↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宝石の駒  作者: 彩霞
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/86

第10話 駒を動かす

(デマントイド)(グロッシュラー)のどちらかが取られたら負けになるのか? 両方じゃなくて?」


 ティナはうなずいた。


「そうです」


 そのとき、ロバートがもう一つのことに気づいた顔をする。


「だから、あんたは『場合による』って言ったのか。(デマントイド)(グロッシュラー)の片方を取られたら負けになるのなら、駒が二個残ったときは、(デマントイド)(グロッシュラー)が最後まで残っている必要があるってことだな?」


「ええ、そういうことです。元々は、『(デマントイド)(グロッシュラー)の両方を取ったら勝ち』というルールだったようですが、次第にルールが変わったと言われています」


「どうしてだ?」


「試合を早く進め、かつ、はらはらするような緊張感を『リブーム』をする側も見る側も楽しむためです。そのため、大人が子どもを相手にするときは、ハンディキャップとして『大人は、相手の(デマントイド)(グロッシュラー)の両方を取ったら勝ち』、『子どもは、相手の(デマントイド)もしくは、(グロッシュラー)のどちらかの駒を取ったら勝ち』とすることがあります」


「ふぅん……、なるほど。そのルールのときも、あんたが言う『状況による』に該当するわけだ」


「そうなりますね」


「じゃあ、あんたは俺と対戦するときにハンディキャップを付けるのか?」


「ロバートさまがお望みならいたしますが、そうでなければいたしません」


 ロバートはふんと鼻で笑った。


「お望みじゃなかった場合、ハンディキャップを付けないでいたら、俺はあっという間に負けちゃうんじゃないの? あんたは、弱い奴をこてんこてんにやっつけて面白がる人なんだ?」


「先生は生徒よりも強い」と考えているためか、ロバートはそのように言った。


 確かに、ティナが本気を出したらロバートはあっという間に負けてしまうだろう。そして彼女が、強い者ばかりを相手にしていたなら、初心者のロバートに対しても手加減できずに戦うことになったかもしれない。


 しかし、その点に関して言えば、彼女は己も鍛えるつもりで挑もうとしていた。


「ご心配なさらずとも、どちらを選ばれても私が簡単に勝つことはありません」


 ティナは近所の子どもたちに「リブーム」を教えていたため、ハンディキャップがあってもなくても、彼らの実力に見合ったリブームの相手になれるようにきたえられている。

 一方で、初心者だからといって軽視すると足をすくわれる、ということもよくよく知っていた。


 そのため、初心者のロバートに力量を合わせながら、あなどらずに対戦しようと最初から決めていた。特に、一人相手に長く教えることは初めてのことだ。以前貴族の屋敷に出入りしたときは、ソフィアを中心に他にも二人の面倒を見ていたので、生徒と一対一でリブームを教えるのはティナとしても真剣勝負である。


「本当に?」


 ロバートの確認する問いにうなずいてから、ティナは付け加えた。


「ですが、だからといってロバートさまに易々《やすやす》と勝っていただこうとは思っておりません。そこは私も工夫いたします。ロバートさまが勝ったら、私は質問に答えないといけなくなりますからね」


 すると、ロバートはぱっと表情を明るくする。


「そうだった。俺が勝ったら、あんたは『主婦のくせにリブームを教えていて、しかも父上から連れ出されてここにいる理由』について教えないといけないからな」


「そういうことですから、頑張って勝負してくださいませ」


「絶対に勝って、教えてもらうからな」


 ロバートがだんだんと勝負に意欲的になったところで、ティナは彼と「リブーム」をやってみることにした。


「さあ、大まかなルールが分かったことですし、早速やってみましょう。駒の動きを覚えるには、実際に動かしたほうが分かりやすいですから、必要に応じてその都度お教えいたします」


