第70話 育成で六位なら上出来だ
ヴェイルは、あの後も一位を譲らなかった。
どころか、途中からは他のプレイヤーがそんなに強くないと判断したのか、もう一人NPCまで倒しに行っていた。
「容赦ねぇな……」
観戦しながら、思わずそう呟く。
結局そのままイベント終了時刻になり、ヴェイルは二位以下を大きく引き離しての堂々たる一位で終わった。
文句なしだ。
あそこまで差をつけられると、逆に清々しい。
「いや、強すぎだろ……」
改めて思う。
あの後見た結果でいくなら、ひとつだけはっきりしたことがある。
ヴェイルと戦うためには、最低でも属性系か、それに近い何かしらの攻撃手段がないと、そもそも戦う場にすら立てない。
物理が通らない。
それだけで、今の俺の手札はほぼ封殺だ。
アンカーチャージも駄目。
チェーンフレイルも駄目。
だったらもう、別方向の攻撃手段を持ってこないと話にならない。
「課題がわかりやすいのは、まあ助かるか……」
負けたのは事実だ。
だが、何が足りないのかはっきり見えたのも事実だった。
そうして、イベント終了後に最終順位を確認してみる。
「……六位か」
悪くない。
いや、むしろかなりいい。
俺も一度は一位になるくらいのポイントまで行っていたとはいえ、最終的な順位は六位にとどまった。
やはり最後らへんのポイントが大きいのだろう。
残っているのは、当然高ポイントのやつばかりだ。そういう連中同士で戦えば、一気に上下するのもわかる。
「最後まで居残ったやつ同士で殴り合えば、そりゃ伸びるよな」
ポイント制度としてはかなりそれっぽい。
序盤に雑魚を狩るだけでは頭打ちになるようにできているのだろう。
その時だった。
不意に通知が割り込んできた。
称号『第一回ポイント争奪戦六位』を獲得しました
「……お?」
イベント順位で称号までつくのか。
少し気になって、そのまま詳細を開く。
『第一回ポイント争奪戦六位』
第一回ポイント争奪戦において六位入賞を果たした者に贈られる称号。
NPCからの評判アップ。
「評判アップ、ねぇ……」
思わず小さく呟いた。
プラスなのはありがたい。そこは素直にありがたい。
だが、こっちは今まで評判ダウン系の称号を山ほど積み上げてきている。正直、これ一つでどうにかなる気はしなかった。
「焼け石に水じゃないか?」
そう思いはしたが、ないよりはマシだ。
むしろ、こういうイベントで上位に入るたびに少しずつ積み上がるなら、いつかはまともになるのかもしれない。
「……何回か入賞すれば、さすがに改善するか?」
そこまでいくと地味に希望が見えてくる。
評判はずっと足を引っ張ってきた。店にも入れないし、普通の依頼も受けにくい。
それがイベントの結果で少しでも戻せるなら、今後の参加にも意味はある。
そうしてランキングを上から順に見ていく。
名前の横には、召喚だの契約だの育成だののマークも出ていた。
「……ああ、やっぱそうなるか」
ざっと見た感じ、上位はほとんど召喚だ。
契約が少し混じる。
育成は、ほとんど見当たらない。
いや、ほとんどどころか――
「俺以外、百位以内に育成いないのかよ」
思わず口に出た。
つまり、育成の中だけで見れば、俺が確実にトップだ。
召喚が一番強い。
少なくとも今回の結果だけ見れば、そう判断するのが自然だった。実際、ヴェイルは他のやつらとはまるでレベルが違ったしな。
「まあ、召喚が最初から強いって話は聞いてたしな」
そこは説明通りか。
逆に言えば、育成でここまで来れたのはかなり頑張った方なのだろう。
そう思っていると、ランキングの下の方で見覚えのある名前を見つけた。
「……れいにゃ、八十九位か」
ちょっと驚いた。
結構強かったので、最初の方で脱落はないだろうとは思っていた。
だが、まさか本当に百位以内へ入っているとは。
「あいつ、思ったよりちゃんとやるな……」
