第93話 ヌルヌル大好きは意外と有用だった
拠点にて復活した。
「マジか……」
思わずそう漏れる。
また丸太で筏を作って、あそこへ行かないといけないのか。
面倒すぎる。
しかも、さっきの感じからすると、たぶんあれは速攻で倒せってタイプのボスだ。
のんびりギミックを見ながら対応していると、ぬるぬるが増えて終わる。
そういう類のやつだった。
バルを見る。
負けた悔しさ、というよりは、ぬめぬめがなくなったことに喜んでいるように見えた。
「……まあ、そうだよな」
さっきのは、バルが死んだというより、俺がぬるぬるで窒息して死んだんだろう。
バルからすれば、ようやくあの気持ち悪いのが取れた、という感覚の方が強いのかもしれない。
俺は手に入れた、嫌な感じのネーミングの称号を確認した。
ヌルヌル大好きの称号の効果はヌルヌル状態でも動きやすくなる
「……なるほど」
称号の名前は最悪だが、効果自体はあそこのダンジョンで有用そうだ。
というか、あのダンジョンでしか使わないんじゃないかこれ?
だいぶ用途が限定的すぎる。
だが、あるだけマシか。
「ボスへの対策を考えないとな……」
バルの打撃では、うまくいかなかった。
たぶん、あの核自体を倒さないといけないんだと思う。
ギミックっぽいものを壊したら、逆にぬるぬるが増える速度が加速してやられた。あれはもうわかった。次は間違えない。
ただ、壊すのがそもそも間違いだった可能性もある。
もしかしたら、別の方法があったのかもしれない。
何かで塞ぐとか、モンスターの技でせき止めるとか、そういうやり方だ。
あるいは、あのスライム自体に何か条件があって、それを満たすとぬるぬるの供給が止まるのかもしれない。
そもそも俺は、周りを見渡してぬるぬるが出ている場所を一つ見つけたから、あれが原因だと決めつけた。だが、他にないとは限らないんだよな。
「こういうギミックって、普通はちゃんとクリアできるようにできてるもんだよな……?」
そう考えて、ふと嫌なことを思い出す。
「……いや」
このゲーム、AIが作ってるんだった。
そうなると、そういうセオリーがどこまできちんとできてるかも怪しい。
普通のゲームなら、見つけた仕掛けを壊したら進む、あるいは止まる、みたいなわかりやすい答えがあるはずだ。だが、ここは妙なところで生っぽいし、理不尽な方向にも振れてくる。
そもそも、あのダンジョン自体に行ってるプレイヤーが少なそうなんだよな。
だったら、バグだったり、挙動がおかしかったりしても、まだ見つかってない可能性すらある。
「……考えれば考えるほど嫌だな」
とはいえ、今の時点でそれを検証しに行くのも大変すぎる。
結局、一番手っ取り早いのは、核を一撃で壊せるだけの威力を出すことだろう。
「多分、アンカーチャージでも、あのぬるぬるで威力が減衰してたんだろうな」
吹き飛ばすくらいまではできた。
だが、破壊までは届かなかった。
となると必要なのは、一撃の威力を上げることか、あるいはもっと速い攻撃か、そのどちらかだ。
「……いや」
少し考えて、俺は首を振った。
「どう考えても、一撃の威力を上げる方しかないな」
アンカーチャージは溜めがいる。
速攻という意味では、あまり向いていない。
だったら、今ある技の威力そのものを引き上げるしかない。
とはいえ、威力を上げようにも、新しいスキルを覚えたわけでもない。
そうなると、やっぱり武器を用意するしか方法はなさそうだった。
「属性ついてないけど、ミルトに角武器を頼むか……」
前に考えていた形だ。
あれを先に試してみる価値はある。
そう思ってフレンド欄を開く。
「今日はもうミルトは――」
ログアウトしていた。
「……まあ、だよな」
今からどうこうはできない。
だったら、明日頼むしかない。
そうして、自分もログアウトしようとしたところで、ラザロが話しかけてきた。
「ボス、洞窟の方はどうでした?」
「ああ」
俺は軽く答える。
「情報ありがとう。見つけたし、行けたけど、ボスにやられちまった」
それから、ついでのように続ける。
「明日、ミルトに武器を作ってもらって、また倒しに行く予定だ」
「なるほど」
「まさか、大きいスライムがボスだとは思わなかったよ」
そこまで言って、俺はそのままログアウトした。
だから、その直後のラザロの呟きは、聞いていない。
「……スライム?」
ラザロは小さく首を傾げた。
「あそこの奥にいるのは、大きな亀型のモンスターだったはずですけど」
その違和感に気づいたのは、ラザロだけだった。




