第66話 NPCを倒したやつが現れた
あの通知があった後から、敵の毛色が変わった。
一撃で沈むような雑魚っぽいやつじゃない。普通に強いやつばかりだ。
アンカーチャージでも一撃で倒れない。耐久力が高い。
「……流石に百ポイント超えたあたりから、本命が寄ってくる感じか」
思わずそう呟く。
今までは、育成一体だと侮って突っ込んでくるやつが多かった。
だが今は違う。
見えている情報が増えたことで、強いやつらが「それでも勝てる」と判断して挑んできている感じがする。
つまり、本当に強いやつだけが寄ってきているのだろう。
「面倒になってきたな、バル」
バルは小さく揺れた。
たぶん、こいつは嫌いじゃない。
俺の方は、まあ、嫌いではないが、疲れる。
普通に強いやつ相手なら、まだ何とかなった。
アンカーチャージで一撃で落ちなくても、何度か当てれば倒せる。そこはまだ読み合いの範囲だ。
だが、速いやつはそうもいかない。
アンカーチャージが当たらない。
正確には、狙えなくはないが、狙い続ける前にこっちが削られる。レグルスのチーターの時から思っていたが、あの手の相手にアンカーチャージ一本は無理がある。
「……しょうがない」
そこで、切り札を出した。
バル付きチェーンフレイルだ。
正直、まだ温存したかった。
見た目のインパクトがあまりにも強いからな。見られた時点で、次から警戒される可能性が高い。
だが、当てられない技を抱えたまま負けるよりはマシだった。
実際、効果はあった。
相手はその武器を見た瞬間、明らかに動揺したのだ。
「……そりゃそうなるよな」
俺だって初見で見せられたら引く。
チェーンの先についているのが鉄球ではなく、丸くなって硬質化したモンスターなのだ。意味がわからないにもほどがある。
その一瞬の隙に、叩き込む。
なんとか勝てた。
「やはり見た目のインパクトも武器だな」
しみじみと思う。
いや、武器そのものがバルなんだが。
チェーンフレイルは、速いやつ相手への回答としてちゃんと機能していた。
見た目はネタみたいでも、思った以上に頼もしい切り札だ。
さらに、液体状のモンスターが相手でも有効だった。
防御力自体はそこまで高くない。
ただ、短いタイミングで何度も当てる必要があった。普通の打撃だと流される感じがあるが、チェーンフレイルならテンポよく連続で叩き込める。
そういう意味では、こっちも相性が悪くなかった。
苦戦はした。
だが、倒せないわけではなかった。
「……本当に切り札なんだな、これ」
改めて思う。
ネタ武器みたいな見た目をしているくせに、ちゃんと難敵への回答になっている。思った以上に頼もしい武器だった。
その時だった。
不意に通知が割り込んでくる。
称号『狂戦士』を獲得しました
「……は?」
思わず変な声が漏れた。
今か?
いや、待て。これ、バル付きチェーンフレイルを使い始めた時じゃなくて、なんで今なんだ?
少し考えて、すぐにひとつ思い当たる。
「……観戦か?」
このイベントは脱落者が観戦状態になる。
だったら、どこかのタイミングで大勢に見られていたとしてもおかしくない。
モンスターを武器にして振り回しているところを、観戦していた連中にまとめて見られたから――そういうことなら、一応筋は通る。
「通るけど、嫌な筋だな……」
そう呟きつつ、詳細を開いてみる。
『狂戦士』
大勢の視線の中で常軌を逸した戦い方を行った者に贈られる称号。
モンスターを武器として扱う際、攻撃力上昇。
「……有用じゃねぇか」
名前は嫌だが、効果はかなり良かった。
今の俺にとって、バル付きチェーンフレイルは間違いなく切り札だ。その攻撃力が上がるなら、ありがたくないわけがない。
「なんでそんな方向にばっかり噛み合うんだよ……」
小さく呟く。
運が悪いくせに、こういう狂った戦い方だけは妙にゲーム側と相性がいい気がした。
バルは横で、少しだけ嫌そうな空気を出した。
「いや、名前が気に入らないのはわかるけど、効果はいいだろ」
納得していない感じで揺れていたが、少なくともチェーンフレイルがさらに強くなったのはありがたかった。
今当たっている連中は、今までみたいなハイエナどもとは少し違っていた。
割と気持ちのいいプレイヤーが多かったのだ。
負けても変に喚かない。
こっちの強さを見て、素直に驚く。
あるいは悔しがるにしても、筋は通っている。
……まあ、一人だけ例外はいたが。
「ギャーギャーうるせぇな……」
液体状のモンスターを使っていた、メスガキ感のあるやつだ。
あいつだけはずっと喚いていた。
負けそうになるたびに文句を言い、チェーンフレイルを出したら狂ってるだの何だのと騒ぎ、最後まで騒音みたいな戦いだった。
「二度と当たりたくねぇ」
心からそう思う。
それでも倒したは倒した。
だが、問題は別にあった。
この武器を何度も使ったということは、つまり餌を大量に消費したということだ。
そろそろ手持ちがなくなってきた。
あれだけ大量にあったはずの餌が、もう数えるほどしかない。
「……やばいな」
俺はインベントリを見て、小さく舌打ちした。
チェーンフレイルを使うたびに、バルの機嫌取りで餌をやっていたのだ。強いし便利だし、本当にいい武器なんだが、維持費が重いにもほどがある。
「このままじゃ、先に餌が尽きるぞ」
ポイントは順調に増えている。
むしろ順調すぎる。
気がつけば、もう百六十ポイントを超えていた。
このまま一位独走かと思った、その時だった。
通知が入る。
『ヴェイルがモンストルを撃破しました!』
「……は?」
NPCを倒したやつがいる?
俺は思わずランキングを開いた。
すると、俺の順位が二位に下がっていた。
NPCを倒したヴェイルが、一気に一位へ上がってきた感じだ。
「モンストルって、あのNPC紹介にいたやつか……?」
だとしたら、百ポイントだ。
それだけで一気にまくれる。
しかも、位置表示を見ると、割と近い。
「……気になるな」
今の時点でも俺は十分上位だし、時間もそこまで残っていない。
このまま守りに入るのもありだ。
だが、モンストルを倒したヴェイルってやつは明らかに気になる。
NPCを倒せるやつ。
しかも、このタイミングで一位へ上がってきたやつだ。
「挑みに行くか?」
そう考えた、その時だった。
マップ上のヴェイルが、俺のところまで猛スピードで近づいてきているのに気づいた。
「……は?」
通常の走る速さでは決してない。
明らかに、何か別の移動手段だ。
俺はすぐに、表示されている方角へ顔を向けた。
そして見えた。
「鳥型か」
どうやら、鳥型のモンスターに乗って移動しているようだ。
なるほど、そういう手があるのか。
空から近づけるなら、そりゃ速い。
そして、目の前まで来て確認すると――召喚マークの三体持ち。ポイントは二百三ポイント。
「……これは」
今まで戦ってきたやつらも、なかなか強かった。
だが、こいつは完全に格上だろう。
空を飛ぶ移動手段。
三体持ちの召喚。
NPC撃破済み。
そして二百超えのポイント。
肩書きだけで、今までの相手とは違うとわかる。
ヴェイルは、そんな俺へ冷めた目を向けて、淡々と言った。
「見逃してあげてもいいけど……やる?」
「……」
挑発とも、確認ともつかない声音だった。
だが、そう言われて引くのも癪だ。
見逃してやる、みたいな言い方をされている時点で、完全に上から見られている。
だったら――
「上等じゃねぇか!」
俺は笑って返した。




