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第49話 ミルトだけ得してないか?

 ラザロファミリーのボスになることは、結局避けられなかった。


 いや、正確には避けるチャンスはあったのかもしれない。もっと強く拒否するとか、その場で全部放り投げるとか、やりようはいくらでもあったはずだ。


 だが、そうはならなかった。


 半ば流されるままだったのは否定できないが、最後に決めたのは俺だ。


 なら、結果は受け止めるしかない。


「……で、これで本当に大丈夫なんだろうな」


 ラザロの拠点の一室で、俺は腕を組んだまま言った。


 向かいにいるラザロとヴィンセントは、揃って背筋を伸ばしている。さっきまで犯罪者集団の長と幹部だったとは思えないくらい行儀がいい。いや、収容所だのクラリスだのをあれだけ恐れているのだから、今はおとなしくしているだけかもしれないが。


「はい、狂人様――いえ、ボス」


 ラザロが慌てて言い直す。


 その呼び方にもまだ慣れない。慣れたくもない。


「汚名返上には、我々も全力で協力いたします」


「汚名返上、ねぇ……」


 俺は小さく繰り返した。


 話はこうだ。


 狂人ことノーフェイトは、ラザロファミリーに天誅を下し、やつらの心を入れ替えさせた。


 心を入れ替えたラザロファミリーは、今後犯罪行為から足を洗い、真っ当な方法で生きていく。


 その筋書きを、今後あちこちに流していくらしい。


 最初に聞いた時、俺は当然断った。


「そんなこと言ったって、犯罪者集団のボスになった事実は変わらないだろ」


 実際、その通りだ。


 いくら耳当たりのいい話を並べたところで、ラザロファミリーのボスという肩書きが消えるわけじゃない。むしろ余計に怪しさが増すまである。


 だがラザロたちは、そこを押してきた。


「ですが、このままでは狂人と呼ばれて取引不可な現状は何も変わりません」


 その言葉には、正直、少し考えさせられた。


 今の俺は、ただ放っておけば状況が好転する段階じゃない。店では取引拒否。普通の鍛冶場も使えない。評判は終わっている。何か変化を起こさなければ、たぶん何も変わらない。


「……まあ、それはそうか」


 結局、そう思ってしまったのだ。


 その結果が、ラザロファミリーのボス正式就任である。


 果たしてこれでよかったのか、悪かったのか。それがわかるのはだいぶ先だろう。


 だが、半ば流されるままになったとはいえ、最後に頷いたのは俺だ。


 なら、責任は持つ。


 もちろん、ラザロたちには念を押してある。


「別でへまをしたら、わかってるだろうな」


 そう言った時、ラザロもヴィンセントも揃って顔色を変えていた。


 こっちは脅しのつもりで言ったが、どうやら本気で伝わったらしい。まあ、それでいい。


 その頃、ミルトはすでに闇鍛冶場で武具を作って遊んでいた。


 ……いや、遊んでいると言うと語弊があるのかもしれないが、少なくとも楽しそうではある。


 ラザロたちから闇鍛冶場の場所と使い方を聞いたあと、ミルトはすぐにそちらへ向かっていった。預かっていた持ち物も全部返したので、今は何が作れるか試行錯誤している最中らしい。


「何だろうな」


 その様子を少し離れたところから見ながら、俺はぽつりと呟いた。


「ミルトだけ損なく得してる気がする」


 俺は犯罪者集団のボスになった。

 汚名返上のための動きも始めることになった。

 店での取引拒否が改善するかどうかも、今の時点ではまだ不透明だ。


 なのにミルトは、闇鍛冶場という自由な環境を手に入れて、嬉々として変な装備を試作している。


 なんか、うまいこと立ち回ってるなこいつ。


 だが救いがないわけでもない。


「まあ、バルの装備を作ってくれる約束だからな……」


 それがあるだけ、まだ一方的に俺だけが損しているわけでもない。


 むしろバルの進化や強化を考えたら、ミルトが楽しそうに鍛冶をしてくれているのは悪いことじゃない。実際、こういう環境を欲しがっていたのはミルトだし、その手助けをした結果が今なら、それはそれで一つの成果だろう。


 ラザロファミリーの面々についても、今後の方針は決まっていた。


 気絶している連中が目を覚まし次第、ラザロとヴィンセントが現状を説明する。そして今後は、生き方を強制的に変える。


 逆らったらクラリスのところへ連れていく。


 それはもう、はっきり明言してあるらしい。


 だからたぶん、全員が足を洗って生きていくことになる……はずだ。


 でないと、今度はラザロとヴィンセントの方をクラリスのところへぶち込んでやる、とも宣言してある。


 そこまで聞いた時、俺は少しだけ思った。


 クラリスのところ、やっぱり相当怖いんだなと。


 いや、薄々わかってはいたけど。


 そうして一息ついたところで、俺はぼんやりとこの二日を振り返った。


 なんだかんだ言って、ミルトとの絆が深まるイベントだったのかもしれない。


 最初は単に、生産職の知り合いができればいいという軽い気持ちだった。何か作ってもらえたら便利そうだ、くらいの認識で、ここまでの仲になるとは思っていなかった。


 だが、気づけば一緒にダンジョンへ行き、ボスを倒し、フレンドになり、鍛冶場のためにラザロの拠点まで潰しに行っていた。


「……こうなってみると、意外と悪くないもんだな」


 俺がそう呟くと、少し離れたところで作業していたミルトが顔を上げた。


「何か言いましたか?」


「いや、別に」


 さすがにそのままは言わない。


 こっちがちょっと気恥ずかしいからな。


 するとミルトは、それ以上追及せずにまた作業へ戻った。


 そして、少ししてから思い出したように言う。


「ちなみに、次の目標は決めてるんです」


「次?」


「はい」


 ミルトは悪びれもせず頷いた。


「闇商人的な感じで、普通の鍛冶場だと作っても破棄される変な装備を、路地裏とかで売るのが目標です」


「……なにそれ」


 思わず素で返した。


 変な装備。


 路地裏。


 闇商人。


 こっちは気づいたら犯罪者集団のボスにされているのに、ミルトの方はその環境を前向きに楽しみ始めている。


「うらやましいな、おい」


 心の底からそう思った。


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