第79話 トレーニングが必要だ
中央のトレーニング施設は、長がいるからか、他の施設と比べて明らかに大きかった。
「でかいな……」
外から見ただけでもわかる。
大体、三倍くらいはあるだろうか。
もっとも、細かく見れば建物自体が豪華というより、単純に敷地が広いだけにも見えた。広いトラック、広い訓練場、広い空きスペース。とにかく広い。
普通の施設より、色々まとめて詰め込んである感じだ。
俺の目的は、この施設にいるというレーニーだ。
特別なトレーニングとやらを、バルが受けられるかどうか。
それがわかれば十分だった。
中に入ると、すぐにそれらしいやつが目に入った。
「……ああ、あいつだな」
筋肉質なやつだ。
イベント会場で見たレーニーで間違いないだろう。
誰かと話しているようだったが、当人は話半分に聞きつつ相手をしているようにしか見えない。
なにせ、自分の筋肉を見ながらしゃべっているからな。
「会話に集中しろよ」
思わず心の中で突っ込む。
だが、先に話しているやつがいるなら順番は待つしかない。
とはいえ、ただ待つだけだと時間が浪費されるだけだ。
少し聞き耳を立てるくらいはいいだろう。
そう思って会話を拾ってみると、どうやら前に聞いた話と同じ流れらしかった。
「お前のモンスターには早すぎる」
そんな感じのことを言われている。
まともに相手をしていないようにしか聞こえない。
「……やっぱりこいつも同じ目的か」
特別なトレーニングを受けさせたい。
考えることはみんな似るらしい。
そのプレイヤーも埒が明かないと思ったのか、少し苛立った顔でこちらを振り向いた。
そして、そのまま俺に気づいた。
「あ」
向こうの顔がわずかに変わる。
俺も話しかけたいんだがいいか、と聞くと、そいつは少しだけ迷ってから、わかったと頷いて俺の後ろへ移動した。
「……再チャレンジするつもりか?」
それとも、俺と同じように後ろから聞き耳を立てて情報を得るつもりか。
まあ、俺もさっきやっていたので、とやかく言うつもりはない。
俺はそのままレーニーの前に立った。
「特別なトレーニングが受けられるって聞いたんだが、俺たちはどうだろうか?」
そう聞く。
するとレーニーは、まず俺ではなくバルをじっと見た。
そして次の瞬間――おもむろに、バルを抱きしめた。
「……は?」
何が起きた。
いや、本当に何が起きた?
聞いていた話と違う。
お前のモンスターには早すぎる、で流されるんじゃなかったのか。
なのに今、筋肉質の男が、うちのうなだれ大玉を抱きしめている。
意味がわからない。
しかもバルの方も、変な顔をしていた。
ぷるぷる震えながら、こっちを見ている。
明らかに困っている目だ。
「いや、そんな目で見られても」
どうすればいいのかわからん。
話しかけづらい雰囲気すぎるだろ。
俺はバルの、どうにかしてくれ、という視線からそっと目を外した。
「……すまん、バル」
今の俺には対処法がない。
後ろに回っている、さっきのプレイヤーも固まっていた。
そりゃそうだ。
目の前で筋肉だるまが、急に他人のモンスターを抱きしめ始めたのだから。
どう反応しろと言うのか。
少しして、ようやくレーニーがバルから離れた。
これで事情を聞ける、と思ったのだが――今度は目から涙がこぼれている。
「……なんだこのイベント」
さっきから意味不明なことしか起きていない。
中央のトレーニング施設って、もっとこう、厳格で特別な場所じゃないのか。
なんで泣いてるんだ、この筋肉。
そしてレーニーは、涙を浮かべたまま俺の方を見た。
そのうえで、一言。
「お前にはトレーニング――教育が必要だ」
笑顔だった。
だが、声は怒っていた。
「……なんか聞いてる話とずいぶんルート違くね?」
俺が受けるんかい。
バルの特別トレーニングを聞きに来たはずなんだが。
後ろを振り返ると、さっきまでいたプレイヤーは、今の一声でいつの間にか逃げ帰っていた。
「逃げ足だけは早いな、おい」
いや、気持ちはわかる。
俺だってできれば帰りたい。
だが、逃げたら逃げたで面倒なことになりそうな空気が、目の前の筋肉から漂っていた。




