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第85話 釣りなんてクソゲーじゃねぇか!

 まあ、釣り具を買えないのは想定内だ。


 もしかして釣り具だし、買えてもいいんじゃないか、とか。

 称号でNPCの好感度が上がって、少しくらい緩和されたりしないかな、とか。


 一応そういう淡い期待はあった。


 だが、現実はしっかり駄目だった。


「……まあ、だよな」


 こうなったら、いつものれいにゃ召喚だ。


 そう思ってフレンド欄を開いて――舌打ちしたくなった。


「ちっ、今はオフラインか」


 れいにゃは使えない。


 となるとミルトだが、あいつは今、闇商人プレイで遊んでいる最中だ。こっちの都合で呼び出すのも悪い。


 だったら。


「ふっ」


 俺は少しだけ口の端を上げた。


「第三の相手だ」


 そう、俺にはもう一人いる。


 昨日、妙な流れでフレンドになった男が。


「レグルスを召喚する!」


 まさか、早々にあいつとフレンドになった価値が生まれるとはな。


 俺はさっそくレグルスへ連絡を飛ばした。


 事情をざっくり説明して、釣り具店の前まで来てもらう。


 少し待つと、本当にやってきた。


「すまんな、わざわざ来てもらって」


「……フレンドにはなったけど、すぐ呼び出されるとは思わなかった」


 レグルスは露骨に嫌そうな顔をしたあと、そこでバルを見た。


「ところで、その巨大な球体はなんだ? 太ったのか?」


「……進化だ」


 俺は少し間を置いて答える。


「全体イベントで、ヴェイルと戦った時に一体目を倒したところで進化した」


 バルは不満そうだった。


 この話をすると、大体不満そうにしている。


 まあ、理由はわかる。進化した結果に、本人が一番納得していないからだ。


「……まあいいか」


 レグルスも、それ以上深くは突っ込まなかった。


「俺はここで、代わりに釣り具を買えばいいのか?」


「モルは渡すから、一式よろしく」


 そう言うと、レグルスは店の方を見ながら少し感心したように言った。


「しっかし、釣りなんてできるんだな。こんな店があるなんて知らなかったよ」


「俺もさっき知った」


「せっかくだし、俺もやってみるわ」


「……お」


 レグルスも釣りをやる気らしい。


 だったら、ある程度コミュニケーションを取って交流を深めておいた方がいいだろう、と心の中で思う。


「レグルスも釣りに興味持ったなら、一緒にやるか?」


 半ば社交辞令のつもりでもあった。


 だが、レグルスは普通に頷いた。


「いいぞ」


 そういうわけで、俺たちは一緒に湖まで行くことになった。


 道中、レグルスは何度かバルを見ていた。


「戦ってるところを横で見てたけど、巨大化してるのにスピードは落ちてないんだな?」


「今のところは、単純に体積が大きくなっただけって感じだな」


 俺は歩きながら答える。


「攻撃範囲がそのまま広がって、攻撃力とかも増してるっぽい。欠点は的がでかくなったのと、今まで使ってた専用武器が使えなくなったことくらいだ」


「普通は、これだけ大きくなったら攻撃力や防御力が増す代わりに鈍重になりそうなもんだけど」


 レグルスは少し首を傾げた。


「まあ、ゲームだしな」


「それはそう」


 そこはもうそういうものとして受け入れるしかない。


 湖へ着くと、俺たちはそれぞれ釣り具を装着し、糸を垂らした。


「こういうのって、釣り始めると魚影が出るとかじゃないのか」


「出ないな」


 思っていたのと違う。


 もっとこう、ここに魚がいますみたいな親切設計を想像していたのだが、どうやらそうではないらしい。


 ヒットするまで何が来るかわからないタイプか。


 しばらく待つ。


 数分後、先に反応があったのはレグルスの方だった。


「おっ」


 そのまま引き上げる。


 釣れたのは、普通に魚だった。


「ヒットした感覚、楽しいな!」


「最初の獲物はレグルスか」


 レグルスはちょっと嬉しそうだった。


「釣りスキルも解放されたし、これハマるかも」


「マジか」


 その後も、レグルスは何度か釣り上げた。


 七回ほどヒットして、五回は魚、一回は空き缶、一回は素材。


 ちゃんと成果が出ている。


 釣りを楽しんでいる横で、俺の竿には一度も反応がこない。


「……おい」


 ちょっと待て。


 まさか、釣りでヒットするかどうか自体が確率になってるんじゃないだろうな?


 だったら俺、相当不利なんだが。


「時間の無駄では?」


 そう思い始めた、最初に糸を垂らしてから十分近く経った頃だった。


 ぐいっと、強い力で引っ張られた。


「おっ!」


 ようやく来た。


 しかもかなり重い。


「キタキタキター! 大物だ! 一発逆転だ!」


 テンションが上がる。


 そして釣り上げる瞬間、水面から顔を出したのはモンスターだった。


「勝った!」


 そう確信した直後だった。


 プチン。


 嫌な音がした。


 次の瞬間、釣り竿から重さが消えた。


「……は?」


 糸が切れた。


「やっと来て、大物だと思ったのに、ここで糸が切れるのか!?」


 あまりにもひどい。


 バルは横で笑っていた。


「笑うな!」


 俺は気を落ち着けて、再度釣り具をセットし、糸を垂らした。


 今のは事故だ。


 次がある。


 そう思った。


 だが、その後も同じだった。


 十分前後待つ。

 強い反応がくる。

 大物の気配。

 そして、プチン。


 ヒットして、プチン。

 ヒットして、プチン。

 ヒットして、プチン。


「……」


 俺は無言になった。


 レグルスは途中から何とも言えない顔でこっちを見ていた。


 そして、何度目かの糸切れのあと、とうとう俺は叫んだ。


「釣りなんてクソゲーじゃねぇか!」


 湖に向かって全力でそう言いたくもなる。


 やっと来たと思ったら全部大物で、全部糸が切れる。


 これ、俺の運が悪いせいなのか、単に装備が悪いのか、どっちなんだ。


 いや、たぶん両方だ。


 そんな確信だけはあった。


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そういや釣りと言えば運要素強いやつやん
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