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第64話 育成一匹を舐めた結果

 説明では、イベント開始時にマップのランダムな場所へ配置されるらしい。


 あと、PVPに挑むと、その時点で戦闘が開始し、始まった時点の地形と同じ戦闘空間へ当人同士だけが移されるようだ。


「それは助かるな」


 情報をできるだけ隠したい俺としては望むところだった。


 アンカーチャージも、バル付きチェーンフレイルも、見られれば意表を突きにくくなるからな。終わったやつらに観戦されるとしても、せめてこの大会だけでも通用してくれれば十分だ。


 そう思いながら、他にルールの穴がないかを確認していたが、どうやら時間が来たらしい。


 案内役のナビゲーターが書いてあるルールを読み上げ、そのあとNPCの紹介に移った。


 なにげにクラリスが混じっているのには少し驚いた。


 それ以外は初見だ。


 モンスターワークのモンストル。

 トレーナーのレーニー。

 そして商業のゴルドン。


 俺はまったく関わったことがないが、他のプレイヤーからすると違うらしい。反応が少し違っていた。


「そもそも俺、こいつらとは別ゲーしてる気がするんだよな……」


 思わずそう呟く。


 クラリスだけはわかる。

 ガルディーノもわかる。

 れいにゃやレグルスやミルトもいる。


 だが、それ以外の普通の導線を通ってきたらしい雰囲気のやつらとは、見ている景色が違いすぎる気がした。


 イベント開始、の声とともに、プレイヤーたちの足元に光が立つ。


 そのまま視界が切り替わった。


 飛ばされた先で周囲を見回して、俺は顔をしかめる。


「俺がいる地点は……真ん中の塔じゃないか……」


 よりにもよって、そこか。


 レグルスと約束した場所だ。今すぐ残り三十分ではないが、縁起が悪いにもほどがある。


「とりあえず離れるか」


 森系は障害物が多い。


 今の俺の手札を考えると、できれば開けた場所の方がやりやすい。だから俺は、南東の荒野を目指して移動し始めた。


 だが、そう上手くはいかない。


 移動している途中で、前方からプレイヤーが現れた。


 育成マーク付き。


 俺と同じ育成型だ。


 ただし、俺と違ってモンスターは三体いる。


 その時点で、相手は明らかに勝ったつもりの顔をしていた。


「育成で、しかも一匹! 開始早々ついてる!」


 そんな感じのことを言って、にやにやしている。


「……いや、バルは強いぞ?」


 思わずそう返したくなった。


 だが、その前に相手がPVPを仕掛けてきたらしい。


 視界の端に表示が出る。


 戦闘開始まで、あと十秒。


 カウントダウンが始まった。


「よし」


 だったらまずは様子見だ。


 相手がどれくらい強いかわからないし、ここでいきなりアンカーチャージやチェーンフレイルを見せる必要もない。


「バル! 体当たりだ!」


 戦闘が始まった瞬間、俺はそう指示した。


 バルが一直線に相手のモンスターへ突っ込む。


 草原あたりであれば、体当たりで大体一撃だ。もっと外へ進むと、流石に体当たりだけでは死なない相手も増えてくる。だからこその、相手の力量を調べるための体当たりだった。


 そして――


 相手は避けきれず、正面からぶつかった。


 次の瞬間、相手のモンスターは消滅した。


「……ん?」


 弱すぎでは?


 思わずそんな感想が頭をよぎる。


 動揺している相手の前に、次のモンスターが勝手に出現した。


 俺はそのまま、バルに再度体当たりを指示する。


 特に何を弄するでもなく、それで終わった。


 二体目も消える。


 三体目も、似たようなものだった。


 いつもなら、ここで相手プレイヤー本人もすぐ消えるはずだ。だが、どうやらここは特別らしい。負けが確定してから消えるまで、少しだけ時間があった。


 だから、つい口に出てしまった。


「……弱すぎでは?」


 良いことではないとは思う。


 思うが、あまりにも想定外だったのだ。


 相手は、信じられないものを見るような顔で、自分の失ったモンスターたちがいた位置を見つめていた。


「嘘だろ……」


 その声は、かなり本気だった。


 いや、こっちからしても似たような気分なんだが。

 開始早々、育成一匹だから勝ったつもりで来た相手が、体当たり三発で消し飛ぶとは思わないだろ。


 俺は小さく息を吐いた。


「……イベント、思ってたよりいけるのか?」


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