「分かった」


「ロバートさまは白をお選びになったので、先攻でございます」


「ということは、俺が駒を先に動かすということだな」


「はい。どの駒でも動かせる状態ではあるのですが、まずは流れを掴むために駒の動きも確認しながらやっていきましょう」


「それもそうだな。ちゃんと教えてもらおうじゃないか、『先生』」


「もちろんです。では……、手始めに(ウパロ)を動かしてみましょうか」


「ウパロは……同じ形のものが四個あるやつだな」


「そうです。(ウパロ)は前か後ろに、一回で最大二マス進むことができる駒です。つまり、前に一マス進めてもいいですし、二マス進めても構いません。ただし、駒のあるところを越えることはできませんし、駒が置いてあるところに別の駒を置くこともできません。これは(ウパロ)以外の駒にも適用されます」


「どの(ウパロ)を動かしてもいいのか?」


「構いません」


「じゃあ、これにするか」


 ロバートは、隣にある(ウパロ)を前に二マス動かす。


「いいですね。では、私も動かしますね」


 ティナは、(デマントイド)の隣にある(ウパロ)を一マス前に動かした。


「あんたも同じ駒を動かすの? つまらないな」


 動かしたマスの数はティナのほうが少ないが、ロバートからすれば、自分が動かしたところと同じ(ウパロ)を彼女が動かしたので、些細ささいな違いだと思っているようである。

 ティナは少し笑いそうになるのをこらえて、もっともらしい理由で誤魔化した。

 

「……まだ駒の説明が終わっていないので、あまり突飛な動きをしないようにしているだけですよ」


「あっそ。次は俺ね」


「はい」


「そうだなぁ……。なあ、(これ)を動かそうと思うんだけど、この説明をしてくれない?」


 ロバートが(パイロープ)の駒を指さして言った。


(パイロープ)ですね。これは、前後左右一マスだけ進めます。そして、もう一つ特別なものを備えてるのです」


「特別なもの?」


「ええ。(パイロープ)だけは、単独である場合三方向からはさまなければ取ることができないんです」


「三方向?」


 ロバートが首を傾げたので、ティナは自分の(パイロープ)を盤の開けたところに置き、ロバートの(ウパロ)を三個借りて、(パイロープ)の前と両脇に、駒を置いてはさんだ。


「こういうことです。三方向というのは、三つの駒で挟まれたときのことを言います。ただし、これは(パイロープ)が単独であるときに有効です。隣に自分の駒——例えば(ウパロ)などが隣接している場合は、横が縦、もしくはななめで一列になれば、相手は(パイロープ)を三方向から挟まずとも、両方を挟めば取ることができます」


 そう言って、ティナは自分の(パイロープ)の隣に、まだ動かしていない自分の(ウパロ)を右に置く。

 そして、ロバートの(ウパロ)を二つ使って、(パイロープ)(ウパロ)の両端を挟んだ。こうして一列になれば、(パイロープ)の単独のときに効果を発揮する「三方向から駒を取る」という条件は無効になる。


「だったら、(パイロープ)はできるだけ単独にして動かしていたほうが得ってことだな?」


 得意げににやりと笑ったロバートに、ティナはにこりと笑い返した。


「上手く使えばそうなりましょう」


「それなら俺は、こう動かす」


 そう言って、ロバートは(パイロープ)を一つ前のマスに動かした。


「では、私は(アンドラダイト)を動かしますね」


 ティナは、ロバートが自然と駒の名前を覚えられるように、動かす駒の名を言う。「リブームが初めて」という子に教えるときによくやることなのだが、それと同時に自分が養父に「リブーム」を教わったときにもよくやってもらったなと思い出す。


(私は物覚えが悪かったから、養父とうさんが「リブーム」の相手をしてくれるたびに、駒の名前を口の出して言ってくれたっけ)


 ティナが「リブーム」を知ったのは、養女として貧しい農家の夫婦に受け入れてもらってからのことだ。


 その家の夫婦はすでに五十歳を過ぎていて、自分たちの畑を手伝ってくれる働き手が欲しくて、彼女を実の親から引き取ったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。