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宝石の駒  作者: 彩霞
第二章

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第25話 決められた将来

 ティナの言葉に、ロバートは鼻で笑った。


「あんたに、俺の未来が分かるっていうのか?」


「いいえ、『分からない』から申しているのです」


「……はっ、何を言っているんだが……」


 ティナはロバートの態度に構わずに、話を続けた。


「現には私は、養父《ちち》に教わっているときに、リブームを人に教えるなんてことは全く想像していませんでしたし、まさかスイングラー家のご子息であるロバートさまに、リブームを教えることになるなど、当主さまにお声がけをしていただくまでは考えたこともございませんでした」


 生みの親が、ティナの兄弟を一人、また一人を売って生活をしているころには、まさか自分が「リブーム」というゲームをするなんて思ってもいなかったし、養父に「リブーム」を教えてもらっているときでさえ、誰かに教えることでお金を得るようになるなどこれっぽっちも考えたことなどなかった。


 闇取引《オウルス・クロウ》に出入りしていたときは、生きるのに精いっぱいで、リブームを楽しむ余裕すらなかった。


 それが今はどうであろう。


 スイングラー家の家庭教師となって、ロバートにリブームを教えている。


 だから、ロバートだってどうなるか分からない。


 この先、ティナが彼への指導が終わったあと、リブームを誰ともせずにいるのかもしれないし、友人たちと嗜《たしな》むのかもしれない。親友ができて、夜までのみ明かしながら、リブームを知らない友に教えることだってあるかもしれないではないか。


「ですから、ロバートさまだって分からないではないですか。今後、リブームを知らない人と出会って、その人に教えるかもしれませんし、教えたら友人になるかもしれません。友人になれば、時折リブームを打つ相手になるということもあるでしょう」


 すると、ロバートはふいと視線を本棚のほうへ向ける。


「あんたはそう言うけど……、そんなことはきっと……起こらないって……」


「どうしてですか? この先のことは分からないと申したばかりではありませんか」


 ティナがそっと尋ねると、彼はぽつり、ぽつりと言葉を零《こぼ》した。


「いいや、分かる。大体、俺のすることは決まっている。ここに来る前までは、毎日同じように過ぎていった。まるで判を押しているかのように……。スイングラー家に来てからは生活は一変したけど、ほとんど予定通りの毎日さ。今の暮らしは、以前よりも変化はあるけれど、何が起こるか分かっているんだ。今日、あんたがここに来ることだって分かっている。そして俺はまた一日あんたとリブームの練習をする。その間に、誰かと会っている暇もない。外に出ることもない。いつも父上の言われた通りにしているだけ……」


「ロバートさま、それは……」


「あんたがここに来ているのだって、父上が頼んだからだ。俺は父上の望んだとおりに動いている。あんたも、俺の父上の頼まれた通りに動いている……。だから、『分からない』なんてことはないんだ。俺には分からなくても、父上には分かっている。そして父上は、俺が誰かに習ったリブームを教えることなんて考えちゃいない。だから、そんなことはないと言ったんだ」


「……」


 ティナは返答に窮《きゅう》した。

 この子は、思っている以上に自分の立場を理解している。


(私は、当主さまのことを誤解していたのかもしれない……)


 ヴィヴェルシュは、息子に優秀なリブームの教師を付けるために、わざわざ「盤上の王」という異名を持つティナを探し出して家庭教師の依頼をしにきた。

 当のティナは高い給金を吹っ掛けているし、嫌な態度を取っている。

 名のある都市地主なら、虚仮《こけ》にされて腹の立つところだろうが、彼は彼女に頭まで下げたのである。普通はそこまでしない。


 ゆえに、ここまで手をかけるのは「ずっと一緒に生活できなかった息子のために、自分ができる精一杯のことをしようとしてのこと」だと思っていた。


 もちろん、ヴィヴェルシュのその考えはあるとは思う。


 しかし「スイングラー家」をなしに、ヴィヴェルシュとロバートの関係は語れない。

 ロバートは後に、スイングラー家の一員として社交界に出るのだろう。そのときに家に泥《どろ》を塗ることにならないように、当主はロバートを「立派な息子」にするために心血を注いでいる。よい家庭教師を付けようとするのもそういう理由だ。


 同時にロバートは父が望んでいることを分かっている。そして、それに従えば自分はどんどんここに縛《しば》られていくことも――。


(ロバートさまが、家庭教師たちを拒否していたのって……、もしかしてスイングラー家の一員にならないようにするための抵抗だった……?)


「何だよ、変な顔をしやがって……」


 気づくと、ロバートが頬杖《ほおづえ》をついてティナの顔を覗《のぞ》いていた。


「……変な顔をしていましたか?」


「うん。すごく変だった」


「そうでしたか。お見苦しいものをお見せしまして申し訳ございません。余計なことも申しましたね。重ね重ね、ロバートさまには失礼をいたしました。——さあ、ゲームをいたしましょう」


 ティナはロバートに謝ると、早々に話題を変えようと努める。

 彼のためを思って言ったことだが、余計なことだったことだと痛感させられてしまった。

 ロバートが言った通り、彼の「将来」が変わるためには、スイングラー家という壁を越えなくてはならない。それは酷《ひど》く大変なことだ。


(馬鹿ね。私も分かっていたことなのに……)


 ティナは、自分に対して苦笑をしながら「さあ、ロバートさまから駒を動かしてください」と言った。

 彼はちらりと彼女に視線を向けると、ティナから見て左から二番目の☆(ウパロ)を一つ前に動かしてから言った。


「あんたってさ」


「はい」


「リブームを教えているから変なの?」

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