表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/76

第69話 物理無効が強すぎる

 降参を宣言したことで、俺はやられた判定になった。


 その場で即退場、かと思ったが、どうやらそうではないらしい。


 少しだけ会話する猶予があって、そのあと観戦フィールドへ飛ばされる仕様のようだった。


「まさか、ここで降参されるとは思わなかったわ」


 ヴェイルが、さっきと同じ冷めた顔でそう言った。


「そっちこそ、物理無効とか出してくるとは思わなかったんだが」


 俺がそう返すと、ヴェイルは少しだけ肩をすくめた。


「相性が悪かったわね」


「悪すぎるだろ」


 こっちは物理一本だぞ。


 いや、正確には一本じゃない。アンカーチャージも、チェーンフレイルもある。だが、どっちにしろ物理だ。そこをまとめて無効化されたら、そりゃ降参するしかない。


「でもぉ」


 ヴェイルはそこで、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「なんだかんだ言って、他のプレイヤーとは違って面白かったわよ、あなた」


「そりゃ他のプレイヤーとは違うだろうな」


 思わずそう返す。


 バル付きチェーンフレイル。

 戦闘中の進化。

 極めつけは、自分のモンスターから最大火力を食らって終わるという締め方だ。


 俺がお前の立場でも、たぶん忘れられない相手だわ。


「……まあ、負けは負けだ」


 そう言って、俺は小さく息を吐いた。


 だが、不思議とそこまで悪い気分ではなかった。


 一体しか倒せなかったとはいえ、相手はどう見ても格上だったし、ポイントも今の時点で二位だ。ここで落ちても、たぶん十位以内には残るだろう。


 だったら十分だ。


 そう思ったところで、ふと頭に浮かんだ。


「……あ」


 そういえば、レグルスのことを忘れていた。


 塔で決着をつけるとか何とか、あいつにはそんな約束をしていたはずだ。


 俺はそこで、ひとついいことを思いついた。


「なあ」


 俺はヴェイルを見た。


「最後にひとつだけ、心残りがあるんだが」


「何?」


「塔で、レグルスってやつと決着をつける約束をしてたんだよ」


 もちろん、本当は心残りなんてない。


 だが、あれだけ俺に突っかかってきたやつだ。最後くらい、俺に関わると損しかないとはっきり自覚してもらわないとな。


「ふぅん?」


 ヴェイルは少しだけ興味を持ったようだった。


「そいつ、強いの?」


「一応な。少なくとも、序盤で雑魚狩りしてる連中よりはちゃんとしてる」


 そう言うと、ヴェイルは何か考えるように目を細めた。


 よし。食いついた。


 ついでに、俺としてはヴェイルの二体目のモンスターの戦い方にも少し興味があった。今後また戦うことになった時のために、何かひとつでも情報が欲しい。


 そのためにも――


「少しは粘ってくれよ、レグルス」


 俺は心の中でそう呟いた。


 そのあと、短く二言三言交わしてから、俺は観戦フィールドへ飛ばされた。


 そこは、思っていたより静かな場所だった。


 他のプレイヤーがずらっと並んで観戦しているわけじゃない。


 どうやら、観戦は個人ごとに見る形式らしい。見たくなければそのまま帰ることもできる仕様のようだった。


「それはいい配慮だな」


 他人の戦闘にそこまで興味がないやつからしたら、さっさと報酬だけ確認して帰りたいだろうしな。


 だが、俺は帰らない。


 このあとヴェイルの戦闘を見る。


 レグルスのやられっぷりを見るためだ。


「頼むぞ、レグルス」


 いや、勝てとは言わん。


 流石にヴェイル相手に勝てとは言わないが、少しは見せ場を作ってくれよ。


 そう思いながら観戦画面を開いていると、ヴェイルはあの鳥型モンスターのおかげか、かなりの速度で塔まで移動していた。


 そして、どうやら本当にレグルスと会えたらしい。


「おお、やるじゃん」


 俺は少しだけ感心した。


 そこで戦闘が始まる。


 一体目に出てきたのは、前に見た固いゴーレムだ。


「というか何気にモンスター三体あるってことは、一体も落ちずにここまで生きてたのか?」


 やっぱあいつ、侮れないな。


 レグルスは運がよかったのか、あるいはちゃんと立ち回っていたのか。どっちにしろ、ここまで三体温存してきたのは事実だ。


 ゴーレムは、俺の見立てでは見た目通り物理タイプらしい。


 石の塊を飛ばしたり、肉弾戦を仕掛けたりしている。だが、ヴェイルの炎の精霊っぽいやつには、どうにもダメージが入っていないように見えた。


「やっぱ物理無効か……」


 俺が呟いた直後、今度はヴェイル側が動いた。


 何か唱えたように見えた次の瞬間、ゴーレムが炎上した。


「攻撃魔法かなにかか?」


 少なくとも、遠距離の魔法っぽい攻撃手段があるということだな。


 やはりあの精霊は、ただ物理を無効化するだけじゃない。攻撃手段までしっかり持っている。


 一体目のゴーレムは、そのまま押し切られて終わった。


 次にレグルスが出したのは、あのアンカーで失敗したチーター型のモンスターだ。


「おっ」


 これは少し期待できるかもしれない。


 速度で翻弄して、炎の精霊にも照準がつけられていなさそうだ。


 ただ、見ていてすぐわかる問題もあった。


「チーターの方も、物理が効かない相手には決め手がないな……」


 膠着するかと思った。


 だが、そうはならなかった。


 長い詠唱時間をかけたのか、精霊っぽいやつの周囲に炎が集まり始める。そして、次の瞬間、それが竜巻みたいに広がった。


「うわっ……」


 思わず声が出る。


 プレイヤーにダメージがないイベントフィールドだからまだいいが、普通の戦場だったら巻き添えを食うような範囲魔法だ。


 しかも、範囲は申し分ない。


 チーター型のモンスターは風のように速かったが、その炎の渦からは逃げきれなかったらしい。巻き込まれて、そのまま消えた。


「範囲攻撃まであるのかよ……」


 これは強い。


 物理無効に加えて、遠距離魔法と範囲制圧。


 流石に盛りすぎでは?


 そして最後の三体目。


 レグルスが出したのは、最初に俺と戦った時にもいた鳥型のやつだった。


「……ああ」


 今、改めて見てみると、ヴェイルが乗っていた鳥型と比べて、ちょっと格下と言ってしまってもいい感じだった。


 性能差が見た目から滲み出ている。


 レグルスの表情も暗い。


 自分でもわかっているのだろう。


 案の定、その鳥型は大したダメージも与えられないまま終わってしまった。


「まあ、そうなるよな……」


 そして戦いが終わる。


 そのあと、ヴェイルがレグルスに何か一言告げたようだった。


 次の瞬間、レグルスがその場に崩れ落ちる。


「何を言ったんだ?」


 そこは気になったが、観戦ではプライバシー保護なのか、喋っている内容までは聞こえない仕様らしい。


 くそ、そこが一番見たいのに。


「まあ、でも」


 俺は少しだけ満足していた。


 レグルスも、これでわかっただろう。


 俺に突っかかってきていたくらいじゃ、上には上がいるということを。


 そうしてその後も、俺はヴェイルの戦いを見続けた。


 だが、結局最後まで、あの炎の精霊にまともなダメージを与えられるやつはいなかった。


「物理ダメージ無効、強すぎでは?」


 心からそう思う。


 いや、本当に強い。


 あれを突破するには、こっちも魔法か、それに準ずる何かが要るんじゃないか?


 少なくとも、今の俺の手札ではどうにもならない。


「でもまあ」


 俺はそこで小さく息を吐いた。


「見るもんは見れたか」


 レグルスのやられっぷりも見られた。

 ヴェイルの戦い方も見られた。

 そして、自分の今後の課題も少し見えた。


 負けはしたが、完全な無駄ではない。


 そう思いながら、俺は観戦画面を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