第41話 苦手な相手
「……」
ロバートはティナの顔を見上げる。その様子を見て、ロバートは「あのさ」と声を掛けた。
「何でございましょう?」
「さっきの……その……、木の盤と駒が欲しいの?」
ティナは小首を傾げた。
「何故そのようなことを?」
「欲しそうに見えたから。違うの?」
「違いますよ」
ティナは即答したあと苦笑する。ロバートは納得がいかず、「本当に? これっぽっちも欲しいと思わないの?」と続けて尋ねた。
「はい」
もう少し答えに詰まるだろうと思ったが、予想とは反対にあっさりとうなずかれてしまいロバートは面食らう。
(食い入るように見つめていたのに、どうして欲しくないんだ?)
こうなってくると逆に「どうしてほしくないのか」を聞きたくなってしまうではないか。だが、あまり聞きすぎてもティナに変に思われそうな気がする。
「……そうなんだ」
諦めて呟くと、逆にティナが質問した。
「ロバートさまこそ、何か見たいものはないのですか?」
「見たいもの?」
「そうですよ。折角来たんですから、私に気にせずに見てください。お気に召すものがあるかもしれませんよ」
ティナはそう言って、ロバートから離れる。
自分が傍にいると、ロバートが自由に動けないと思ったのかもしれない。
だが、ロバートにとっては余計なお世話だった。彼はティナの興味があるものを知りたかったのである。
彼女にとってリブームが面白いものであることは分かる。だが、それ以外を知らない。そのため、他にどういうものに関心があるのかを色んな商品を扱っている古物商を一緒に回ることで分かると思ったのだ。
世の中、思った通りには動かないものである。
(ちぇ。……結局、上手くいかないや)
ロバートがむすっとしていると、今度はレイモンドが音もなく傍に寄って来た。スイングラー家の子息を一人にするわけにはいかないからであろう。
(仕方ない、適当に歩くか)
そう思って棚の間を歩き始めると、当然レイモンドも一定の距離を保って付いてくる。付かず離れず。ロバートがきゅっと棚を曲がると、同じようにきゅっと曲がってくる。ゆっくり歩き始めると同じようにゆっくりと歩き、素早く歩き出すと同じように素早く歩き出す。
(面倒くさいなぁ……)
フットマンとしてはできる男なのだろうが、ロバートは何となくレイモンドが苦手に感じた。
クイーズリーやメイドたちのように毎日接しているわけではないので慣れていないというのもあるが、にこやかな笑みの下で何を考えているのかが見えないのである。
逆を言えば、レイモンドにとっても、ロバートは「得体のしれない子」なのかもしれない。
譬えスイングラー家当主の血を引いているとしても、少数民族出身の女性との間にできた子どもというのはあまりいい印象はないのではないか。
ロバートはそんなことを思う。
興味のある商品を探すためにお店の中をぐるぐる回っているうちに、いつの間にか先ほど見ていたリブームの商品が置いてある一角に辿り着いてしまった。レイモンドが何も言わずに付いて来るので、立ち止まるに立ち止まれなかったせいでもある。
「……」
とはいえ、また店の中を歩き回るのもしたくない。そのためロバートは木製でできたリブームの盤と駒を見ることにした。
少しの間その商品を見ていると、黙っていたレイモンドが初めて「ロバートさま」と声を掛けてきた。
「何?」
彼はレイモンドのほうを見ずに返事する。
「木製の盤と駒をご所望ですか?」
「だったら何?」
「旦那さまに頼めば新品のものを買うことができるかと。わざわざここで買う必要はございません」
素っ気ない物言いだった。
ロバートは何となくそれが引っかかって、レイモンドを鋭く睨みつけると「は?」と聞き返す。
だが、彼は意に介すことなく平然と同じことを言った。
「旦那さまに頼めば新品のものを買うことができますよと申し上げました。こんなところで品物を見定めなくとも、ちゃんとしたお店に行けばよいではありませんか」
「ちゃんとしたお店って?」
「新品を取り扱っているお店でございます」
ロバートは彼の者の言い方が不快に感じ、きゅっと眉を寄せる。
「レイモンド。お前のその言い方だと、ここは『ちゃんとしたお店ではない』ということのように聞こえるが?」
するとレイモンドはすっとロバートとの間合いを詰め、耳元で「はい、そのように申しております」と言った。
ロバートは彼のほうを見て目を見開く。
「『心外』……と言ったご様子ですね」
レイモンドは感情の籠らぬ声で言った。心を見透かされている。それが気に入らず、彼は視線を逸らした。
「別に……、そんなはっきりと言わなくてもいいんじゃないかって思っただけだ……」
(先生がよく来るお店なのに……)
仮にもスイングラー家の子息であるロバートに、リブームを教えている人が利用している店だ。卑下するようなことを言う理由がない。
するとレイモンドは他の人に聞こえないような、小さな声で言い募った。
「あなたはご自身のお立場をお忘れになってはいけないのです。都市地主のご子息なのですから、それ相応に振舞っていただくてはなりません。それにもかかわらず、あなたは我儘ばかり。旦那さまやクイーズリーさまがどれほどご苦労されているかお分かりですか?」




