↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宝石の駒  作者: 彩霞
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/89

第17話 歪み

「先に聞いておきたいことがあるんだが」


「……はい」


「ロバートから駒や盤を投げられて怪我をしたところは大丈夫だろうか。特に盤は腕に強く当たったと聞いたんだが……、痛くはないかい?」


「……へ?」


 予想外の気遣いに、ティナは思わず間の抜けな返事をしてしまう。

 ヴィヴェルシュも、どうして彼女がぽかんとした顔をしているのか分からず、小首を傾げながらもう一度聞き返した。


「怪我は大丈夫かと聞いているんだが……」


 ヴィヴェルシュがソファから少し身を乗り出して心配そうに聞いてくるので、ティナは気も漫《そぞ》ろに答える。


「え?……ああ、はい。ですが、その……大したことではございません」


「手当はしたのか?」


「手当? いえっ、そんなしていませんよ」


 ティナの返答に、ヴィヴェルシュはきゅっと眉を寄せた。


「大丈夫なのか、それで?」


「そんな……当主さまに心配していただくなど勿体ないほどでございます。打撲《だぼく》をした程度ですから、薬も塗らずに問題ありません」


「本当に?」


「本当です」


 ティナがはっきり答えると、ヴィヴェルシュはふうと長い息をはいてソファの背もたれに体を預けた。


「良かった……。だが、もし、治りにくかったり、酷くなったりしたらすぐに言ってくれ。対応する」


「そんな……大袈裟《おおげさ》ですよ。本当に何ともないので、お気持ちだけで十分です」


「それならいいが……」

 

 ヴィヴェルシュはまだ納得していない様子だったが、ティナはほっとしていた。

 名のある都市地主の子息を怒らせたのである。ヴィヴェルシュからそれに対する報復があるのではないかと思っていたが、彼の様子を見る限りなさそうだ。

 また傍では、クイーズリーが話の邪魔にならないようにしながら、用意したお茶を主人とティナに出していた。


「話は少し変わるが、君に一つ聞きたいことがある。聞いてもいいだろうか?」


 改まって言われたので、ティナは何を言われるんだろうと少し構えながらも、とりあえず居住《いず》まいを正した。


「何なりと」


「ロバートは……、あの子は『リブーム』ができるというのは嘘……だったのかな?」


 彼の問いに、ティナはゆっくりと目を見開いた。

 昨日彼女も全く同じことを思い、ヴィヴェルシュとロバートが言っていることに何故矛盾があるのかを疑問に思っていたところである。


(それにしても……)


 彼女は内心不思議に思った。

 こちらから尋ねもしていないのにヴィヴェルシュから回答を得られると思ってもみなかったため、ティナは「昨日、自分が帰ったあとに何があったんだろう」と首を傾げた。

 するとヴィヴェルシュは、自分の質問の意味がティナに伝わらなかったのだと勘違いしたようで、説明を付け加える。


「あ、いや……この質問はおかしいな……。一昨日《おととい》も少し話したと思うが、私とロバートは血は繋がってはいるものの肝心な親子の関係が上手くいっていなくてね。ロバートからすれば、急に私が本当の父親であることを聞かされて、さらにはこれまで生活してきたところからスイングラー家の屋敷に連れて来られて生活させられているわけだから、私に対して心を開いていないのは無理もないと思う。それで私は、あの子が好きなものをさせたら少しは心を開いてくれるんじゃないかと思ったんだ」


「そうでしたか……」


「だが、好きなものを聞いても教えてくれなくて……。どうしようかと思っていたときに、ロバートが屋敷にある『リブーム』の盤と駒をじっと見ていたことがあったんだよ。私は興味があるのだと思ったから、『リブームができるの?』と聞いたんだ」


「はい」


「そしたら『できるけど、下手だから……。それに相手もいないし……』というんだ。だから私は、ロバートが『リブームが上手くなりたい』と思っているなら、先生を付けてあげようと思った。先生なら、対戦相手にもなってくれるだろうからね」


「では、私を家庭教師にしたのは……」


「折角教えてもらうなら、名のある人がいいと思ったからだよ。『盤上の王』の噂は兼《か》ね兼《が》ね聞いていたし、引退したことも知っていた。そして、どこかにふらりと現れては、子どもにだけ『リブーム』を教えているというのも風の便りで聞いていた。だから、君を探して家庭教師になってもらったんだ」


「……」


 ヴィヴェルシュは、落ち込んだ様子でため息をついた。


「私はロバートが喜ぶと思ったんだよ。『リブーム』を教えてもらえるし、対戦相手にもなってもらえるだろうし、それに関しては君以上の人はいないはずだろう? だけど昨日のことがあって、ロバートに話を聞いてみると、あの子は『リブーム』のことは知っていたみたいだが一度もやったことがなかったそうなんだ。私にはどうしてそんな嘘をついているのかよく分からなくて、まずはティナに、ロバートが『リブムームができない』のが本当なのかを尋ねようと思って聞いたんだよ」


「……」


 ティナは、ヴィヴェルシュの話を聞きながら、彼と自分の間に心理的な黒い靄《もや》がかかっているような気がした。


(何でだろう……。当主さまがしていることは、ロバートさまのことを思ってのことのはずで、いいことだと思うんだけど、どこかそう思えない自分がいる……)


 彼は息子のためを思って、ティナを見つけ出した。

 ティナ自身、己が「盤上の王」として認識される日が来ようとは露とも思っていなかったくらいであるから、よほど探したのだろう。

 それくらい、「ロバートのために動いているように見える」。


 しかし、それが本当にロバートが望んていたことかどうかは分からないのだ。


(もしかして、ロバートさまは……)


 ティナは、ヴィヴェルシュの話を聞いて、断片的ではあるがヴィヴェルシュとロバートという親子の間に歪《ゆが》みが見えた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。