第87話 湖の水を抜けないか
やり返したので、バルは落ち着いたようだ。
まあ、今回は俺も悪い。
そこは普通に納得できる。
よく考えたら、水の中だと抵抗があるに決まっている。そうなってくると、いつものように動こうにも動けないし、アンカーチャージみたいな技を使っても、思ったような威力も速度も出ないんだろう。
倒すところだけ考えて、その後のことまで考えが回っていなかった。
「……そこは完全にミスったな」
そこは反省するしかない。
だが、一応、釣り上げられないはずのモンスターは倒せたし、素材も入手した。
そこだけ見れば収穫はある。
俺は新しく入手したアイテムの説明を開いた。
「鱗っぽいな」
見た目はかなり水属性っぽい。
これは期待できるんじゃないか、と思ったのだが――
「……属性素材って書いてねぇ」
ハズレだった。
見た目はどう考えてもそれっぽいのに、肝心の説明欄に属性素材とは書かれていない。
「くそ」
レアドロ枠なら俺には無理だ。
そうなると、今回釣れたモンスターが悪かったのか?
それとも、この湖で釣れるやつ全部がそういう感じなのか?
判断がつかない。
そして、ついでみたいに別の表示も目に入った。
「……魔物釣り?」
無駄に称号が手に入っていた。
いや、釣り上げてはいないんだが、いいのかこれ?
気になって効果を見る。
「釣ったモンスターへの初撃の威力が倍増……」
「いや、そこじゃねぇんだよ」
釣りやすくなる、とかならまだわかる。
なんで釣った後なんだ。
今のところ、かなり使いどころが限られている。
というか、まともに釣れない俺には、ほぼ無縁の効果では?
「なんか妙なものばっか増えていくな……」
とりあえず、釣りは効率が悪い。
その結論だけははっきりした。
俺はレグルスに、釣りはやめるというメッセージだけ送った。
すると向こうから、
ずぶ濡れになったぞ
と返ってきた。
俺は軽く「すまん」と返して、それで終わりにした。
そこを長く掘っても仕方ない。
さて、問題はここからだ。
素材の名称的に、水に住んでそうなところのモンスターを倒す、という方向性自体はたぶん間違っていない。
じゃあ、どうやって倒すか。
「息ができる装備を作って、水中で戦う……?」
頭には浮かぶ。
だが、すぐに首を振った。
「微妙だな」
水の抵抗で、威力がだいぶ減ってそうなんだよな。
さっきのバルを見て、そこはもう実感した。
戦うステージが不利なのはきつい。
だったら逆に、戦いやすい環境へ変えてやるのはどうだ?
「例えば……湖の水を抜くとか?」
そこらへんにピチピチ跳ねる魚たちやモンスター。
それを地上で仕留める。
「……ありでは?」
いや。
「……いや、なしだな」
すぐに却下した。
あの湖、結構広かったはずだ。
抜いた水がどこに流れるのかもわからないし、外へ流したら流したで、流石に何かしらペナルティがありそうだ。
ゲーム的にも、世界観的にも、無茶がすぎる。
「でも発想自体は間違ってない気もするんだよな……」
そんなふうにうんうん考えて、半分うなりながら唸っていると、不意に背後から声がした。
「どうかしましたか?」
「ん?」
振り返ると、ラザロだった。
こいつら、あんまり拠点にいないんだよな。
活動はラザロに一任しているが、実際こいつら普段何やってるんだろう。
まあ、今はそこはいい。
「ああ」
俺は考えていたことをそのまま言った。
「ちょっと湖の水を全部抜けないか考えてるところだ」
するとラザロは、一瞬だけ固まった。
それから、なんとも言えない顔になる。
「ボス……」
「ん?」
「汚名を重ねるのはどうかと思うんですが……」
「は?」
「いや、ボスがそっちの方向で進みたいなら、私たちとしても逆らいはしないですけど」
「ちげぇよ!」
即座に否定した。




