第82話 鍛えるためにまた来ます
まさか、ここまではっきりと「バルでは無理」と言われるとは思わなかった。
だが、そうなると話は逆に見えてくる。
「物理無効に対抗するには、バル以外のモンスターを仲間にする必要があるってことか……」
口に出してみる。
それ自体は、理屈としてはわかる。
バルが物理特化で、今の体では物理的な技しか習得できない。だったら、別の方向を持つやつを用意するしかない。
だが、問題はそこからだ。
今から仲間にしたとして、それを育成して、ヴェイルのモンスターに勝てるところまで持っていくのに、どれだけ時間がかかる?
そこがまるで読めない。
バルがここまで強くなったのは、卵でのトレーニングで限界を超えた育成になっていたからだ、というのはもうなんとなくわかっている。
そうなってくると、他のモンスターを普通に育成したところで、ヴェイルのモンスターを倒せるところまで届くのか?
「……厳しくないか」
正直、そう思う。
次のイベントがプレイヤーを直接狙える形式なら、ヴェイル本人を狙えば倒せそうではある。
だが、それはルール次第だし、それで勝ったと言えるのかと言われると、少し微妙だ。
いや、勝ちは勝ちか。
少なくとも勝利判定になるなら、それはそれで勝ちではある。
問題は、全部ルール次第ということだ。
こっちで再現できる解法ではない。
「何か、別の方法は……」
そう考えていると、レーニーが少し気まずそうに口を開いた。
「力になれそうにないから、おまけだ」
「ん?」
「本来、トレーナーである私が言うべきことではないが……この子が物理無効に対抗できないのであれば、他に求めればいい」
そこで一度区切る。
そして続いた言葉に、俺は少しだけ顔を上げた。
「属性が付与されている武器なんかが、対抗手段になると思う」
「……ああ」
それを聞いて、俺はバルを見た。
イベントで大活躍したのは、バル付きチェーンフレイルだった。
あれは強かった。
速いやつにも、物理特化の熊にも、液体みたいなやつにも、ちゃんと回答になっていた。
だが、あれは進化した時に壊れてしまっている。
よしんば壊れていなかったとしても、今のバルをあの形で振り回すことはできない。
以前の大きさだからこそ成立していた武器だ。
今のバルは、ただ大きくなっただけと言っていい。形状的にも、他に武器を装備できそうには見えない。
「……いや、待てよ」
もしかしてレーニーなら、何か思いつくかもしれない。
そう考えて聞いてみると、レーニーは少し考えてから答えた。
「攻撃用の防具として装備すればいいのでは?」
「攻撃用の防具?」
「そう」
だが、俺はそこでアンカーチャージのことを思い出す。
体当たり、突進、アンカーチャージ。
今のバルの主力は、基本的に自分の体そのものでぶつかる技だ。そこへ防具をつけるとしても、全体を覆う形だと、攻撃のたびに防具自体が大破しかねない。
俺がそのことを説明すると、レーニーは少し考えてから別の案を出した。
「それなら、全部を覆うんじゃなくて、シューズのスパイクみたいな感じはどうだろう?」
「……あ」
それは、ちょっといいかもしれない。
全体を覆う必要はない。
ぶつかる部分だけ、尖らせる。
突き刺さるようにする。
そうすれば、今のバルの物理特化はそのままに、属性付与された攻撃手段を乗せられる可能性がある。
「いいな、それ」
思わずそう漏れた。
だったら、次にやることは決まってくる。
「ちょっとミルトに言って、作ってもらってみるか」
レーニーの特別なトレーニングとやら自体は、正直そこまで役に立った感じはしない。
だが、解決策の糸口はもらえた。
それだけでも、今回ここへ来た意味は十分あったと言える。
「……元は取れたな」
そう思って、ふと別のことを思い出す。
そういえば、さっき称号も得ていた。
一線を越えた鍛錬者、だったか。
俺はその内容を確認してみた。
称号『一線を越えた鍛錬者』
プレイヤーの身体能力向上
「……?」
一瞬、意味がわからなかった。
モンスターだけじゃなくて、プレイヤー自身にもステータス的な力がつくのか?
いや、確かにこのゲーム、妙に生々しいところがあるから、そういう方向があってもおかしくはないのかもしれないが。
「試してみるか」
俺はその場で、横にいるバルを押してみた。
すると――動いた。
「おお!?」
さっきまでの俺なら、ぴくりとも動かないはずだった。
だが、今はちゃんと押せている。
もちろん、大した距離じゃない。だが、動いたという事実がでかい。
「マジか……」
とはいえ、前みたいにぶん回すとか、そこまでは流石に無理だ。
今のバルは単純に大きすぎる。
だが、そこでひとつ考えが浮かぶ。
「……もしかして」
このレーニーに鍛錬してもらったら、これ以上も鍛えられたりするのか?
正直、バル付きチェーンフレイルはめちゃくちゃ強かった。
今聞いたスパイクみたいな形もいいとは思う。だが、当てるのが難しかったり、連続で攻撃できないという欠点がある。
その点、チェーンフレイルはぶん回せばそのまま圧をかけ続けられた。
今の大きさのバルをぶん回すのは無理そうだが、ゲームだし、もっと身体能力向上とか、腕力アップとか、そういう方向があるなら、もしかしたらいけるのではないか。
「……夢はあるな」
だが、とりあえず直近で優先するべきことは決まっている。
バルの武器だ。
スパイクみたいな防具。
そっちが先なのは確定している。
俺のトレーニングをやるとしても、それは今じゃない。
今はまず、バルの武器を優先した方がいい。
「レーニー」
俺はそう呼びかけた。
「解決の糸口は見えた。一旦帰る」
するとレーニーは、特に引き止めるでもなく、扉の鍵を開けてくれた。
「(モンスターを)鍛えるために来るのは歓迎するよ」
その言い方に、少しだけ笑いそうになる。
括弧付きで聞こえた気がした。
「(自分を)鍛えるためにまた来ます」
そう返してから、俺はその場を後にした。
次はミルトだ。
スパイクみたいな防具を作れるか、相談しに行かないといけない。




