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第81話 バルは特別な存在

 レーニーの血が上った頭は、どうやら少し冷えたらしい。


 さっきまでみたいに、一方的に怒鳴りながら走らせる感じではなくなった。


 ちゃんと、こっちの話を聞いてくれる空気になっている。


「……ようやく会話できるか」


 そう思ったのも束の間、今度は今度でレーニーの反応が少し予想と違った。


 また狂ったやつを見る目で接されるのかと思ったのだが、そうではなかったのだ。


 むしろ、俺のことを心配してきた。


 そこは普通に面食らった。


 レーニー曰く、君のモンスターがあり得ない状態だったので、もうそういうことをさせないようにきつく当たるつもりではあったらしい。


 限界ぎりぎりまで教育するつもりはあった。


 だが、死ぬ方がいいと思うほど追い詰めるつもりはなかった、と。


 そのうえで、暗い面持ちで済まなかったと謝ってきた。


「……なんか思ってたのと違うな」


 俺は正直、少し戸惑った。


 こっちは単に、話を聞かないレーニーに対して、一度死に戻りすれば流石に会話が中断されるだろう、くらいのつもりだったのだ。


 なのに、向こうは向こうでずいぶん深刻に受け取っている。


「まあ……」


 でも、俺が有利な状態ではある。


 だったら今はそのまま使わせてもらえばいいか。


 変にここで「いや別にそこまでじゃなくて」と訂正して、また話がこじれても面倒だしな。


「とりあえず、話すか」


 俺はそこで、バルのこれまでの育成について説明した。


 卵状態でもらったこと。

 卵状態でトレーニングしていたこと。

 それが駄目な理由は他のやつに指摘されたこと。

 そのあとバルと和解して、バルが望む姿に進化させたいと思っていること。

 それから、物理無効の相手に対する対抗手段がないこと。


 ここへ来た理由は、その特別なトレーニングとやらで何とかならないかと思ったからだ、というところまでまとめて話した。


 レーニーは最初のうち、特に卵状態でのトレーニングの話で、また少し熱が戻りそうになっていた。


 だが、すでに他のやつに指摘されたこと。

 バルとは和解していること。

 今はちゃんと望む進化先を考えていること。


 そのあたりを聞いて、どうにか落ち着いたらしい。


「……で」


 俺は本題に戻した。


「さっきの、特別なトレーニングってやつなんだけど」


 するとレーニーは、そこで首を振った。


「さっきのは教育だ」


「だろうな」


 そりゃそうだ。


 俺にトレーニングしたところで、バルが強くなるわけがない。


 そこは流石にわかる。


 レーニーは、今度はちゃんと落ち着いた口調で説明した。


 特別なトレーニングというのは、ある程度力を持ったモンスターに対して行うものらしい。


 能力を特化させたり、新たな技を伝授したりする。


 そういう方向のものだと。


「……なるほど」


 それなら、物理無効の相手に対する対抗手段を覚えられるなら、それで解決する。


 少なくとも、ヴェイル相手に何もできなかった状況は打開できるかもしれない。


 俺はすぐに聞いた。


「で、バルは覚えられるのか?」


 するとレーニーは少し考えてから答えた。


 本来は、調べるのも伝授するのも金を払ってもらうものだ、と。


 まあ、その辺は予想通りだ。施設なんだから当然だろう。


 だが、そのあとに続いた言葉は少し予想外だった。


 どうやら君たちの間で解決していることに、いらぬお節介を焼いてしまったようだし、今回はタダで見よう、と言うのである。


「……おお」


 一応、無料券あるし、それを使うことも考えていた。


 だが、タダになるなら黙っておこう。


 ここで律儀に無料券があります、と自己申告する必要もない。


「お願いします」


 俺がそう言うと、レーニーは改めてバルの方へ向かった。


 そして、バルの体を触りながら確認を始める。


 押す。

 撫でる。

 叩く。

 抱えるように触る。


 見ているこっちからすると、だいぶ雑にも見えるが、たぶん本人なりにちゃんと見ているのだろう。


 レーニーはそのまま何度もうんうんと頷いた。


 そして、しばらくしてから、ようやく口を開いた。


「私は色んなモンスターを見てきた。だから結果に間違いはないと思ってもらっていい」


 そこで一度区切る。


 その言い方の時点で、あまりいい方向の前振りではない気がした。


 そして案の定、続いた言葉は期待したものではなかった。


「残念ながら、この子に物理無効に対抗する技を伝授するのは無理そうだね」


「……は?」


 思わず間の抜けた声が出た。


 無理?


 今、無理って言ったか?


 レーニーはそのまま説明を続ける。


 そもそも、バルはすでに物理のみに特化した体になっているらしい。


 普通は特化型でも、ある程度は他の適性が残る。

 だが、バルは違う。


 完全にゼロ。


 物理にのみ特化している。


 そんなモンスターは初めて見た、とまで言った。


「生命の神秘を垣間見た気がする」


 とか何とか、ちょっと感動したようなことまで言っている。


 いや、そこ感動するところか?


 こっちとしては困るんだが。


「少なくとも、今の体だと物理的な技しか習得できそうにない」


 そこで、話は完全に終わった。


「……えっ?」


 俺はしばらく固まった。


 こういうのって、なんだかんだ言って、最終的には解決するものじゃないのか?


 来たら何かある。

 金を払えば何とかなる。

 特別なトレーニングならワンチャンある。


 そういう流れじゃないのか?


 なのに、ここまで来て返ってきたのが「無理そう」って。


「いや、ちょっと待て」


 俺は思わず言った。


「こういうのって、なんだかんだで解決するものじゃないのか?」


 だが、レーニーの顔は真面目なままだった。


 冗談でもなければ、言いにくそうに濁しているわけでもない。


 本当に、その診断結果なのだろう。


 つまり――


 今のバルは、物理一本で行くしかないらしい。


 ヴェイルみたいな相手に勝つ方法を探しに来たはずなのに、返ってきたのは「その体では無理」という宣告だった。


「……マジかよ」


 思わず、そう漏れた。


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