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宝石の駒  作者: 彩霞
第三章

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第40話 木製の盤と駒

 それはリブーム盤と駒が、木でできている商品だった。

 白い木を使っており、盤は塗料などが使われていないためか、触ってみると木の手触りがそのまま残っている。

 また、木目が美しい。その上に黒いインクで縦と横に線が引いてあり、三十六個のマスが作られていた。


 駒も木でできているようだったが、白と黒の駒の色分けは、表面に塗っているニスの種類を変えることによって分かるようにしているらしい。よって盤のような肌触りはないが、石で作られたものに劣らず美しく、そして柔らかい光沢が出ていた。


「木でできたものもあるんだね」


 ロバートが感心していると、ティナも興味津々で同じ商品に目を向ける。


「珍しい……。店が近くにない村などでは木を使って手作りすることはありますが、きちんとした商品のものでは木の素材の盤と駒はほとんどないんですよ」


「そうなの?」


「はい」


「そうなんだ……」


 ロバートはうなずきながら、ティナの横顔をちらりと見る。懐かしいものを見るような、優しい顔をしていた。


(そういえば、養父ようふさんのところにいたときは木の盤と駒を使っていたって言っていたな……)


 もしかするとティナは、リブームが楽しかったころのことを思い出しているのかもしれない。

 そう思っていると、二人の間に声をかける者がいた。


「お客さま、リブームの盤と駒が気になっておいでですか?」


 声がしたほうに顔を向けると、茶色いスーツに身を包んだふくよかな体型の店員がロバートたちの傍にいた。

 どう答えたらいいだろうかとロバートが困っていると、ティナが代わりに応対してくれる。


「木でできたものが珍しかったものですから、魅入みいってしまいました」


「お目が高いです、お客さま。こちらはムイクの木からできているものでして、おっしゃるように木材でできたリブームの盤と駒はほとんど市場はでておりません。ですから、中々手に入らない逸品いっぴんなのです」


 ティナがドレスを身にまとい愛想のいい笑みを浮かべたためか、店員は金持ちだと判断したらしい。彼はにこにこと微笑んで商品の説明をした。


「ムイクですか……。なるほど……」


 ティナが一人でしみじみしているので、ロバートは彼女のドレスを少し引っ張って「……『ムイクの木』って、何?」と尋ねた。木の種類まではさすがに分からない。


「セルディア王国の森で取れる木材です。切り出すとこうして白っぽい断面が見えるのが特徴でして、家具などに使われることが多いんですよ。でも、どちらかというと硬いので加工がしにくいので、こういった細かいものには中々使われません。——そうですよね?」


 確認するように店員に聞くと、彼は大きくうなずいた。


「はい、その通りでございます」


「そうなんだ」


「ですが、どうしてこのような貴重ものが売りに出されているのでしょうか……?」


 木でできた盤と駒の商品がそもそも少ないということは、売りに出されることも少ないのだろう。

 そのため不思議そうにティナが尋ねる。


「お売りになった方の話にお話をお聞きしましたところ、何年か前にどなたかからお礼でもらったものだそうです。ですが、その方々はリブームをされないらしく、ずっと物置に布を掛けてしまわれていたそうなんですね。使ってくれる家族も親類もいないし、知り合いでも欲しいという人がいないというので、先週うちの店に持ち込まれたのです」


「そうでしたか……」


「リブームというのは、大理石の盤に白い石と黒い石で作られているものが主流ですからね。庶民が持っているものが木材でできている盤と駒ですから、貴族の方や商人の方には好まれないのでしょう。その方は高貴なお方のようでしたから」


「『好まれない』という割に、それなりの値段がついているが?」


 すると、いつの間に傍にいたのか、ひょこっと出てきたレイモンドがティナと店員の間に割って入り、値札を指して言う。よく小さい値札が見えたなと思ったが、彼の示す数字を見てみると十万レイル(=約十万円)の値がついていた。


「十万……」


 値札を見たティナは目を丸くしている。

 ロバートには、リブームの盤と駒の相場がよく分からなかったのだが、彼女の反応を見れば高い値付けであることは一目瞭然いちもくりょうぜんである。

 すると店員は得意そうに高値を付けた理由を説明した。


「一部の収集家に人気の品なのですよ。しかもこの品に限っては、細部に至るまで緻密ちみつです。先ほどおっしゃったようにムイクの木で作られたものは、加工が難しいのです。それにもかかわらずきちんと削られていますし、表面も奇麗に磨かれています。見事な手工芸です。ですから、この値段を付けさせてもらっています」


「そうでしたか」


「もしよかったら、お手に取ってじっくり見てみてはいかがでしょうか?」


 店員の誘いに対し、ティナはにこりと微笑んだ。


「いいえ、十分見させていただきました。ありがとうございます」


 そう言ってぺこりと頭を下げると、店主の傍から離れた。ロバートとレイモンドも付いて行く。

 出入り口付近にある食器などの陶器類が並んでいる一角に来ると、ティナはようやく止まり、リブームの商品が置かれた方向に視線を向けて小さく息をついた。

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