第91話 もう一度来たいとは思わんぞここ
雑魚敵は、バルが巨体になったおかげか、アンカーチャージ一発で済む。
だから、戦闘そのものはそこまで困っていない。
困っているのは別のところだ。
「……ヌルヌルになる以外はな」
バルもヌルヌル。
そして俺もヌルヌル。
いや、俺がヌルヌルになる必要はなかっただろう。
どう考えても八つ当たりだった。
そんなことを思いながら進んでいたが、素材の方は一向に当たりが出ない。
属性がついてそうなものは、まだドロップしていなかった。
「やっぱレアドロかな……」
嫌な予感しかしない。
しかも、進んでいくうちに周囲の様子もどんどん悪化していった。
「うわ……」
当たり一面、ヌルヌルだ。
床も壁も気持ち悪い。
なんだここ。
滑って、思った所に進めない。
「もしかして、ここに来て頭使う系のギミックか?」
こういうのって普通、氷のステージとかでやるもんじゃないのか?
なんでぬめりでやるんだよ。
しかもこれ、見下ろし視点のゲームだったら、たぶんそこまで難しくないんだろうなと思う。
上から見て、この床に乗ったらあっちへ滑る、この角度ならこっちへ流れる、って冷静に見られるなら、まだ考えようがある。
でもこれは違う。
実際にその場にいるせいで、滑った瞬間に視界も体も一緒に流される。
あっちへ行ったと思ったら今度はこっちへ流れて、頭の中で考えていたルートと実際の動きがずれていく。
見えているのに思った通りに進めない、っていうのが地味にきつい。
しかも、ただ滑るだけじゃない。足を取られて転ぶ。
転ぶたびに、さっきよりさらにヌルヌルになる。
「最悪だ……」
体中ヌルヌルで気持ち悪い。
他のプレイヤーを見かけないなとは思っていたけど、そりゃそうだ。一回来たら、もう一回来ようなんて普通思わんぞここ。
しかも謎解きまであるらしい。
次へ進む道自体は見えている。見えているのに、直接行けないのがきつい。
「うっ」
滑った。
「ちょ、待っ――」
そのまま、思っていたのと違う方向へ流される。
「あっ、まずい。このままいくと下に落ちる――!」
そこで、ふと思い出した。
「あっ! そうだ、バルのアンカーがあるじゃん俺には」
今さらだが、こういう時にこそ使うべきだった。
「バル! アンカーだ!」
よし。
一旦止まった。
助かった。
……と思ったのだが、そううまくはいかない。
俺はバルに触って止まろうとした。
だが、バルもヌルヌルだった。
つるん!
「ちょっ!?」
方向は変わった。
変わったが――
「こっちも下に落ちるルートじゃん!」
何の解決にもなっていない。
ここまで来て収穫なしかよ。
そう思った次の瞬間、俺はそのまま落ちた。
ドボン!
「がばっ、がぼっ……!」
落ちた先は地面じゃなくて水だった。
慌てて岸へ這い上がる。
「……なんだここは?」
地面に落ちて死んだかと思ったが、そうではなかった。
むしろ、こっちが正規ルートなのか?
さっきの滑る床は、落ちて進むためのギミックだったのかもしれない。
「バルは……」
上でアンカーが効いたまま残っているのか?
少し考えたが、結構な距離を落ちた。
だったら、もうちょっと移動すれば近くに出てくるはずだ。
そう思って少し進む。
すると、予想通り、バルも近くに出てきた。
「……よっ」
思わず声が出る。
「バル、なんかいい感じのところに落ちたようだぞ」
この流れで死んでないだけでも十分ありがたい。
さらに進んでいくと、前方に厳つい扉が見えた。
「お」
前に見たボス扉より、だいぶ豪華だ。
場所とか敵の強さで、扉の見た目も変わるのか?
たぶん、この先はボスだろう。
「バル、いくぜ!」
ここまで来たんだ。
そろそろ当たりを引きたい。
「水属性の素材きてくれ!」
そう言って扉を開く。
そして、次の瞬間――
扉の向こうから、ヌメヌメがあふれ出してきた。
「うわ……」
やる気がなくなった。




