第48話 犯罪者集団のボスは遠慮したい
目の前に表示された文字を、俺はしばらく理解できなかった。
『ラザロファミリーのボスになりました』
「…………は?」
間の抜けた声が漏れる。
その表示と、目の前で手を上げている二人組を見比べて、ようやく繋がった。
さっき自分の胸元からバッジを引きはがして、こっちへ差し出してきた男。
こいつが、ラザロか。
「ちょっと待て!!」
俺は思わず叫んだ。
「俺は犯罪を犯してないのに、なんで犯罪者集団のボスにならないといけないんだ!!」
あまりにも理不尽だった。
ただでさえ狂人扱いされて、店で取引もできない状態なんだぞ。そこに犯罪者集団のボスまで乗ったら、どう考えても悪化しかしない。
だが、そこでミルトが横から口を挟んだ。
「と、とりあえず落ち着いてください」
「落ち着けるか!」
「でも、ボスになったっていうなら、降伏は嘘じゃなさそうです。話くらい聞いてみたらどうですか」
「……」
それは、まあ、そうか。
少なくとも騙し討ちのためだけなら、わざわざこんな表示は出さないだろう。意味はわからないが、向こうが降伏するつもりなのは本当らしい。
俺は深く息を吐いて、どうにか怒鳴るのをやめた。
「……わかった。話は聞く」
そうして俺たちは、さっき物陰へ隠していた三人も回収して、ラザロの拠点へ向かった。
もう一度中へ通される。
今度は応接室のような部屋だった。
そこには、さっき外で会った強い二人が待っていた。
ラザロ。
そして幹部のヴィンセント。
俺とミルトが座ると、ラザロが姿勢を正して口を開いた。
「昨日の夜から、狂人様と狂人様のご友人様がうちを襲撃に来てから、長時間ずっと戦っておりました」
「……」
狂人様。
やっぱりそう呼ばれるのか。
微妙な顔をしながら聞いていると、ラザロはそのまま続ける。
「最初は人数差で押せると思っていましたが、次第にこちらの人員が一人減り、二人減り、また手持ちのモンスターの回復も追いつかない状態となりました」
そこは、まあ、こっちも頑張ったからな。
「このままでは崩されると判断し、わたくしラザロと、幹部のヴィンセントも加わりました」
なるほど。
昨日の途中から出てきた強い二人は、やっぱり上のやつらだったわけだ。
「それで耐えられるかと思いましたが、一人落とされ、明日も同じ勢いで来られるととても耐えられないと察しました」
「……ああ」
そこまではわかる。
わかるが、それでなんで俺がボスになるんだ、という疑問はまったく解消されていない。
ラザロは一度言葉を切ってから、さらに続けた。
「そこから、狂人様が襲撃に来ている理由を探りに、ガルディーノのところへ赴きました」
「ほう」
「そこで狂人様との関係と、どうしてこうなったかを説明され、ガルディーノに降伏の申し出を行いました」
「なるほど……それでガルディーノに降伏したわけか」
そこまでは筋が通る。
ガルディーノの方に話をつけた、というのはそういう意味だったのだろう。
だが、首を傾げたまま聞いていると、ラザロはさらに頭を下げた。
「しかし、ガルディーノはラザロファミリーを自分たちの組織に入れたくなかったのか、降伏は却下されました」
「……」
まあ、あいつならそうしそうだな。
「狂人様が『責任取ってラザロのところをぶっ潰すか乗っ取ってくるわ!』とおっしゃったことも、大きかったかと思います」
そこで、横からミルトがぽつりと呟いた。
「……そういえば最後、そんなこと言ってましたね」
「お前、その時止めろよ」
「止まる感じでした?」
「……止まらなかったかもしれん」
そこは否定しづらい。
そしてラザロは、決定打を口にした。
「なので、潰されてなくなって死ぬくらいなら、ボスになってもらおうかと」
「意味がわからん」
思わず真顔で言った。
本当に意味がわからない。
俺は受け取ってしまったバッジを見下ろす。
犯罪者集団の長なんて、なりたくないに決まっている。しかも横には、この組織自体じゃなくて闇鍛冶場が欲しいだけのミルトがいる。
「……じゃあこれ、お前が持て」
俺はそのバッジを、そのままミルトへ差し出した。
だが、ミルトは露骨に身を引いた。
「いやいやいや、無理ですって」
「受け取れよ」
「自分には荷が重いですよ」
「こいつっ!」
こういう時だけ素早い。
俺はバッジを持ったまま、どうしようもなくミルトを睨んだ。だがミルトは苦笑いするだけで、まったく受け取る気配がない。
そのやり取りを見ていたラザロとヴィンセントが、次の瞬間には土下座していた。
「今後一切、犯罪行為は行いません!」
「組織の運営も私どもがやります! ご迷惑をおかけしないように努力します!」
「鍛冶場も好きなだけ使ってもらって結構です! 整備もしっかり行います!」
「なのでどうか、あの収容所だけは勘弁してください!!」
「……」
俺はそれを聞きながら、ちょっと思った。
クラリスのところって、そんなにやばいところなのか?
いや、まあ、お悩み相談室の時点でだいぶ圧はあったけども。収容所と言われると、急に別の怖さが出てくる。
だが、それよりも今はこっちだ。
俺は土下座している二人を見下ろしながら、はっきりと言った。
「ボスは遠慮したい」
それが本音だった。
ただでさえ狂人と言われて、取引もできない状態なんだ。そこへ犯罪者集団の長なんて肩書きがついたら、どうなるかわかったものじゃない。
だが、向こうも必死だった。
最終的に話し合いの末、俺の要望は半分だけ叶う形になった。
つまり――
ラザロファミリーのボスになること自体は、確定した。




