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宝石の駒  作者: 彩霞
第三章

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第47話 共通点

 コンラートの誘いに、ティナは困った笑みを浮かべて一言尋ねた。


「……何故……、同席しなければならないのでしょうか?」


 きっとティナは、彼の指輪を新調する席にそぐわないと思ったのであろう。話を聞いていたロバートですら同感だった。


 しかし、兄はティナの問いを気にすることなく続ける。


「クイーズリーが手配した宝石商です。りすぐりの宝石を持ってきていると思うのです。普通は見られない色んな宝石が見られますよ」


「いえ……、そうではなく、コンラートさまが私を誘う理由がないかと……」


「どうしてです?」


 不思議そうに問うコンラートに対し、さすがのティナも面食めんくらった表情を浮かべた。


「コンラートさまは、初対面の方を宝石商との商談に連れていかれるのですか?」


(そっか。初対面なんだ)


 ティナとコンラートの会話を見ていると親しそうに話をしているので面識がありそうに見えていたが、今日初めて顔を合わせた者同士らしい。ロバートはそれを聞いて何となくほっとする。


「スイングラー家と関りのある家庭教師でしょう」


 コンラートはにこやかに言う。


「そうですが、コンラートさまとの接点はこれまでございません」


「ええ、それは残念に思います。父上に聞きました。あなたは優れたリブームの教師であると……。私もあなたにリブームの手ほどきを受けたかった」


「おたわむれを」


「本心から言っていますよ。折角ですし、リブームの話もしたいです」


「そういうことでしたら日を改めていただけますと助かります」


「宝石商が来るのは今日なんです。宝石には興味ありませんか?」


「ございません」


「そうですか」


「ええ」


「ですが、あなたはロバートのリブームの家庭教師なのですよね?」


 コンラートは、にっこりと笑う。

 すると、ティナは何かに気づいたように目を丸くすると、言い返そうと思って開いた口を閉じた。


「……」


「黙っていらっしゃるということは、僕の言いたいことが分かったということですね?」


 コンラートの問いに、ティナはりんとした声で進言する。


「恐れながら申し上げますが、指輪を新調されるという大事なときに、私のような関係のない者が同席していいとは思えません。きっと当主さまもクイーズリーさまも納得してくださらないのではないと思います」


「いいえ、それは大丈夫です。僕が話せばすんなりと事は進むと思いますよ。ロバートのことを思えば、ね……」


(俺?……俺が関係しているって?)


 一人だけ話しが見えず、ロバートはきゅっと眉を寄せながら二人の会話を聞いていた。


「……」


「もちろん、休日手当てもきちんとお出ししますよ」


 ティナはうつむいて目をつむったのち、心を決めたように顔を上げる。その顔には、ほんの少し厳しさが浮かんでいるように見えた。


「……分かりました。そのお誘い、お受けいたします」


「えっ」


 驚いたのはロバートである。ティナが首肯しゅこうするとは思わなかったのだ。


(何で、簡単にうなずくんだ……)


 彼女に「うん」と言わせることは難しい。今日のお出かけも、クイーズリーに手をまわしてもらってようやく決まったことなのだ。その上、ティナが泊まっている部屋の前で説得もしなければならなかったのに、兄の誘いは大した交渉もなく受け入れてしまった。


(どうして?)


 しかもロバートは未だに、コンラートとティナの会話の真意が分からなかった。

 説明をしてもらおうと思い、ロバートが二人を交互に見ていると、兄は笑ってロバートに言う。


「そういうことだから、ロバートも同席してくれるね?」


「え? で、でも……」


 突然話がこちらに回ってきて、ロバートは困惑した。ティナのほうを見ると、これ以上は何も言わないつもりなのか、だんまりを決め込んでしまっている。

 しかしここで断ってしまうと、今日、ティナと一緒にいる時間はここで終わってしまうに違いない。


(俺もあんまり宝石には興味ない。けど……それはそれでいいかもしれない)


 ティナも宝石には興味がないと言っていた。関心のない者同士部屋のすみでお喋りができると思い、ロバートは彼女の横顔を気にしながら「うん……」と答えた。


「決まりだね」


 コンラートは満足そうに微笑むと、自分の後ろにある馭者ぎょしゃ側の窓を軽く叩き、「このまま本邸ほんていへ帰ってくれ」と命令する。

 すると馭者の隣に座っていたカインが「かしこまりました」と返事をした。


 馬車は小道を通り抜けると、二度左に曲がって大通りに出る。ここを真っすぐに進めばスイングラー家へ着く。


 しかし、屋敷に着くまでの間に三人の会話はなかった。車内の雰囲気があまりよくなかったからである。


 ティナはうつむまぶたを閉じ、さらには口を閉ざしていた。「話しかけないでほしい」という気持ちがひしひしと伝わってくる。コンラートが無理矢理誘ったことに怒っているのかもしれない。


 しかし、兄のそのような態度を責めるわけにはいかなかった。というのも、自分も全く同じことをしているからである。


(まさか、こんなところが似ているなんて……)


 二回目の対面で、腹違いの兄との共通点を見つけるとは思っては見なかったが、ロバートはあまり嬉しくはなかった。


 それよりもティナの態度が気がかりで、スイングラー家に着くまで気持ちが落ち着かなかったのである。

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