第58話 れいにゃが交渉札を切ってきた
ほどなくして、れいにゃがやってきた。
しかも、妙にハイテンションなままだ。
「見つけてくれてありがとぉー!」
「よくそのテンション維持したままここまで来たな……」
思わず本音が漏れる。
三日探して見つからなかった花畑だ。もっとこう、半信半疑で来るかと思っていたのだが、れいにゃは最初から完全に当たりを引いた顔をしていた。
しかも、ここまで一人で普通に来ている。
「……お前、割と戦えるんだな」
「んぇ?」
「いや、もっとこう、ペットを愛でる感じのプレイなのかと思ってた」
「失礼だなぁ。ちゃんと戦えるよぉ?」
そう言って、れいにゃは少しだけ胸を張った。
まあ、そりゃそうか。
この辺まで来るのに、まったく戦えないやつが一人で来られるわけがない。見た目と雰囲気で勝手に勘違いしていただけだな。
俺は橋の見える場所まで案内して、向こう側を指さした。
「あの高台のところ、多分お前が言ってた花畑だろ」
れいにゃが目を凝らす。
その先には、森の中では不自然なくらい明るい色の一角が見えている。
「……あぁー! あれっぽいねぇ!」
声が弾む。
高台の周囲は、まるで谷底みたいにくり抜かれていた。そこへつながる場所は、途中で壊れた橋が残っているくらいだ。
ここからなら花畑そのものは視認できる。
普通に考えたらかなり無茶な地形だが、まあゲームだしなで終わる範囲ではある。
俺は橋のところまで移動しながら言った。
「でも、見ての通りだ。普通には辿り着けそうにない」
橋は真ん中から先がごっそり崩れている。
飛び越えられる距離じゃない。
歩いて渡るのも無理。
向こう側へ行くための道も見当たらない。
「多分、イベントで橋を修理するとか、空が飛べるモンスターで運んでもらうとか、そういうのを想定してる作りなんじゃないか?」
俺がそう言うと、れいにゃは橋の先と高台を何度も見比べていた。
どうにか向こう岸へ行けないか、本気で考えている顔だ。
まあ、目の前にお宝がありそうなら、そう簡単に諦めるわけがないよな。
だが、俺の役目はここまでだ。
「とりあえず、花畑は見つけた。これでお役御免だな」
そう言って踵を返そうとしたところで、案の定、呼び止められた。
「待って」
「いや、義理は果たしたぞ?」
見つけてくれと言われた。
見つけた。
終わり。
実に明快だ。
だが、れいにゃはそうは思っていないらしい。
「ここまで来たなら、もうちょっと力を貸してくれてもいいんじゃないかなぁ?」
「嫌だね」
即答だった。
するとれいにゃは、じとっとした目でこっちを見る。
「売買のこととかあるしぃ、借りを作った方がいいんじゃないかなぁ?」
「残念だったな!」
俺はそこで、ちょっといい笑顔になったと思う。
「俺にはミルトがいるのだよ!」
れいにゃの顔が、見事にぐぬぬって感じになった。
心地よい。
そもそもだ。
「力を貸せって言うけど、どうやって貸すつもりなんだよ」
俺は橋の向こうを指した。
「俺のモンスターはバルだけだ。空は飛べないし、普通に渡る方法もない」
そう伝えると、れいにゃは少し迷うような顔をしてから、あろうことか自分の手持ちの大きいモンスターを呼び出した。
あの、もっさもさの大きいやつだ。
そして言う。
「これに乗ってぇ、バルの体当たりで向こうまで飛ばしてもらうっていうのはぁ……?」
「……は?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
だが、理解した瞬間、ちょっと感心した。
「なかなかこいつ考えてやがるな……」
普通に考えれば、倒してしまって終わりのような気もしなくはない。
だが、うまくいけば向こう岸に届かないこともなさそうな距離ではある。
何もできず立ち尽くすよりは、試すだけ試すのも、まあ、あり寄りかもしれん。
……とはいえ。
「でも、俺にメリットがないしな」
そこがすべてだった。
俺がれいにゃの渡河作戦に協力して、俺に何がある。
むしろ失敗したらまた面倒なことになる未来しか見えない。
「そんな脅しみたいなことまで持ち出して手伝わせようとするやつのために、力を貸す必要はない」
そう、はっきり言ってやった。
「だから今度こそ本当にさよならだ」
れいにゃがうなっているのを横目に、俺はバルへいつもの帰り方を指示しようとした。
その時だった。
れいにゃが、いきなり大きいモンスターとは別に、小さくて愛らしいモンスターも出してきた。
「……ん?」
俺はそこで違和感を覚えた。
どうして二体同時に出ているんだ?
よくよく思い出してみれば、湖で会った時も二匹いた気がする。
俺は一体しかいないから、そこまで意識していなかった。だが、二体出しているやつなんて、今までまともに見ていない。
一体対複数って、それだけでアドバンテージがいくらでもあるじゃないか。
レグルスだって二体はいるはずだけど、一体ずつだった。
最初のPVPだったら、こっちを舐めていたで説明がつく。だが二回目は、少なくともそこまで侮ってはいなかったはずだ。
ラザロの連中だって、複数モンスターを持っているやつばっかだったが、一人も複数のモンスターを出していなかった。
「……おい」
俺はれいにゃを見た。
「なんで二体出してるんだ?」
するとれいにゃは、さっきまでのぐぬぬ顔を少し引っ込めて、代わりににやっと笑った。
「知りたくない?」
囁くみたいな声だった。
「どうやって二体以上出してるかぁ」
「……」
なるほど。
そういう交渉の札を持ってきたか。
俺は思わず橋の向こうの花畑じゃなく、れいにゃの方を見てしまった。
少なくとも、交渉の余地は少しはありそうだった。




