第21話 驕り
「何でそう思った……?」
ロバートに問われ、ティナは静かに答えた。
「何となくです。ただ、『事情があるんだろうな』ということだけは感じました。普通、リブームを少しでもしたことがあれば、『何を知っているのか』は分かっているはずです。駒の動かし方とか、駒の取り方とか……。ですがロバートさまは、それをご自身の口から話されることはなく、代わりに駒の説明や、どうやって勝敗が付くのかについてを私に説明をさせました」
「……初めて『先生』からリブームを習うから教えてほしい、と言ったはずだが? リブームは都市地主や貴族の嗜みになっているが、市民でも当たり前にする盤上ゲームだ。少数民族だって知っている。あんただって気づいているだろう? 俺が少数民族の出身だってこと」
ロバートの、空色の瞳はセルディア王国ではとても珍しい。
貴族にはいないこともないが、彼の場合瞳の色が「空色」と特殊であるため、少数民族の出身であることが容易に想像がつく。
「……はい」
「だったら、分かるだろう? 周りの大人がリブームをやっているのを盗み見て勉強したんだ。スイングラー家に来るまではお金がなくて、毎日その日を暮らすので精一杯だったんだ。誰かに教えてもらうっていうのはあんたが初めてなんだよ。だからそう言っただけで、俺がリブームのことを知らない証拠にはならない」
ロバートの言い訳は、一見すると尤ものことのように聞こえる。
しかし、彼には見落としていることが二つあった。
「確かに、『初めて先生に習うから、とりあえず聞いておく』という理由は筋は通ります」
「そうだよな?」
「ですが、私がロバートさまにしたリブームの質問はとても簡単なものです。それにもかかわらず、答えられませんでした。知っている者の回答の仕方ではありません。盤上ゲームをする上で、一番知っているべきことを知らないのですから……」
ロバートはきゅっと眉を寄せた。
「知っているべきこと?」
ティナは小さくうなずく。
「勝敗の付き方です。それを知っているのが当然のこと。点数を稼ぐゲームがあったとしたら、『高得点を取ったほうが勝ち』ということを知らなければ、ゲームを始めたとしても終わらなくなってしまいます。ですが、ロバートさまはそのことをお答えにならなかった」
「……」
「誤解のないように申し上げますが、私は別に、ロバートさまが大人たちのリブームをしているところを見ていないとは思っておりません。ですが、リブームのルールを知ることができるほど見てはいないのだろうなと思ったのです」
「……」
「それともう一つ。当主さまからは『ロバートさまはリブームをされたことがあって、その相手がほしいから私を呼んだ』ということをお聞きしておりました」
ロバートは空色の瞳を見開いた。
「……父上が?」
「ええ……。となると、辻褄が合いません。当主さまかロバートさまが嘘……といいますか、本当のことをおっしゃっていないということが分かります。では、どちらが本当のことを隠しているのかと言うと、ロバートさまのほうが有りうると思いました」
「何故……、俺のほうが本当のことを言っていないと思った?」
「当主さまは、社交界に出入りされている方です。どういう嘘をついたらすぐに分かってしまうかは、体感としてご存じのはずです。ましてや、私のようにリブームで生計を立てていたことのある者が、ロバートさまのことを見れば、ほとんどやったことがないということはすぐに分かってしまいます。でも、当主さまはその点について全く疑っていらっしゃらなかった。そうなると、ロバートさまが当主さまに本当のことを言っていないのだということは分かります」
「分かっていたから、俺にあんなことを言ったのか? 知らないことを隠していると思ったから、試すようなことを言ったのか?」
(ああ、やっぱり……)
ティナは合点した。
ロバートの打ち間違いを指摘したことについて、彼はあの場で「家庭教師に、『嘘をついていること』を暴かれてしまう」と思ったのだ。周囲にはメイドたちが張り付いて見ているし、逐一ヴィヴェルシュに報告されることも彼は分かっていた。
それで、駒や盤を投げつけて、ティナの不手際にしようとしたのである。「家庭教師がロバートに対して失礼な態度を取ったから、彼が怒った」とすれば、有耶無耶になると思ったのだろう。
だが、計画は上手くいかなかった。メイドたちは見たことを正直にクイーズリーに報告し、ヴィヴェルシュに伝えた。想像以上に大事になったため、きっとロバートは自分がリブームができないことを隠し通せないと思い、父親に本当のことを打ち明けるしかなかったのだと、ティナは思った。
彼女は、ロバートの空色の瞳を見つめた。
疑うような目でこちらを見ている。ティナは彼の気持ちを受け止めながら、問いに答えた。
「違います。それは私の傲慢です。あのやり方で、ロバートさまに教えられると驕っていたのです」
「傲慢?」
ティナは「はい」とうなずくと、目を伏せ、言葉を続けた。




