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宝石の駒  作者: 彩霞
第三章

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第46話 次の予定

「今日は、何用であのお店にいたのですか?」


 ロバートが窓の外を見ている間に、コンラートはティナに尋ねた。


「特にこれといって用があったわけではないんです。実を申しますと、本日私は休みの日でして……」


「そうなのですか?」


 コンラートは少し驚いたふうに聞き返す。ティナは苦笑交じりに「はい」と答えた。


「では、何故ロバートと?」


「そうですよね……」


 ロバートは、二人の視線が自分に向くのを感じる。

 ティナが「授業が休みの日まで教師の顔を見たいという生徒はおりません」と言っていたように、やはり教師の休日まで生徒が会いに行くというのは変わっていることらしい。

 彼は振り向くと、ティナの代わりに兄の質問に答えた。


「俺が、この人が休日にどこに行くのか知りたかったから付いて行っただけだよ」


「『この人』?」


 コンラートはロバートのことをじっと見て聞き返した。

 家庭教師なのだから「先生」というのが普通なのに、そう言っていなかったので気になったのかもしれない。


「いちいち説明させるなよ。……『先生』だってば」


 むすっとして言い返したが、コンラートは気にしたふうもなく、納得したようにうなずいた。


「ああ、なるほど」


(そういえば、コンラートは何で怒んないんだろう?)


 結局兄は、「家庭教師の方なのだから『先生』と言いなさい」と言い直しを求めるようなことはしなかった。


 他にも疑問はある。


 一人称は「俺」になっているし、彼のことを「兄上」や「兄さま」と呼ばない上に、敬語も使っていないのだ。それらの点をとがめても不思議はないはずなのに、彼はこれまで何も言ってこない。


(変なの……。まあ、俺にとっては楽でいいけど……)


 コンラートのことは、半年前に「兄」であることを紹介されたばかりである。


 しかも、ロバートが本邸ほんていに移ってから一度として帰ってきたことがない。


 まともに話したのは今が初めてであるし、コンラートのほうが腹違いの弟の気持ちを感じ取っているのか、それとも細かいことに頓着とんちゃくしない性格なのか、「兄上と呼べ」と言われなかったのはロバートにとって助かっていた。


「ティナさんは、よく行かれるのですか?」


 コンラートが尋ねると、彼女は短く「はい」と答える。


「何か収穫はあった?」


 兄は次に、ロバートに聞いた。

 収穫も何もない。知ろうとした手前でレイモンドに文句を言われ、兄が登場し、今に至るのだ。


「何も」


 ロバートが短く答えると、次にコンラートはティナに尋ねた。


「ティナさんも? お買い物などはされなかったのですか?」


 すると彼女は少し曖昧あいまいに「……そうですね」と言った。ロバートはそれをぼんやりと聞いていると、コンラートがさらに質問を続ける。


「そうでしたか。あまり欲しい物がなかった……ということでしょうか?」


「古物商ですからね。いつどういうときに自分の欲しいものが入ってくるかは分かりませんから」


「なるほど。……ところで、これからのご予定は?」


「特にありません」


 コンラートの問いにあまりにあっさりと答えるので、さすがのロバートも口をはさんだ。


「え⁉ 古書店に行かないの? さっき『次のお店に行かないのか』って言うから、付いて来たのに……」


「申し訳ありません。私もそのつもりだったのですが、これはコンラートさまの馬車ですので、このまま古書店に向かっていただくのは気が引けると思いまして……」


 ティナは少し困ったようにロバートを見ながらそう言った。兄の馬車だからなんだというのだ。


「だから何?」


「コンラートさまにも予定があるのではないかと……」


 ティナがちらりとコンラートを見ると、彼は苦笑する。


「まあ、そうですね……」


 ロバートは二人の顔を交互に見、そしてコンラートに視線を合わせると戸惑った様子で言った。


「ええ……? 予定? じゃあ、何でコンラートは『ハリル』に来たんだよ」


 予定があるなら、スイングラー家の馬車など見つけて追いかけるなどしなければよかったのではないか。そう思っていると、コンラートもやんわりとした口調で言い返してくる。


「だからそれは、うちの馬車があまり通らないような通りに入っていったから、気になって追いかけたっていっただろう?」


「あと、勝手に俺たちをこの馬車に乗せたのはコンラートだ。何で俺たちが今日の予定を諦めなくちゃならないのさ。僕は古書店に行く。行くったら行く!」


 やっとの思いでティナの休日に付いていけたのである。ここで終わりにしたくない。


「ロバートさま、落ち着いて……」


 ティナがロバートをなだめようとしていると、何かを決めたような目をしたコンラートがティナを見つめて言った。


「あの、ティナさん」


「え? はい」


「休日ではあるのですが、これからスイングラー家に行きませんか?」


 ティナは目をしばたたかせ、困ったように「ええ?」と聞き返す。

 コンラートはさらに続けた。


「これから宝石商が我が家に来ることになっているんです。僕の指輪を新調することになりまして、よかったら一緒に見ませんか?」

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