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第53話 バル付きチェーンフレイルの実戦検証

 俺はできるだけ人が少ない場所を目指した。


 森は駄目だ。


 この武器は振り回すことで真価を発揮する。なら、草原みたいに何も遮るものが近くにない場所の方がいい。木が多い場所で試したら、自分で自分の首を絞めるだけだ。


 そうして遠出して辿り着いたのは、山岳地帯だった。


 岩場や段差はある。道もまっすぐとは言い難い。だが、ある程度は仕方ないだろう。フィールドを好きな形に選べるわけじゃないし、試すにはこれくらいがちょうどいい。


 近くにプレイヤーがいなさそうなのもよかった。


 他の連中も今ごろは、イベント前に装備作りだの調整だのをしているのかもしれない。


「まあ、こっちも似たようなもんか」


 俺はそう呟いて、手元の武器を見る。


 ミルトに作ってもらった、バル付きチェーンフレイルだ。


 名前だけ聞くと完全にふざけているが、実際に使ってみた感じでは、わりと洒落にならない性能をしている。


 まずは、敵を見つけた。


 岩陰から出てきた、少し大きめのモンスターだ。


「よし」


 俺はバルにフレイルを装備して、手に持った。


 ミルトには、ボタン一つで着脱できるような特殊な機構まで組み込んでもらっている。


 割と自由が利くんだなとは思ったが、実際便利だ。


「バル、硬質化」


 バルが応じる。


 その感触が、手元から伝わってきた。


「行くぞ」


 ぐるん。

 ぐるん。

 ぐるんぐるんと勢いをつけて、敵へ向かって振り抜く。


 鈍い衝撃音が響いた。


 街から遠い場所だから、敵も弱くはないはずだ。少なくとも、そこらの草原にいる連中よりは格上だろう。


 なのに、一撃だった。


「……は?」


 思わず間の抜けた声が漏れる。


 倒せたこともそうだが、それ以上にやばかったのは、倒した瞬間に敵が吹っ飛んでいったことだ。


 殴って終わりじゃない。

 文字通り、弾き飛ばした。


「最強では?」


 思わずそう呟いた。


 いや、まだ早い。まだ早いが、少なくとも思っていた以上に威力が高いのは間違いない。


 次は、回している最中に着脱ボタンでバルを解放してみた。


 バルをそのまま弾として射出する形だ。


「やっぱそうなるか……」


 これは、思った通りの場所へ飛ばしにくい。


 フレイルの遠心力に乗るから威力はあるだろうが、そのぶん狙いが繊細だ。感覚だけでぴたりと当てるのは難しい。


 ひとまず何度か練習する。


 外して、戻ってきて、また試す。


 そうしているうちに、そこそこ命中精度が上がってきた。


「よし、じゃあ実戦だ」


 次の敵へ向けて、今度は射出で狙う。


 手応えは十分だった。


 そして、当然と言えば当然だが――こちらも一撃だった。


「やっぱりか」


 遠距離にも使える。


 それが大きい。


 硬質化したあとにアンカーを使うと、体当たりや突進で攻撃できなかった。


 つまり、硬質化×アンカー×突進は使えない。


 でも、こっちは違う。


 バル付きチェーンフレイルなら、遠心力で疑似的に近いことができている。


 アンカー×突進の代わりに、チェーンフレイルの遠心力で叩き込む形だ。


「……これ、威力おかしいことになってないか?」


 普通に上位どころか、優勝まで狙えるんじゃないか。


 そこまで考えて、少し笑ってしまった。


 イベント前に、こんなものが手に入るとは思わなかった。


 だが、この武器の有用性は戦闘だけじゃない。


 俺はこれを、武器だけとは見ていなかった。


 山岳地帯を歩いていると、素直に移動できない場所がいくつかある。


 道が途中で断絶していたり、少し離れた向こう側へ飛び移れそうで飛び移れないような場所だ。


「ここだな」


 ちょうどよさそうな断絶地点を見つけて、俺は足を止めた。


 まずは中央付近、ちょうどいい位置でバルにアンカーを使ってもらう。


「よし、そのままだ」


 そして、俺は勢いよく地面から足を離した。


 イメージとしては、ジャングルとかでよくある、ツタからツタへ飛び乗るやつだ。


 振り子みたいにぶら下がって、向こう側へ飛ぶ。


「おおっ……!」


 思った以上にうまくいった。


 ぐんと体が持ち上がり、そのまま向こう岸へ弧を描いて進む。


 そして、ちょうど向こうへ届く直前のところでアンカーを解除してもらう。


「今だ!」


 着地。


 多少よろけたが、転びはしなかった。


「初めてでここまでうまくいくとは思わんかったが……行けるもんだな」


 これはかなり使える。


 ただし、今回は長さがちょうどいい場所を選んだからこそ成功した面もある。長さが足りなかったり、逆に長すぎたりすると難しいだろう。


「戦闘用じゃなくて、移動用に長さが可変できるやつもミルトに作ってもらうか?」


 あるいは、バルと息を合わせる必要はあるが、アンカーと解除をうまく使って空中で再度アンカーを使い、連続で移動するようなテクニックを身につけるか。


「……夢は広がるな」


 そこまでやれたらかなり面白い。


 少なくとも、移動手段としての価値は十分ある。


 そうして一通り検証した結果、結論は出た。


 戦闘でも有用。

 移動でも有用。


 バル付きチェーンフレイルは、ネタ武器どころか普通に有能だった。


「よし。これで証明完了だな」


 結構な時間を使った。


 敵も倒したし、移動の検証もしたし、もう今日は十分だろう。


 俺はいつものように、死に戻りで拠点へ戻ることにした。


「バル、頼む」


 次の瞬間、迷いなく突っ込んできたバルに轢かれて、視界が暗転する。


 そして、次に目を開けた時には拠点へ戻っていた。


「……便利だな、ほんと」


 だが、その便利さには代償もあった。


 今日は検証のたびに、バルへ餌を献上していたのだ。


 武器扱いするんだから、せめてそのぶん機嫌を取れ。そういう話である。


 結果として、本日の収支は大赤字確定だった。


「常用はできんな、これ……」


 強い。


 便利だ。


 でも、使うたびに餌代が飛ぶ。


 流石に普段から気軽にぶん回していたら財布が死ぬ。


「使う場面は限定しないとな」


 イベント用の切り札。

 あるいは、ここぞという強敵用。


 そのくらいの立ち位置がちょうどいいだろう。


 そうして、餌を食べ続けているバルを見る。


「というか、お前よくそれだけ食べたな」


 今日だけで、かなりの量を食っている。


 普通ならそのへんで満腹とかあってもよさそうなものだが、バルにはそういう気配がまるでない。


「限界はないのか?」


 問いかけると、バルは餌を食べながら小さく揺れただけだった。


 肯定なのか否定なのか、そこはよくわからない。


 ただ、まだ食えることだけははっきりしていた。


「……こわ」


 思わず本音が漏れる。


 強い。

 便利。

 だが維持費が重い。


 バル付きチェーンフレイルは、どうやらそういう武器らしかった。


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