↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宝石の駒  作者: 彩霞
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/87

第15話 踏んだり蹴ったり

(馬鹿ね……、長年「リブーム」を教えて来たくせに、私ったら何も分かっていなかった)


 ティナは、こぶしで自分のひたいをコツンと打った。


(私が「勝負」にばかり目を向けるようになってしまったから、「子どもたちに教えるのが楽しかったのかもしれない」なんてね……。自分が「楽しい」と思いたくても思えないものに対して、子どもたちが笑顔を向けてくれるから。それを見て私は、「自分で得ることができない感動」を子どもたちからもらって心を満たそうとしていたのだわ)


 沢山子どもたちがいるところで教えるのは良かった。それは彼らが一人ひとり、ティナには足りなくて、しかも一番大事な部分を補ってくれていたからである。


「これどうやるの?」とか「どうやって動かすの?」という興味、「やった、駒を取れたよ!」「勝てた嬉しい!」というできたこと、勝負に勝ったときの楽しさ、そして「負けちゃった。でも、もう一回……!」という悔しさが、ティナがいちいち教えなくても、彼らがちゃんとその雰囲気を作っていい影響を与え合っていてくれていたのだ。


 子どもたちという集団に教えていたからこそ、自分が指導者側に立ったとしても「楽しくリブームをする」ということが成り立っていたのだとティナは今更ながらに思った。


(今の私の状態は……、ソフィアやアレクシスさまたちに教えていたときと同じね)


 あの頃のティナは、強くなることにこだわっていた。


 特にソフィアは、グロリア侯爵に強くなることを求められていたため、ティナにとっては願ってもいない生徒だったのである。


 その上、ソフィアは難しいことを言っても、師であるティナについてきた。


 み込みが早く、ティナが言ったことを正確に再現することができる。そして、彼女自身がちゃんと考える力を持っていた。

 手取り足取りしなくとも、ソフィアはティナの指先や目の動きなども見て、駒を動かすときの考え方を吸収してしまうのである。


 ティナはそれが心地よかった。


 自分の持っているものを惜しみなく渡すと、彼女は期待以上に応えてくれたからだ。

 しかし、ソフィアは当時十四歳。

 大人の言っていることがよく分かるとはいえ、まだ子どもだ。それにもかかわらず「リブーム」の技術的な部分だけ入れ込ませるというのは、彼女のことを考えればいいことではなかったと思う。


(後悔先に立たず、ね)


 ソフィアに初めて「リブーム」を教えてから、九年が経った。今の彼女は二十三歳になったか、ならないかくらいのはずである。

 今頃、グロリア侯爵の考えていた「計画」に組み込まれ、「リブーム」を使った仕事をしていることだろう。

 闇取引オウルス・クロウに出品された、品物を救出するために――。


「……」


 ティナが悶々《もんもん》と考えているうちに、馬車はスイングラー家の門前に停まった。宿泊施設から屋敷までは徒歩で十五分程度の距離なので、あっという間に着く。

 ティナは馭者ぎょしゃの差し出した手につかまりながら地上に下りると、執事のクイーズリーが出迎えてくれた。


「おはようございます、エジンさま」


 挨拶をしながら、彼はさっとティナを傘の中に入れてくれる。ティナは、「おはようございます。傘、ありがとうございます」と、挨拶と共に礼を言った。


「雨の中、大変だったでしょう」


「いいえ。馬車を出していただいたので、れることはありませんでした。感謝申し上げます。——馭者の方も、ありがとうございます」


 ティナは振り返って馭者にお礼を言うと、すでに馭者台に乗っていた。雨の音もしているので聞きづらいかと思ったが、彼はティナの言っていることが伝わっていたようで、軽く帽子を挙げて応える。そして、そのまま通りに沿って馬車を動かしていった。


「それでは、まいりましょうか。足元が悪いのでお気をつけて」


「はい」


 ティナは持って来た傘を差すと、クイーズリーの傘から抜ける。すると彼は少し不思議そうな顔をしていた。


「あ……、もしかして失礼なことをしましたでしょうか?」


 表向きは「貴婦人」のつもりでここに来ているので、彼が何か引っかかりを感じるとすれば、作法がまずかったのではないかなと思う。


 するとクイーズリーは、言いにくそうにしながらも「ええと、そうですね。他の貴婦人の方は、傘の中に入られたまま屋敷の玄関のほうへ移動されます……」と説明し苦笑した。


 ティナは、自分の顔がじわじわと熱くなるのを感じる。


「すみません……」


 自分に完璧な貴婦人を演じるなど不可能だが、少なくとも屋敷の中に入るまでは誰が見ているかが分からないので、それらしく取りつくろうとしていたはずだが、すっかり忘れて失敗してしまったらしい。

 昨日からんだりったりである。


「ああ、そんな……エジンさまが謝ることではございません。今日はこのままで、ご案内いたします。次からは、私かメイドが出迎えに上がりますので、気になさらないでくださいませ」


 上手くフォローされ、ティナは困ったように笑う。


「分かりました……」


「それより、早く中に入りましょう。雨に濡れますし、当主さまがお待ちでございます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。