第52話 バル付きチェーンフレイル完成
案の定、バルは俺の手の中で怒っていた。
あれだけ念押ししたというのに、だ。
「……まあ、自分でもひどい案だとは思ってる」
正直にそう言う。
そりゃそうだ。俺だって、思いついた瞬間にこれは怒るやつだと思った。
だが、バルよ。
「お前も装備を思いつかなかっただろ?」
その一言で、バルの怒りは少しだけ弱まった。
図星らしい。
別に俺だって、率先してお前を武器扱いしたいわけじゃない。できれば普通に、剣だの爪だの、そういうまっとうな装備があればよかった。
でも現状、お前の球体の体で装備を考えた時、これしか思いつかなかったんだ。
「しかも、明後日のイベントはプレイヤーにダメージがいかない特殊フィールドだろ」
バルを持ち上げたまま、俺は続ける。
「きっと、強いプレイヤーがモンスターに直接狙われることによっての逆転を起こさないようにって配慮なんだと思う」
プレイヤー自身にはダメージが通らない。
だったら、そこが穴でもある。
「イベント上位を狙うなら、これほどいい装備はないと思うんだ」
相手のモンスターがどれだけ速くても、どれだけ小回りが利いても、ある程度広い範囲をまとめて叩ける打撃武器があれば話は変わる。
それに、ずっと装備する必要はない。
「難しいと思う相手が出た時だけ装備して使うことを考えてる。奥の手みたいなものだしな」
レグルスのように相手の速度が速い場合、アンカー×突進で当てるのは正直難しいと思っている。速く動き回る相手にはどうしても読み合いになる。
「そこでこのチェーンフレイルだ」
俺は、近くに置いた試作のチェーンへ顎をしゃくる。
「これなら遠心力で威力も十分だし、範囲も広い。丸くなって硬質化している状態だとアンカーは対近距離物理にしか使えないけど、これだと打撃系として最強じゃないか?」
バルはまだ不服そうだったが、最初ほどの怒気はなかった。
だから俺は、そのまま懇々と説明を続けた。
ネタじゃないこと。
実用性を本気で考えた結果だということ。
イベント用の切り札として相当強いはずだということ。
普段からずっと振り回すつもりはないこと。
やがて、バルも自分が武器を思いつかなかったという事実と、この装備の有用性には納得したように見えた。
いちいち使うたびに攻撃されたらたまったもんじゃないからな。バルに理解してもらえなきゃ、使えるものも使えん。
「よし」
俺はようやくバルを下ろした。
「じゃあ、ミルトに話を通してくる」
外で訓練しているミルトを呼びに行くと、ちょうどネブラの爪の具合を試していたところだった。
「ミルト」
「どうしました?」
「今考えた俺の武器……もとい、バルの武器を説明する」
そう前置きして、俺はチェーンフレイルの構想をそのまま話した。
するとミルトは、途中で吹き出した。
そしてそのまま、堪えきれないみたいに笑い出した。
「おい」
俺は真顔で言う。
「俺は真剣に使えると思ってる」
だがミルトは肩を震わせている。
横では、せっかく納得しかけていたバルの怒りまでぶり返してきていた。
「笑うのはいい加減やめてほしい」
俺がそう言うと、ミルトはどうにか息を整えた。
それでもまだ少し笑っていたが、ようやく顔を上げて頷いた。
「……やっぱノーフェイトは最高ですね」
「褒めてるのか、それ」
「褒めてます」
たぶん本気で言っている。
「こんな形、通常の鍛冶場だったらまずOK出ないですよ」
「だろうな」
ある意味で、この闇鍛冶場を手に入れられていたのは運命だったのかもしれない。
普通の鍛冶場だったら、バルが装備できそうな武器はまず作れなかっただろうし、そもそもこの発想自体が途中で弾かれて終わりそうだ。
「作れるか?」
俺が聞くと、ミルトは今度は真面目な顔で試作に必要な長さや接続部を考え始めた。
笑ってはいたが、職人としてはこういう変則品の方が燃えるタイプなのかもしれない。
「できます。というか、作ります」
「頼む」
そうしてしばらく待つことになった。
ミルトはネブラ用の時とは少し違う顔つきで、鍛冶場の火と素材に向き合っていた。俺には詳しいことはわからないが、普通の武器と違って、バルをどう接続するかとか、振り回した時に切れないようにするかとか、そういうところで色々悩んでいるらしい。
その間、バルはずっとむくれていた。
だが逃げるわけでも、攻撃してくるわけでもない。完全に不満が消えたわけじゃないが、納得はしたということだろう。
やがてミルトが、できましたと声を上げた。
差し出されたそれは、見た目だけならごく普通のチェーンフレイルの基部だった。普通じゃないのは、その先に付く予定のものが金属球ではなく、バルだという点だけである。
「……いい出来だな」
俺は受け取ってみる。
重さも悪くない。手にも馴染む。少なくとも、素人目には十分実戦向けに見えた。
「いきなり本番で実戦とか、馬鹿のすることだよな」
俺はそう言いながら、受け取った武器を見た。
「まずは使い心地を確かめるか」
俺は武器――いや、バルの武器を持って、闇鍛冶場の外へ出た。
近くの開けた場所で、バルにも協力してもらい、実際に振り回してみる。
ぐるん。
ぐるん。
重さはある。だが、そのぶん威力が乗るのがわかる。
しかも、単なる鉄球と違って、バル自身が丸くなり、硬質化できる。そこまで乗れば、下手な打撃武器よりよほどたちが悪い。
「……これ、いいな」
思わず本音が漏れた。
ネタに見える。
見えるが、普通に強い。
振り回した時の遠心力も、手応えも、範囲も、全部が想像以上だった。
何より、これなら速い相手でも引っかけられる可能性がある。アンカーや突進と違って、点じゃなく面で捉えられるのは大きい。
「バル、どうだ?」
聞いてみると、不服そうながらも、さっきほどの拒絶は感じなかった。
気に入ったとは絶対に言わないだろうが、使えること自体は認めたらしい。
「よし」
だったら十分だ。
俺はいきなり本番で実戦投入するのではなく、この武器は一度収納することにした。
まずは慣らす。
使いどころを見極める。
イベントで出すなら、それからだ。
「試し斬り……じゃないな。試し殴りに行くか」
そう呟いて、俺は街の外へ向かった。




