第57話 約束は花畑を見つけるまでだ
ミルトみたいに、使っている施設の代わりを探すような話にならなくてよかった。
……まあ、この花畑探しも似たようなものな気がしなくもないが、今回については場所を探すだけだ。少なくとも、鍛冶場みたいに今後ずっと付き合う話ではない。そう思えば、まだ気は楽だった。
れいにゃが探したのは、この辺り一帯の森らしい。
だったら、まだ探していないであろう奥の方へ進めばいい。
俺はそう判断して、バルと一緒に森の奥へ足を向けた。
木々は少しずつ濃くなっていき、出てくるモンスターも以前より明らかに強くなっている。だが、だからといって問題になるほどではなかった。
「まあ、このくらいならバルの敵じゃないな」
軽くぶつかったモンスターを見送りながら、俺はそう呟く。
バルも、今さらこの程度では気分も乗らないらしい。危なげなく片付けていく様子に、変な余裕すら感じる。
そうして歩いているうちに、ふと別のことが頭に浮かんだ。
「……そういえば、れいにゃって戦えるのか?」
可愛いモンスターが好きで続けてる、みたいなことを言っていた気がする。
だが、実際に戦っているところを俺は見たことがない。
見たのは、もふもふの大きいやつを枕にしていた姿とか、小さいやつを抱えていた姿とか、そっちばかりだ。
仲間にする方法がどういうものなのか、俺は詳しく知らない。
だが、見つけたあとに「仲間にするまで付き合ってぇ」とか言われたら普通に面倒だった。
「いや」
そこで、俺は自分の考えを打ち切る。
「俺が約束したのは花畑を見つけるところまでだ」
それ以上は却下だ。
そこは最初から線を引いておかないと、ずるずる引っ張られる気がする。
見つからなかった場合は……まあ、あまり今は考えたくない。
餌の売買を手伝ってもらう都合上、れいにゃの機嫌を完全に損ねるのもよろしくない。だから多少は気を遣うつもりでいたのだが――
「……いや、待てよ?」
歩きながら、俺は足を緩めた。
よく考えたら、前と違って今はミルトとの仲もいい。
それに、そもそもミルトから売買ができないとは聞いていない気がする。さっきの話でも問題になっていたのは鍛冶場だけだった。
となると――
「れいにゃに、そこまで気を遣う必要なくないか?」
むしろ、今までちょっと気を回しすぎていた可能性すらある。
もちろん、喧嘩腰になる必要はない。
だが、何かうだうだ言い出したら、そこはきっぱり却下でいいはずだ。
「……そうだな。よし」
なんだか少しだけ、気持ちが楽になった。
そうして森の奥へ進んでいくと、不意に視界が少し開けた。
「ん?」
そこは高台に近い地形になっていて、向こう側へ渡るための橋がかかっていた。
ただし、橋は途中で崩れている。
真ん中あたりから先がごっそり抜け落ちていて、普通に歩いて渡るのは無理だ。ジャンプでも届かない。頑張れば行けそう、という距離ですらない。
「……あー」
嫌な予感がした。
こういう場所って、大体何かあるのだ。
しかも、俺にはひとつだけ渡れそうな手段がある。
バルを使った、あの移動法だ。
アンカーを使って振り子みたいに飛ぶ、あれ。
「こういう場所って、やっぱ特別なモンスターとかいそうだよなぁ……」
橋の向こうだけ空気が違う、みたいなやつだ。
だが、だからといってすぐ渡る気にはならなかった。
れいにゃの頼みは、花畑を見つけることだ。
その先の探索までは含まれていない。
「……とりあえず、周りを回ってみるか」
俺は橋の正面から離れて、横手へ回り込んだ。
すると案の定、少し離れた場所から橋の向こう側が見えた。
「やっぱりか」
そこには、遠目にもわかるくらい色の違う一角があった。
花畑っぽい。
森の中にぽっかりと開いたような、明るい色の場所だ。
「当たりっぽいな」
これで花畑を見つけたことにはなる。
なるが――
「でも、あの移動法は教えるつもりはないぞ」
俺は小さく呟いた。
今回の件で約束したのは、あくまで花畑を見つけるまでだ。
そこまでで十分対価は払っている。
橋を渡る方法まで提供してやる義理はない。ましてや、バルを使った移動法なんて俺の切り札に近い。明日のイベント前にわざわざ他人へ教えるようなものじゃない。
「場所を見つけた。そこまでだ」
そう自分に確認してから、俺はれいにゃへフレンドメッセージを送った。
花畑らしき場所を見つけたこと。
その近くの座標。
橋が崩れていること。
余計なことは書かない。
簡潔にそれだけ送る。
少しして、すぐ返信が返ってきた。
びっくりするくらいテンションの高い文面だった。
「……うわ、すげぇ喜んでるな」
どうやら、かなり本気で探していたらしい。
しかも、すぐこっちへ来るそうだ。
「いや、来るのはいいけど」
俺は小さくため息をついた。
「この先も付き合うのは勘弁してほしいぞ……」
そう呟きながら、俺は橋の向こうにある花畑をもう一度見た。
見つけたのは確かだ。
だが、あの先に何がいるのか。
少しだけ気になってしまっている自分がいるのも、また事実だった。




