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第86話 釣れないなら倒せばいい

 レグルスは横で釣りを楽しんでいた。


 なんなら、スキルが成長したのか、たまに二匹釣りみたいなことまでしている。


「楽しそうだな、おい……」


 かたや俺は、長時間釣り糸を垂らして成果なし。


 どころか、釣り具が破損してマイナスである。


 意味がわからない。


 レグルスは釣りをしながら、ぽつりと言った。


「釣りスキルの中に、大物を釣るとか、釣り糸を強化するとかがあるからさ」


「うん」


「あの大物を釣り上げるには、スキルを上げる必要があるんじゃないか?」


「それはそうかもしれん」


 理屈としてはわかる。


 わかるが、問題はそこじゃない。


「そもそも釣れてないんだよ」


 俺は真顔で言った。


「スキル経験値どころか、スキル自体解放されてねぇんだ」


 ヒットしない。

 たまに来たと思ったら、大物っぽいやつが出てきて、糸が切れる。

 それだけである。


 レグルスは、そんな俺を見て少し考えるような顔をした。


「やっぱ、狂人の二つ名のせいで運が下がってるんじゃないか?」


「違う」


 そこは即答した。


「元からだ」


「元からなのかよ」


「元からだ」


 狂人の二つ名のせいだと勘違いする気持ちはわからなくはない。


 だが、これはたぶん違う。


 もともとの俺の運のせいだ。


 最低保証しか引けない。

 宝くじなんて絶対当たらない。

 そういう側の人間である。


「きっとこれ、大物じゃなくてハズレ枠なんだよな……」


 俺は釣り糸の先を見ながら考える。


 ゲームシステム的には、たぶんこうだ。


 確率でヒットする。


 でも、ずっとヒットしない場合は、一定時間経過で強制的にこのハズレ枠がヒットするようになっている。


 だから、俺のところには毎回それが来る。


 そう考えると、妙にしっくりきた。


「……となると、このまま釣りしてても進展ないな」


 ヒットするまでの時間は大体十分。


 そして、水面に顔を出すところまでは毎回上がってくる。


 しかも、出てくるモンスター自体は毎回同じじゃない。違うやつが出てくることもある。


 この湖の主、みたいな一体固定ではないのだろう。


 だが、少なくとも素材ではあるはずだ。


「だったら」


 そこで俺は少しだけ口の端を上げた。


「水面に顔を出した時に、バルに攻撃させて一撃で倒せばいいんじゃないか?」


 釣り上げる必要はない。


 出てきた瞬間に仕留めれば、素材だけは入るはずだ。


「……またろくでもないこと考えてるな」


 レグルスが少し引いた声で言った。


「褒め言葉として受け取っておく」


 ふっふっふっふ。


 今度こそやってやる。


 俺は再び釣り糸を垂らした。


 待つ。


 長い。


 やはり長い。


 だが、もう流れは読めている。


 十分近く経つ、その辺りで来るはずだ。


 そして、そのタイミングで俺はバルへ指示を出した。


「バル、アンカーだ」


 バルがその場に固定される。


 その直後だった。


 ぐいっと、強い引き。


「来た!」


 大物がヒットした。


 ここだ。


「逆方向に突進!」


 バルが勢いをつける。


 水面が揺れる。


 もうすぐ顔を出す。


 今だ。


「バル!」


 バルの攻撃が、水面に出現したモンスターへ直撃した。


 大きな水しぶきが上がる。


 同時に、素材を入手したメッセージが出た。


「よし!」


 思わず声が出る。


 やっぱりこれでよかったのだ。


 ――と思った次の瞬間だった。


 バルの攻撃の影響で発生した大きな水しぶきが、俺とレグルスをまとめて襲った。


「うおっ!?」


「冷たっ!」


 ずぶ濡れだ。


 全身びしょびしょである。


「……まあ、でも」


 俺は濡れた服のまま言った。


「とりあえず、倒せるのも素材が入手できるのもわかったな」


 そこは収穫だ。


 大きい。


「バル! 戻ってこーい!」


 そう呼んだ。


 だが――返事がない。


「……あれ?」


 動きもない。


 まさか、水の中だから指示が聞こえないのか?


 それとも、水の中だと技が使えないとか、そういう判定でもあるのか?


 そこまで考えたところで、ふっと視界が暗転した。


「……あっ」


 拠点に戻されたのか。


 ということは――


「バル、溺死した?」


 そう結論が出る。


 そして目の前を見ると、そこには怒りに震えているバルがいた。


「待ってくれ、バル!」


 俺は即座に言い訳に入る。


「俺は戻ってこいって指示はしたんだ!」


 だが、そんなことはバルにとって何の関係もなかったらしい。


 久しぶりに、バルの突進が俺に直撃した。


「ぐっ!?」


 痛みとともに、再び視界が暗転した。


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