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第89話 帰りはどうしよう?

 次の日に対策を考えてログインした。


 場所は、昨日沈んだ貸舟屋の近くだ。


 当然ながら、もう借りる金はない。


 いや、正確にはまったくのゼロではないが、少なくとも気軽にもう一回船を借りられるほどではない。


 しかも、借りたところで沈む船に用はない。


「沈むならー 沈まぬようにー して見せようー」


 ということで、近くの木々をバルの突進で破壊し始めた。


 目指すのは、丸太で作る筏だ。


 そう、バルの重さは変えられない。


 なら話は簡単だ。


 バルの重さに耐えられる船を作ればいい。


「借りた船が駄目なら、自作だ」


 実に合理的である。


 なんか貸舟屋の男が変な目で見ている気がするが、気にしない。


 というか、もしかしたら昨日沈めた船について何か言われるかもしれないと思って、あえて話しかけていないのだ。


 保証金は払っていたわけだからな。


 沈んだとしても、たぶんあの三万モルはそういうの込みの金額だろう。


 そう思いたい。


 思わないとやってられない。


 バルに木を倒させて、丸太を運んで、拠点から持ってきたロープで括る。


 作業自体は思ったより順調だった。


「一線を越えた鍛錬者、地味に便利だな……」


 称号の効果で身体能力が上がっているおかげか、こういう力仕事が普通にできる。


 前の俺なら、丸太を運ぶ時点でかなりきつかっただろう。


 だが今は、面倒ではあるが進められる。


 そうして、なんとか筏らしいものができた。


「よし」


 あとはこれが本当に浮くかだ。


 俺は慎重に水へ浮かべてみた。


 浮く。


 さらに、バルも乗せてみる。


 ……耐えた。


「おお」


 思わず声が出る。


 まさか、ここまで事がうまく運ぶとは思わなかった。


「いけるじゃねぇか」


 じゃあ、あとはもう進むだけだ。


「では、オールであの島に向かってGO!」


 そう言って漕ぎ出したのはいい。


 だが――


「……遠い」


 想像以上に遠い。


 しかも、全然前に進まない。


 船が大きいせいなのか、単に俺の漕ぎ方が下手なのか、どっちにしろ進みが悪い。


「疲れるし、きつい……」


 これは思っていた以上にしんどい。


 心なしか、あの貸舟屋の男が遠くから笑っているようにすら見えてきた。


 いや、たぶん気のせいだと思いたいが、そう見えてしまう程度にはこっちはしんどい。


「これ、今日中に島へ着けるかすら怪しいぞ……?」


 そこで、ふと閃いた。


「……あ」


 オールで漕ぐのが遅いなら、もっと速い動力を使えばいい。


 俺はバルへ視線を向けた。


「そうだよな」


 ロープをバルへ括り付ける。


 そして、そのロープのもう片方を筏へ括り付ける。


 やることは単純だ。


「バル、少しだけジャンプしてアンカーだ」


 バルが動く。


 そして俺は続ける。


「そのあと、進行方向の逆方向に弱めで体当たりしてくれ」


 バル射出。


 これで、バルの力を使って筏を引っ張っていくという寸法だ。


 前に抱き着いてのパターンでは失敗したが、今回は違う。


 下が水だ。


 多少浮き上がっても、下が水ならなんとかなるだろう。


 そういう読みだった。


 そして結果から言えば――目論み通りだった。


 丸太の筏を、バルが引っ張っていってくれる。


「よしよしよし」


 かなり速い。


 オールで必死に漕ぐより、こっちの方が圧倒的に進む。


 だが同時に、ブチブチブチ、という不穏な音もしていた。


「おいおいおい……」


 ロープか。


 それとも丸太の結び目か。


 どっちにしろ嫌な音だ。


「もう少しだけ! もう少しだけ持ってくれ!」


 俺は半ば祈るような気持ちで叫んだ。


 そうして、スリルを味わいながら進み続けた結果――なんとか島まで着くことができた。


 だが、代償も大きい。


 筏は半壊していた。


「……生きてるな」


 下が水だからか、体が丈夫になったからかはわからない。


 とにかく、生きてはいる。


 島にも着いた。


 目的地にたどり着いたという意味では成功だ。


 だが、目の前の半壊した筏を見て、俺は当然の疑問にぶつかった。


「帰りはどうしよう?」


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