第75話 レグルスとフレンドになった
れいにゃは、レグルスの姿を見た瞬間に回れ右をして立ち去ろうとした。
「おい、待て待て」
俺は慌てて呼び止める。
ここで帰られると、流石に話が進まない。レグルスの方も、せっかくここまでしおれた顔で来たのに、何も言えず終わるのはきついだろう。
れいにゃは露骨に嫌そうな顔のまま、こっちを振り返った。
「なんでいるのぉ……」
「謝罪したいらしい」
「はぁ?」
そりゃそういう反応にもなる。
俺だって最初は同じだった。
なので、俺はレグルスがどうしてこうなったのかを簡単に説明した。
れいにゃ、というプレイヤー名。
間延びした喋り方。
運が良い、という言葉。
その辺から、自分が好きな人と同じだと思い込んだこと。
現実世界では接点がないから、ゲームで近づこうとしたこと。
だけど、本人に手紙で確認してみたら「違う」と返ってきたこと。
そこまで話すと、れいにゃは途中までは普通に聞いていたのだが、「違う」のところで変に固まった。
「……?」
少しだけ気になったが、れいにゃはすぐにいつもの顔へ戻った。
話自体は飲み込めたらしい。
そしてレグルスの方も、改めて頭を下げた。
今まで変に付きまとったこと。
勘違いで迷惑をかけたこと。
もう今後はそういうことはしないこと。
れいにゃは、その謝罪を受け入れた。
「まあ、今後変なことしないならいいよぉ」
わりとあっさりだった。
だが、それで十分なのだろう。
レグルスの方も、露骨に肩の力が抜けたように見えた。
「で」
俺はそこで、ひとつ気になっていたことを聞いた。
「れいにゃは好きな人と違うってわかったけど、これからどうするんだ?」
レグルスは少しだけ視線を逸らしてから答える。
「……お年玉、だいぶ突っ込んだし」
「そこかよ」
「ゲーム自体は面白いから続けるさ」
まあ、そこはそうか。
今さら全部投げるのももったいないだろうしな。
「今度は追っかけたりしない。その分、普通に遊ぶよ」
その言い方には、もうさっきまでみたいな刺々しさはなかった。
険が取れた、という感じだ。
「……なんというか」
俺は少しだけレグルスを見た。
こいつ、だいぶ自分本位ではある。視野も狭い。思い込みも激しい。
そこは間違いない。
好きな相手だと勘違いして、ストーカー紛いのことをしたのははっきり駄目だ。
だが、間違っていたと自覚したらちゃんと謝るし、誤解さえなければそこまで悪いやつではないのかもしれない。
少なくとも、昨日まで思っていたほどには単純な嫌なやつでもなさそうだった。
それに、ヴェイルには負けたとはいえ、イベントでのことを考えると、こいつ自体はそれなりに強い。
なら、今後どこかで役に立つかもしれない。
「じゃあ」
俺は軽く言った。
「仲直りにフレンドにでもなるか?」
するとレグルスは、少しだけ驚いたあと、妙なことを言った。
「それが謝罪になるなら」
「……は?」
一瞬、意味がわからなかった。
フレンドになることが謝罪ってどういう理屈だ?
そう思ってから、すぐに気づく。
「あ」
俺のフレンドになるということは、狂人の友達になるというデメリットがつくんだった。
レグルスからすると、俺に付きまとっていたことへの埋め合わせとして、そのデメリット込みで受ける、みたいな意味合いらしい。
「いや、すまん。忘れてくれ」
そこまで考えてから、俺は自分で言っておいて撤回した。
だが、レグルスはそのままフレンド申請を飛ばしてきた。
「おい」
「お前が言ったんだろ」
「いや、そうだけどさ……」
流石に俺から言い出した手前、ここで断るのも変な話だ。
結局、俺は申請を受けた。
こうして、なんとも言えない形でレグルスともフレンドになった。
謝罪も終わり、話も済んだので、レグルスとはそこで別れた。
去っていく背中は、来た時よりは少しだけ軽くなって見えた。
そのあと俺は、れいにゃと一緒にバルを置いてきた道へ戻ることにした。
餌の店はその先にあるし、ちょうどいい。ついでにバルも見てもらうつもりだ。
歩きながら、俺はれいにゃに聞いてみた。
「お前にとっても、あれでよかったのか?」
「よかったよぉ」
れいにゃはあっさり頷いた。
「肩の荷もおりたにゃぁって感じぃ」
語尾がちょっと怪しかったが、まあ本人がそう言うならそうなのだろう。
「……もしさ」
俺は少しだけ探るように言った。
「れいにゃが本当にレグルスの好きな相手だったとしても、認めるわけないよな」
「そ、そうだよねぇー」
微妙にどもった。
怪しい。
俺がじっと見ると、れいにゃは慌てたように言い足した。
「ほんとに違うからね!」
「……」
こいつのはロールプレイだと、俺はもうわかっている。
だから違うのはわかっている。
わかっているんだが――逆に、違うからね、と念押ししてくるのは別の意味で怪しい。
「こいつ、まさか関係者か?」
そんな考えが頭をよぎる。
ロールの甘いこいつなら、名前でも出せばもっとはっきり反応しそうではある。
だが、それをやると逆に俺も同じ学校だとばれる恐れがある。
暴けたところで、そこまで大きな得でもない。
「……まあ、いいか」
とりあえず、知らないふりをしておくことにした。
こいつのことだから、どうせどこかでまたぼろを出すだろう。
それに、もし本当に同じ学校だったとしても、俺が同じ学校だというのがばれていない状態の方が望ましい。
情報ってのは、こっちは知っているが、相手はこっちが知っていることを知らない、くらいの状態が一番価値が高いからな。
そうこうしているうちに、放置していた場所の近くまで戻ってきた。
さて、バルを見たれいにゃがどんな顔をするのか。
そのへんも、少しだけ気になるところだった。




