第83話 属性素材なんて見たことねぇぞ
昨日は、既にミルトがログアウトしていたので、そのまま俺もログアウトした。
そして今日、学校から帰ってきてログインすると、拠点の中でミルトが何やら装備を整理しているところだった。
「……ん?」
名前が出ているので、ミルトだとわかる。
わかるのだが――なんだその格好は。
黒づくめだ。
全体的に黒い。
怪しい。
というか、かなり怪しい。
「ミルト、もしかして中二病でも発症したのか?」
「……いきなり失礼じゃないですか? 違いますよ」
ミルトは露骨に嫌そうな顔をした。
だが、違うと言われても、そう見えるものはそう見える。
黒づくめで、いかにも裏の世界ですみたいな装いをしていたら、そりゃそういう感想にもなるだろう。
するとミルトは、少しだけ呆れたように言った。
「前に話していたでしょう? 変な武器ができたので、闇商人プレイをやろうかと思いまして……って、なんです? その巨大になったバルは!」
「ああ、そういえばミルトはまだ見てなかったっけ」
言われてみればそうだ。
全体イベントの時にはミルトはいなかったし、この姿を見せるのはこれが初めてだった。
「全体イベントで進化した」
「おお、それはおめでとうございます」
素直にそう返してきたミルトに対し、バルは露骨に悪態をついた。
空気が荒む。
「どうしたんですか?」
「いや、思った形の進化じゃなくてな」
俺はバルを見た。
「食べ過ぎで巨大化しただけっぽい」
「食べ過ぎ……」
ミルトがなんとも言えない顔になる。
その反応はわかる。
進化しました、まではめでたい。だが、その結果が食べ過ぎによる巨大化っぽい、となると、祝いづらいにもほどがある。
「まあ、そんなことはいいんだ」
よくはないが、今は横に置いておく。
「作ってもらった武器が壊れちまってな」
「ああ」
「あと、全体イベントで負けた相手が、物理攻撃が無効なモンスターを使ってた。それの対策用にも武器が欲しい」
するとミルトは、今のバルを見て素直に頷いた。
「まあ、この大きさだったらそりゃ壊れますよ」
「だよなー」
「替えなら、今回闇商人プレイで売る武器にもありますけど」
そこまで言ってから、ミルトは改めてバルを眺めた。
「この大きさだと、使えそうにないですしね」
「そうなんだよ」
そこが問題だった。
大きくなっただけで、重量まで増えている。前みたいにチェーンフレイルとしてぶん回すのは、今の俺じゃ厳しい。
「だから今回は、角みたいな形で属性を付与した武器を作ってほしい」
俺がそう言うと、ミルトは少し考えてから頷いた。
「まあ、いいですよ」
「助かる」
「これからロールプレイをするので、終わった後とかに取り掛かってもいいなら」
「ああ、それは構わない」
むしろ今すぐじゃなくていい。
形の相談も必要だし、何より今回は素材の問題もある。
だが、ミルトはそこで当然のことを聞いてきた。
「でも、属性を付与する素材、持ってるんですか?」
「……ん?」
「前回と違って、今回はありきたりな武器ですからね。素材は用意してもらいますよ?」
「……ああ」
そりゃそうか。
前回みたいな、明らかにおかしい発想から生まれた一点物とは違う。今回は属性付きの武器を作るための、ちゃんとした素材が要るのだろう。
ノーフェイト「属性が付いた素材ってどういうのだ?」
そう聞くと、ミルトはすぐ答えた。
「アイテム欄の説明に、火属性素材とか風属性素材とか書いてあります」
「なるほど」
わかりやすいような、わかりにくいような。
だが、とにかくそういう分類があるらしい。
「じゃあ私は、用意が終わったのでもう出かけますね」
そう言って、ミルトはさっさと出ていった。
黒づくめの闇商人プレイとやらを始める気らしい。
「……本当にやるんだな」
まあ、本人が楽しそうならそれでいいか。
だが、問題はこっちだ。
俺はインベントリを開いた。
「……あ」
嫌な予感が当たる。
素材、もう全部売っちまった。
いや、正確には全部を餌に変えたわけじゃない。
だからモル自体はまだ残っている。そこまで最悪ではない。
だが、素材がない。
「しくったか……?」
一瞬そう思ったが、すぐに考え直す。
いや、一応、売ってもらう前にどんな素材があるかの確認はしていたはずだ。
その時、属性素材なんて文字は見た覚えがない。
「……見落としたわけじゃないよな?」
少なくとも、火属性素材とか風属性素材とか、そんなわかりやすい名前なら覚えていてもよさそうなものだ。
だが、記憶にない。
つまり――
「そもそも、あの辺じゃ手に入ってなかったってことか?」
そう考える方が自然だった。
だとすると、普通の森で雑魚を狩っているだけじゃ駄目なのかもしれない。
属性付きの素材が落ちる場所。
もしくは、そういう素材を持ったモンスター。
次に探すべきものは、どうやらそっちになりそうだった。




