第56話 れいにゃのモンスター探しを手伝う羽目になった
俺は、とりあえず謝った。
わざとじゃない。
わざとじゃないが、原因が俺なのは間違いない。木をへし折りながら吹っ飛んでいったバルが、よりにもよってれいにゃのところへ突っ込んだのだ。言い訳のしようもなかった。
れいにゃは大きなモンスターの手当てを終えるまで、こっちをろくに見もしなかった。
その間、俺は何も言えずに立っていた。
バルは気まずそうにしているのか、していないのか、よくわからない空気を出していた。たぶん本人としては訓練の延長だったのだろう。だが、被害を受けた側にしてみればそんな事情は関係ない。
やがて手当てが終わると、れいにゃはようやく小さく息を吐いた。
「……まあ、事故だったのはわかるよぉ」
その言い方で、完全には怒りきれていないのだとわかった。
実際、事故だ。
俺がれいにゃを狙ったわけではないし、バルも故意にやったわけじゃない。そこはこっちとしても助かった。
だが、そこで話が終わるわけでもなかった。
「でもぉ、埋め合わせはしてねぇ?」
「埋め合わせ?」
「モンスター探し、手伝ってぇ」
思わず、うわぁ、という気分になった。
いや、俺が悪いのはわかっている。わかっているが、明日はイベントなのだ。今日は技の練度を高めるために時間を使うつもりで動いていたし、もうそれなりに納得のいくところまでは来ている。だが、それでも明日が本番だという事実は変わらない。
「明日イベントなんだ。明後日以降じゃ駄目か?」
そう言ってみたが、れいにゃは首を横に振った。
「感情が許してくれないんだよねぇ」
「うわ、面倒だな……」
「今、面倒って言った?」
「言ってない」
言った。
だがここで認めると、さらに面倒なことになるのは目に見えていた。
しかし、事故とはいえ、もう手当ても終わっている。それなのにモンスター探しの手伝いとなると、どう考えてもこっちの負担の方が大きい気がする。いや、負担というより、時間が惜しい。
何か別の埋め合わせで済ませられないか。
そう考えた時、ふとミルトのことを思い出した。
鍛冶場が利用できなかった件だ。
れいにゃもフレンドになっている。
なら、同じことが起きていてもおかしくない。だが、何も言ってこなかったということは、あれから店や施設を使っていないのかもしれない。
ここで黙っていて、後から怒られるのはだるい。
だったら、今ここで怒られて、その分も込みで手伝いにしてしまった方がまだマシではないか。
よし。
どっちみち話す必要はあるんだ。今一緒に怒られて、手伝って、まとめて精算してしまおう。
そう覚悟を決めて、俺はれいにゃへそのことを話した。
ミルトが鍛冶場を使えなかったこと。
それが、俺とフレンドになった影響かもしれないこと。
だから、れいにゃにも何か起きていないかと思ったこと。
すると、れいにゃはきょとんとした顔をした。
「えぇ? でもぉ、フレンドになった後でも普通に売買できたよぉ?」
「……は?」
「ファミリアサロンも使えたしぃ」
「ファミリアサロンって何だよ」
そう聞くと、れいにゃは当たり前みたいな顔で答えた。
「モンスターを洗ったりぃ、マッサージしたりぃ、手入れとか癒しを与える施設だよぉ?」
「何のために使うんだ……?」
思わず本音が漏れる。
だが、そこで俺は思い出した。
こいつがこのゲームを続けている理由だ。かわいいモンスターが好きで、そのためにやっている。だったら、そういう施設が重要なのもわかる。
「ああ……お前には重要か」
「重要だよぉ?」
れいにゃは少しむっとしながら言った。
なるほど、ミルトとれいにゃの違いはそこか。ミルトは鍛冶場を使った。れいにゃは売買とファミリアサロンを使った。鍛冶場だから駄目だったのか、それとも鍛冶場が特別厳しかったのか。
どちらにせよ、れいにゃの方には実害は出ていなかったらしい。
「でもぉ」
れいにゃが少しだけ目を細める。
「わかった後にすぐ言わなかったのは、どうかと思うんだよねぇ?」
「……それはまあ、そうだな」
否定できなかった。
実害はなかった。だが、わかった時点ですぐ言うべきだったのは確かだ。
「じゃあ、その分と今回の事故を合わせてぇ、手伝ってねぇ?」
「はいはい……」
俺はため息をつきつつ、結局了承した。
どうせ断っても長引くだけだろうし、今のうちに片付けた方がまだいい。
「で、何を探してるんだ?」
「この森の奥にある花畑にいるモンスターだよぉ」
「花畑?」
「うん。NPCから聞いたんだけどぉ、すっごくかわいらしいモンスターらしくてぇ。見てみたいなぁって」
「見て、好みだったら契約する、と」
「そういうことぉ」
なるほど。
れいにゃらしい理由だった。
だが、問題はそこではない。
「その花畑、どこにあるんだ?」
「それがわからないんだよねぇ」
れいにゃは困ったように肩をすくめた。
「三日くらい探してるんだけどぉ、見つからなくてぇ」
「三日?」
思わず聞き返す。
三日も探して見つからないものを、今日俺が手伝ったところで見つかるのか?
というか、もし今日見つからなかったらどうなる。明日も手伝わされるのか? それは勘弁してほしい。
だが、そこを聞くのは藪蛇な気がした。
聞かなければ今日だけで済むかもしれない。聞いた瞬間に、じゃあ明日もねぇ、となる未来が見える。
俺はそこには触れないことにした。
「……で、どの辺を探したんだ?」
「そこはまとめて教えるよぉ」
れいにゃはこれまで探した場所を地図上でざっくり示してきた。
森の入口付近。
湖の周辺。
少し奥へ入った獣道。
大きな岩場の近く。
つまり、それ以外を探せばいいらしい。
「見つけたらフレンドメッセージで連絡でいいか?」
「うん、それでいいよぉ」
「じゃあ別方向で探そう」
「お願いねぇ」
そうして俺たちは、その場で別れた。
れいにゃは自分がまだ見ていないという方角へ向かい、俺は反対側へ足を向ける。
三日探して見つからない花畑。
正直、今日見つかる気はあまりしなかった。
だが、ここまで来たら探すしかない。
俺は森の奥へ視線を向け、小さく息を吐いた。
「……明日、引きずらなきゃいいんだけどな」




