第24話 意味
ティナは、ロバートの問いに答えた。
「反対側からみたときに、相手の駒がどう並んでいるのかをきちんと見ることも大切なんですよ。真剣勝負をするときもそうですし、他愛ない相手とやったときも、後で『ずるいことをした』何て言われないためにも、『相手の駒が間違って並ばれていないのか』というのを自分で確認できることが大切なのです」
「あんたも、相手にずるいことをされたことがあるのか?」
ロバートの問いに、ティナはそのときのことを思い出してみる。
(闇取引のときは、司会者や主催者の人が確認するから不正はなかったわね。あったとすれば、酒場で賭け事をしているときくらいかしら。あれは相手も必死だから仕方がないわね)
「そうですね……。意図的に最初の駒の並びを替えられたことは、何度かあります」
「駒の位置が違うと、有利になることがあるのか?」
ロバートの問いに、ティナは肩をすくめた。
「さあ、どうでしょう」
「どうでしょう……って、分からないのか?」
「ええ。駒の位置を並べ替えたからと言って、本当に有利になるのかというのはよく分からないんです」
ロバートはきょとんとした表情を浮かべる。
「え、どうして?」
「『初期状態の駒の並べ方が違うことでどう有利になるのか』というのは、最初からずるをしようとしている人にしか分からないんですよ。駒の位置が違った状態で勝負したことがある人なら分かりませんけど、私はしたことがありませんからね」
「相手が間違って並べていても、あんたが気付いちゃうってことか?」
「そうなりますね」
ロバートはテーブルに両肘をついてそこに頬を乗せると、はあ、とため息をついた。
「『嫌な相手だなぁ』って、対戦相手は思うだろうなぁ」
まるで「ずるをする相手」のことを案じて言うので、ティナはくすっと笑ってから説明を付け加えた。
「私が知っているのは、風の便りで『駒の位置が違うと、有利になるらしい』と聞いたことくらいです。ただ、駒の配置が最初から違えば、辿る道筋というのは定位置から始めたときとは変わることは確かです」
「それはそうなるだろうな。だけど、どういう奴がずるなんかするんだ?」
「勝ちにこだわっている人は、駒の並びを意図的に変えることはあるようです。賭け事をしている者たちは、普段から駒の定位置を変えることが日常茶飯事なのでよく揉める……と聞いたことがあります」
ロバートは「賭け事……、賭け事ね」と呟いたあと、にやにやと笑って言葉を続けた。
「だからあんたは、『気を付けろ』と俺に注意しているってことね。『賭け事をしている人とリブームをやるときは気を付けなさいよ』って」
(茶化しにきたわね……)
ティナに真面目な態度を取りたくないのか、リブームの説明が順調に言っているときに限って、ロバートは彼女が話したことを違うふうに捉えて揶揄うのである。
だが、ここで感情的になるとロバートの思う壺である。
「そうは申しておりません」
「言っているようなものじゃないか」
「注意と申しますか……、基本的に、リブームは誰かと遊ぶためのゲームです。折角楽しむのに、最初の前提が間違っていると後から『ずるをした』『していない』という話になってしまいます。ですからそうならないために、ご自身でも気を付けてくださいと申しているだけです。一般的に、リブームを楽しんでいる方たちは意図的に駒を違う並びにするようなことはしませんし、仮に初期状態の駒の位置が違っていたとしても、それは大抵の場合は本当に間違って置いてしまったというものなので、そうそう変なことにはなりません」
畳みかけると、さすがに隙が無いと思ったのか、ロバートは唇を尖らせて不満な顔をした。
「なーんだ。つまらないの」
「つまらなくていいんです」
ティナは、ふう、と息をはき出すと、盤の上に並べられた駒を見て言葉を続けた。
「それと、この駒を並べる練習は、今後リブームを知らない人に教えるときにも役に立ちます」
「教える?」
ロバートのほうを見ると、眉を寄せて盤とティナを交互に視線を動かしていた。
「そうです。今、私はロバートさまにリブームを教えていますね」
「まあ、ね……」
「そのとき、ロバートさま側の白の駒を並べるのに、反対側からの見え方を知らないと、いちいち盤をこちらに向けて並べなければなりません。また、教えるときも、盤の向きを変えたり、私がロバートさまのほうへ移動して指示しなくてはならなくなります。もちろん、子ども同士や、不慣れな人同士であればそれでも構いません。ですが、ちゃんと教える側になるのだとしたら、基本的な見方はきちんと身につけていたほうがいいと私は思うのです。そうすれば、ロバートさまもいつか誰かにリブームを教えるときに役に立つことでしょう」
それに対し、ロバートはむすっとする。
「何言ってんだよ、あんた。俺が人に教えることなんてあるわけないだろ。一応、スイングラー家の一員なんだし、誰かに教えるなんてあり得ない……」
否定する彼に対し、ティナは小首を傾げて言った。
「分からないではないですか」




