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第50話 バルに装備できるものがわからない

 昨日は、ボスになったせいで妙に疲れた。


 だからミルトが楽しそうに闇鍛冶場で遊んでいるのを横目に、いつもより早めにログアウトしたのだが――今日になってみると、ボスになった利点もちゃんとあったのだと再認識した。


 ログインした場所は、昨日登録したラザロの拠点だった。


「……やっぱりここから始まるのか」


 思わず小さく呟く。


 昨日の時点では、勢いに流されて登録しただけだった。だが、今日改めて見てみると、拠点を持つ利点は思ったより大きかった。


 まず、ここ自体をリスポーン地点にできる。


 それだけなら近くの宿でも似たようなことはできる。だが拠点の場合、必要な設備をあとから増築できるらしい。今は闇鍛冶場くらいだが、今後ほかの設備も置けるなら話は変わる。


 わざわざ宿を変えながら動くより、ここを起点にして必要なものを揃えていける方がずっと楽だ。犯罪者集団の拠点を拠点として便利だと思うのは少し嫌だが、便利なものは便利だった。


「……思ったより悪くないな」


 それから、よくあるクランみたいな機能も生えていた。


 もともとラザロファミリーにいた連中だけじゃなく、新しく所属させることもできるらしい。昨日のうちにミルトも入れてある。闇鍛冶場を使うんだから一蓮托生だ、という理屈だ。


 昨日はその場の流れで処理しただけだったが、今日こうして見返してみると、拠点への出入りや設備利用を考えれば理にかなっていた。


「勢いで決めた割には、悪くなかったかもな」


 あとは、今までまともに会話できなかったこの世界の住人とも、ラザロファミリー所属の連中なら普通に会話できるようになっていた。


 まあ、恐れられていること自体は変わらないのだが。


「そこは変わらんのかよ……」


 ラザロの下っ端に話しかけた時、普通に返事は返ってきた。


 返ってきたが、声は震えていたし、目も合わせてこない。


 会話できるようになっただけマシではある。


 それ以外にも、これは俺個人にはそこまで重要じゃないが、倉庫機能まで増えていた。


 今までのこのゲームには、どこかへアイテムを預けるサービス自体がなかったらしい。だからミルトが俺に全部預けたみたいな真似を、手動でやるしかなかったのだ。


 ということは、戦闘でやられるとアイテムロストがあるこの世界では、荷物を持っているだけでまともに前へ出づらかったのだろう。


「そりゃ戦闘に積極的になれんわけだ」


 ただし、この倉庫は個人のものじゃない。


 あくまでクラン――というかラザロファミリー全体の倉庫だ。


 そこだけは気をつけないといけない。


 まあ、勝手に使い込むようなやつは今のところいないだろう。少なくとも、俺の顔色を窺っている今の連中に、そんな度胸があるとは思えなかった。


 そうして一通り確認したあと、俺は闇鍛冶場へ向かった。


 ミルトはすでにログインしていて、昨日の続きでもしているのだろうと思っていたが、ちょうど俺が顔を出した時には、ひと仕事終えたところらしかった。


「お、できたのか?」


「はい」


 ミルトは少し嬉しそうに頷いた。


 その視線の先には、ネブラがいる。よく見ると、前足――なのか、それっぽい部分に装備が増えていた。


「……爪、か」


 ミルトはもっと変なものを作るのかと思っていたが、まずは自分のモンスターにはまともな武器を作ったらしい。


 まあ、まず戦うための装備が必要なのは当然か。


 ネブラの戦い方を考えれば、爪はむしろ自然だ。補助寄りとはいえ、まったく攻撃手段がないわけでもないし、噛み合ってはいる。


 ミルトがこちらに気づき、作業の手を止める。


 だったら次は約束通り、バルの装備だ。


 明後日にはイベントもある。早めに作ってもらって、試せるなら試しておきたい。


「じゃあ次は、約束通り――」


 そこまで言いかけたところで、ミルトが先に聞いてきた。


「どんな武器を作ったらいい?」


「……」


 俺は、その場で固まった。


 何気ない、普通の疑問だ。


 普通すぎて、逆に何も返せなかった。


 俺は改めて、バルを見る。


 一言で言うなら、球だ。


 丸い。


 丸くて、転がって、ぶつかる。


 それがバルだ。


「……」


 爪?


 何を言ってるんだ。足や手なんてものはないぞ。


 いや、あるのかもしれないけど、少なくとも装備を付けられるほどはっきりした部位じゃない。


 じゃあ牙か?


 どこに攻撃できそうな口があるんだ。


 食べることはできる。餌は食う。だが、攻撃に使えそうな口ではない。


 では防具か?


 いや、多分、今作れる防具よりバルの肉体の方が強いだろう。


 しかも防具なんて付けたら、アンカー×突進で一発でお釈迦になる未来が軽く想像できる。硬い防具でも、あの勢いに耐えられるのか怪しい。


 そうして黙り込んでいる間にも、バルはネブラの新しい爪を見て、あからさまに羨ましそうな気配を出していた。


 わかる。


 俺だって作ってやりたい。


 武器でも防具でも、とにかく何かしら専用装備みたいなものがあれば嬉しいに決まっている。


 でも――


「……バル」


 俺は真顔で問いかけた。


「お前、一体なんだったら装備できるんだ?」


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