さりげなく近寄ってきたカインに手を添えてもらいながら馬車から下りる。


「僕が大通りを通って帰ってくる途中で、スイングラー家の馬車が小道に入って行くのが見えたんだ。それでちょっとついて行ってみたってわけ。そうしたら、ロバートと、リブームの家庭教師をしているティナさんと会ったんだよ。——そうですよね、ティナさん?」


 コンラートは、馬車から下りたティナににこりと笑う。聞かれたほうは、ほほを引きつらせて笑った。


「え、ええ……」


(大丈夫かな……)


 ティナの様子を心配しつつも、ロバートは兄のことも観察していた。


「兄」がいることは知っていたが、ロバートはずっと会ったことがなかった。

 七歳のときにスイングラー家に引き取られてから、十五歳になるまで一度も会う機会がなかったのである。


 父が会わせようとしなかったのかもしれないし、コンラートがロバートに会いたくなかったのかもしれない。もしかすると、その両方があったのかもしれなかった。


 無理もない。ロバートははっきり言って、婚外子である。

 父は世間に「息子であること」を示していないロバートを、どう扱ったらいいのかを考えあぐねていたのだろう。


 別邸で生活させていたのも、スイングラー家の繋がりを強くさせない理由があったのかもしれない。

 ロバートは、セレイアヌという珍しい見目をした者たちの血を引いた子どもである。

 見た目はきれいかもしれない。

 だが、少数民族という卑しい目で見られる血を引いた子どもを都市地主であるスイングラー家の一員にして、家に不都合が起きないかを考えていたのではないか、とロバートは思うのだ。その証拠に「スイングラー家の子息」としての生活をさせられていたにもかかわらず、この家の一員として認められていなかった。


 それが急に変わったのは、半年前。スイングラー家の養子として迎え入れられたのだ。

 父とは血が繋がっているはずだが、養子にされたのは何となく理由は分かっていたつもりだった。きっと自分が父の血を引いているとなると、色々不都合があるのだろうと。


 しかし、理由を聞いたらそうではなかった。


 兄が、「ロバートを養子にしたほうがいい」と進言したというのである。


 そう思ったとき、ロバートはコンラートに嫌われていると思った。きっと、半分血が繋がっていること自体、面白くないのだろうと。

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