第67話 まさかここで進化か!?
ヴェイルの一体目は、今乗ってきた鳥型のモンスターじゃないらしい。
飛べるし速いし、そいつを出す方が有利に戦えそうなものだと思って、俺はそのまま口にした。
「その鳥を出した方が強いんじゃないか?」
するとヴェイルは、冷めた顔のまま答えた。
「あなたを倒した後の移動用だから。万が一でもあると困るしね」
「……余裕あるじゃねぇか」
本気でそう思った。
しかも嫌味ではなく、素で言っている感じなのがまた腹立つ。
そして出てきた一体目は、熊型のモンスターだった。
しかも、爪には装備まで着けている。
「同じ物理タイプってことか」
だったら話は早い。
こっちはここまで、アンカーチャージを何度も決めてきた。速度も命中精度も、最初の頃とは比べものにならない。
「バル! しょっぱなからアンカーチャージで決めてやれ!」
バルが即座に反応する。
アンカーを置く。
逆方向へ突進。
引き戻しの勢いを乗せて一直線。
見事に熊型のモンスターへ命中した。
「よし、まず一体――」
そう思った次の瞬間だった。
「……は?」
ぶち抜いたはずのバルが、そのまま向こうへ抜けず、逆にこちらへ戻ってきたのだ。
しかも勢いそのままで。
「うおっ!?」
次の瞬間、俺の体へバルが直撃した。
視界がぶれる。
よろける。
だが――死なない。
「っ……!」
そこでようやく思い出す。
このイベントでは、プレイヤーへのダメージは無効化されている。
「危なっ……!」
普通のフィールドだったら、今ので死んでたぞ。
ヴェイルも、少しだけ目を見開いていた。
だが、すぐに先ほどまでの冷めた顔へ戻る。
「私のジェルベアに対して、物理攻撃でここまでやるなんて相当な攻撃力ね……」
そして、わずかに口元を上げる。
「でも残念ね。この子は対物理に特化した子よ?」
「ジェルベア、ね」
なるほど。
ただ硬いんじゃない。
物理に対して受けて返すタイプか。
だから、アンカーチャージでぶち抜いた勢いが、そのままこっちへ跳ね返ってきたのだろう。
「面倒なやつを出してきやがる……」
そこからは、一進一退の攻防だった。
こっちの攻撃は当たる。
だが、致命打にならない。
向こうの攻撃も、一撃で終わるほどではない。けど、確実に削られる。
バルの耐久は高い。そこは間違いない。
だが、このままジェルベアを通常の形で削りきったとしても、その先に残り二体を片付けるだけの余力が残るとは思えなかった。
「……しかたない」
俺は歯を食いしばる。
意表を突く、という意味ではもう遅い。
こいつには、切り札を見せるしかない。
「バル! あれをやるぞ!」
バルが俺の隣へ戻ってくる。
俺は即座にチェーンフレイルを取り出した。
そして、バルに装着する。
ヴェイルの目が、初めてはっきり動いた。
やはり初見だとそうなるか。
「物理が効きにくいなら、効くまで叩き込む!」
俺はそのまま、遠心力を乗せてジェルベアへ突撃した。
ぐるん。
ぐるん。
そして――叩きつける。
鈍い衝撃。
だが、一撃では終わらない。
「だったら連打だ!」
もう一度。
さらにもう一度。
連打、連打、連打。
今までの相手なら、バル付きチェーンフレイルはだいたい一撃で終わっていた。
だが、こいつには足りない。
なら、足りるまで叩き込むだけだ。
その間、ヴェイルの指示が一瞬遅れた。
余裕綽々だった顔が、初めて崩れる。
見たことのない武器。
見たことのない攻撃方法。
その戸惑いが、そのまま隙になっていた。
「そのまま押し切れ、バル!」
物理耐性があるとはいえ、流石に限度はあるのだろう。
何発も叩き込まれたジェルベアは、ついにその場へ崩れ落ちた。
「よしっ!」
だが、喜ぶ暇はない。
すぐに二体目が現れる。
今度は、燃え上がる炎の精霊みたいなモンスターだった。
「ちっ……」
ジェルベアを倒したことで、ヴェイルも余裕を失うかと思ったが、そうでもなかった。
むしろ、さっきの驚きから立て直したのか、表情はもう元に戻っている。
完全に冷静だ。
「切り替え早ぇな」
だが、こっちも止まれない。
もうヴェイルには、バル付きチェーンフレイルを見せてしまったのだ。
隠し札でも何でもない。
だったら、後はもうそのまま押し込むしかない。
「続けてぶん回すぞ!」
俺がそう叫び、チェーンフレイルをさらに振り上げようとした、その時だった。
「……ん?」
違和感があった。
チェーンの先端にいるバルが、光っている。
最初は見間違いかと思った。
だが違う。
明らかに、バルの体がうっすらと発光している。
「なんだ?」
思わず目を細める。
そして、次の瞬間にはそれが何を意味するのかに思い当たってしまった。
「……まさか」
嫌な予感と、期待と、困惑が一気に押し寄せる。
こんな時にか?
いや、でも条件を考えればおかしくはないのか?
ここまでイベントで戦い続けて、強敵ともやり合って、切り札まで振り回してきたのだ。
積み上がりとしては十分すぎる。
「おい、嘘だろ……!」
俺は思わず叫んだ。
「まさかここで進化か!?」




