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第77話 無料券の価値

 バルの問題は、とりあえず解決した。


 完全に立ち直ったかはまだ怪しいが、少なくとも、あのままうなだれて動かない状態からは脱した。


 それだけでも十分大きい。


「助かった」


 俺は素直に、れいにゃへそう言った。


「あと、餌の補充も頼む」


「はいはぁい」


 れいにゃはいつもの調子で返事をした。


 そのまま売買も頼んだが、今回は特にトラブルもなかった。


 普通に餌を補充できる。


「……いいな」


 思わずそんな感想が漏れる。


 なんだかんだ、俺は何をやってもトラブルに巻き込まれている気がする。だから、こういうちょっとしたことが普通に済むだけで、妙に嬉しくなってしまうのだ。


 餌の補充が終わって一息ついたところで、ふと思い出す。


「そういえば」


 俺はれいにゃを見た。


「お前、レグルス抜いて百位以内に入ってたよな。おめでとう」


 れいにゃは少しだけ目を丸くしてから、素直に笑った。


「ありがとぉ」


 それから、少しだけ得意そうに続ける。


「ノーフェイトには及ばないけどぉ、私もやるでしょぉ?」


「うん、そこは誇っていいと思う」


 これは本音だ。


 契約タイプで百位以内は数人しかいなかった。素直にすごい。


「まぁ、俺は百位以内に一人もいない育成タイプで六位だけどな」


「そこ張り合ってくるんだぁ」


「張り合うだろ、そこは」


 そこはわりと重要だ。


 れいにゃも強かったが、俺の方がもっとやばい位置にいたのは事実なのである。


 ついでに、前から気になっていたことも聞くことにした。


「そういや、無料利用回数券って、もう使ったか?」


「んーん、まだぁ」


「正直、俺あれの価値がよくわからんのよな」


 施設を利用していないから、料金の相場自体がわからない。


 だから、無料券と言われても、金をもらうのとどう違うのか、いまいちピンときていなかった。


 するとれいにゃは、少しだけ困ったように笑った。


「ノーフェイトはそうだよねぇ」


 そこから、れいにゃは説明してくれた。


 ファミリアサロンだけでも、料金による差はかなりあること。

 コースにもグレードがあって、れいにゃがいつも使っているのは一番下の一万モルのコースだということ。

 そして、最上級の百万モルのコースでも無料利用回数券が使えること。


「だから大当たりのアイテムだよぉ」


「……なるほど」


 それはたしかに大当たりだ。


 しかも、れいにゃは俺にわかるようにさらに補足してきた。


「金額自体わからないかぁって思ったから言うけどぉ」


 俺が前に買った高級なご飯が、一個だいたい五百モルから千モルくらい。

 それから、あの湖があった森の近辺のモンスターだと、一体でだいたい千モルくらいのドロップがある感じ。


 そう言われて、ようやくざっくり想像がついた。


「……ああ、なるほどな」


 だいぶわかる。


 一万モルでも普通に高い。

 百万モルは、もう別格だ。


 そして、それが無料になるなら、一番高いやつ一択だろう。


「ってことは、価値としてはかなりやばいな」


「でしょぉ?」


 むしろ、気軽に使えないまである。


 それから俺は、補充された餌の方も見た。


 こっちも、改めて考えると結構する。


「……餌もなかなかだな」


 まあ、よく考えたら今までが使いすぎだっただけかもしれない。


 今回は全部を餌に替えたわけでもないが、そこまで焦る話でもない。


 バルのことを考えても、食べさせるのは基本一日一回だ。今後はそんなに消費することもないだろう。


 そう思って、改めてバルを見る。


 でかい。


 本当にでかい。


 食べた餌の大きさ分だけ大きくなった、と言われても納得しにくいくらいにはでかい。全部消化していなかったとしても、それにしたって大きすぎる。


「……これ」


 俺は腕を組んだ。


「バルが望んだ進化を目指すなら、やることってモンスターとの戦いじゃなくて、先にダイエットなんじゃないか?」


 れいにゃは少しだけ目を瞬かせてから、妙に納得したように頷いた。


「ありそうだねぇ」


 ありそうなんだよな。


 進化条件が戦闘なら、進化結果の補正条件みたいなものとして食事が影響した可能性はある。だったら、その逆だってあり得る。


「……トレーニング施設か」


 ダイエット目的に、トレーニング施設を使わせてもらえないか確認しに行くのはありかもしれない。


 前はもう育成限界だと言われた。だが、あれは基礎トレーニングの話だ。今のこの大玉状態をなんとかするための運動まで駄目とは限らない。


 少なくとも、試す価値はある。


「れいにゃ、ありがとな」


 俺はそう言って礼を伝えた。


「今回かなり助かった」


「どういたしましてぇ」


 れいにゃは機嫌よさそうに手を振った。


 そこで、ひとまず今日は別れることにした。


 こっちはこっちで、次に試すことが見えてきたからだ。


 バルをもう一度見上げる。


 やっぱりでかい。


「……まずは、お前のその体から何とかするか」


 そう呟きながら、俺はトレーニング施設の方へ向かうことにした。


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