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第90話 ぬめぬめダンジョン

 とりあえず、着いたんだ。ダンジョンに入ろう。


 そう思って入口の横を見ると、いつものダンジョン前のリスポーン地点があった。


「……でも、これ登録すると帰れなくなるよな」


 島に来るだけでも相当苦労したのだ。


 ここでリスポーン地点を更新したら、帰りはどうする、という話になる。


 だが、逆に登録しないのも面倒だ。


 死んだらまた最初からだし、あの丸太筏をもう一回作るのも正直だるい。


「……帰りは帰りに考えるか?」


 そこまで思って、すぐに首を振った。


 いや、駄目だ。


 詰む可能性がある。


 周りに丸太になりそうな木々は見当たらないし、今ここで適当に進んで死にました、は流石に笑えない。


「勇気と無謀は別だ」


 俺は小さくそう呟いた。


「俺は確実性を取る」


 そういうわけで、リスポーン地点は更新しない。


 ノーミスでクリアする。


 方針は決まった。


 ダンジョンの中へ入る。


「……下っていくタイプか」


 中はどうやら、下へ下へと進んでいく構造らしい。


 敵はカエルとか、足の生えた魚とか、とにかくヌメヌメしてそうなやつが多い。


 見た目からして嫌だ。


「突進だ、バル!」


 とりあえず、敵を見かけたらバルで押し切る。


 そこは変わらない。


 だが、戦いながら俺は少しずつ違和感を覚え始めていた。


「このダンジョン、地面も滑りそうでいやな感じだな……」


 全体的に湿っている。


 足元もぬめりそうだし、壁も気持ち悪い。


 水属性の素材が手に入るって聞いているし、見つかりにくい場所にあるから、てっきりレアなダンジョンなのかと思っていた。


 だが、実際に入ってみると、そういう感じとも少し違う。


 他のプレイヤーも見ない。


 となると、もしかして単に不人気なダンジョンなのか?


「そもそも普通のプレイヤーは、雑魚敵からでもレアドロで属性素材を入手できてる可能性あるしな……」


 だったら、こんな気持ち悪いダンジョンまでわざわざ来る必要もない。


 俺が来ているのは、単純に別ルートが必要だからだ。


 そう考えると、ここが閑散としているのもわからなくはない。


 何度か戦っているうちに、別の問題も見えてきた。


「……あれ?」


 バルがぬちゃついている。


 明らかに体の表面に、変なぬめりがついていた。


「おいおい……」


 そして、そのせいか、突進で外すことが増えてきた。


 今までなら真っ直ぐ当たっていたはずなのに、妙にずれたり、変な方向へ滑ったりする。


「ちっ」


 仕方なく、俺はアンカーチャージへ切り替えた。


 これなら外す頻度は減る。


 減るには減るのだが――


「単なる移動だけでも滑っていってるな……」


 根本解決にはなっていない。


 ぬめっているせいで、普通に動かすだけでもズレる。


 しかも嫌なのはそこだけじゃなかった。


「これ、戦闘終わっても取れないのか……」


 バルの表面についているぬちゃつきが、そのまま残っている。


 気持ち悪いし、見ていて嫌だ。


 俺ですら嫌なのだから、当のバルはもっと嫌だろう。


 そう思った時には、もう遅かった。


 不機嫌になったバルが、こっちへ近づいてくる。


「……あ」


 嫌な予感がした。


「ちょっと待て!」


 俺は即座に声を上げる。


「今回は死んだらきついんだって! やめろ!」


 ここで死んだら、本当に面倒なのだ。


 筏を作って、島へ渡って、また最初から――とか考えただけでうんざりする。


「丸太の筏づくりからまた始めるのは面倒すぎるぞ!」


 だが、そんな俺の制止なんて、今のバルにはまったく意味がなかった。


 ずいっと寄ってくる。


 嫌な予感が確信に変わる。


「おい、やめ――」


 遅かった。


 バルはそのまま、俺にもぬめりをこすりつけてきた。


「うわっ、ぬめっ!」


 最悪だ。


 気持ち悪い。


 しかも、バルの表面についたものが、そのまま俺にも移ったせいで、全身が妙にぬめぬめする。


「このダンジョンは誰得だよ!」


 思わず叫んだ。


 バルは少しだけ満足したようだった。


 いや、気持ちはわかる。


 わかるけど、だからって俺を巻き込むな。


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