花畑で見た戦い方を思い出す。
時間はかかる。
だが、型にはまれば強い。
イベントみたいに生き残り重視の場なら、確かに相性は悪くないのかもしれない。
そして、さらに下へ視線をやる。
「……おっ」
見つけた。
「レグルス、お前の順位は百三位か」
れいにゃより下だった。
なんとも言えない気分になる。
きっとあいつは、俺との戦いのために、自分のモンスターがやられない程度の相手を選んで戦っていたんじゃないかと思う。
俺を叩きのめす、という目標で動いていたのなら、その行動もわからなくはない。
わからなくはないが――
「その結果が、れいにゃより下ってのは、ちょっとあれだな……」
いや、まあ。
最後にレグルスへヴェイルをけしかけたみたいな形になったのが原因のひとつかもしれないけど。
あれがなくても、れいにゃに勝てたかと言われたら怪しいしな。
「……まあ、しょうがないだろ」
向こうが勝手に俺へ執着してきたんだし。
とりあえず、イベントの結果としてはこんなものだった。
そうして報酬一覧を確認する。
十位以内の順位報酬。
百ポイント報酬。
それに参加報酬。
合わせてもらえたのは――
「第一回入賞トロフィー、六位。???への招待状、Aランク。施設の無料回数券五枚。スキル経験値の書、か」
思わず一つずつ読み上げる。
順位報酬でもらえた「???への招待状(Aランク)」は、見た目だけでは使い方がまるでわからない。
「招待状って名前なら、どっか特別な場所へ行けるチケットだったりするのか?」
先行体験とか。
特別イベントとか。
そういう類のアイテムっぽい気はする。
Aランクなんてついてるあたり、価値はありそうだ。
だが、今の時点では何も断定できない。
「これは保留だな」
次に百ポイント報酬。
施設の無料回数券五枚。
「……これもなぁ」
正直、有用性がまだよくわからない。
そもそも施設の利用料を俺ははっきり知らないのだ。だから、五枚が高いのか安いのかも判断しづらい。
無料券が金の代わり扱いなら、俺は拒否されそうだし、そもそもそんなものを報酬に入れていいのか、という気もする。
そのまま金でいいじゃん。
「まあ、使えるなら使う、くらいか」
そして最後に、参加報酬のスキル経験値の書。
「……これだけは普通に当たりだな」
この中で唯一、わかりやすく意味がありそうなのはこれだった。
うまく使えば、編成枠のスキルか何かを伸ばせるかもしれない。
あるいは別の何かかもしれない。
まだどこへ使うかは決めていないが、少なくとも腐る感じはしない。
「まあ、思った以上にバルは強いってわかっただけでも儲けものだしな」
そこへ、スキル経験値の書までついた。
順位も六位。
育成の中では事実上トップ。
「……全然ありだわ」
そう考えると、かなり満足度は高い。
もちろん、一位を見てしまった後だと、もう少しいけたかもしれないと思わなくもない。
だが、今の手札でここまで来れたなら上出来だろう。
俺はそう思いながら、横にいるバルを見た。
進化したばかりの大玉は、やっぱり少し落ち込んでいるように見える。
いや、少しか?
わりとしっかり落ち込んでいる気がする。
そりゃまあ、自分の望んでいた進化じゃなかったんだろう。
「……そんな落ち込むなって」
声をかけてみるが、反応は鈍い。
だが、今はこれ以上どうしようもない。
俺だって、進化先については色々言いたいことがある。
あるが、終わったものは仕方ない。
「今日はもう終わりだ」
俺はそう言って、イベント結果の画面を閉じた。
六位。
招待状。
無料回数券。
スキル経験値の書。
思ったより悪くない。
そして、バルの強さも十分確認できた。
「……よし」
今回の結果には満足していいだろう。
そう結論づけて、俺はまだ落ち込んでいるバルを尻目に、その日のゲームを終えた。




