第47話 ラザロファミリーのボスになりました
ログインすると、すでにミルトが待っていた。
挨拶らしい挨拶もいらない。
互いに見るだけで、今日は昨日の続きをやるのだとわかった。
「行くか」
「はい」
それだけで十分だった。
俺たちはそのまま、ラザロの拠点へ向かった。
昨日あれだけゾンビアタックを繰り返したのだ。今日も同じように消耗戦になるかと思っていたが、現地の様子は少し違っていた。
「……五人しかいないな」
拠点の前を見て、俺は小さく呟く。
昨日見た顔ぶれのうち、途中から増援で出てきた、一回り強い二人の姿がない。あの圧からして、たぶん幹部か何かだったのだろう。
「昨日の二人がいませんね」
「まだ戻ってないのか、それとも別の仕事か……まあ、どっちでもいいか」
今いるのは五人。
昨日は二人対十人だった。
その状態で何十回もぶつかって、少しずつ動きを覚えた。連携もできてきた。ミルトの蜃気楼もある。しかも相手は、昨日の傷がまだ癒えていないように見える。
「……いけるんじゃないか?」
思わず口の端が吊り上がる。
ミルトも同じことを考えたらしい。こちらを見て、小さく頷いた。
言葉はいらなかった。
俺たちはそのまま、一気に襲いかかった。
昨日までとは、明らかに感触が違った。
まず、相手の反応が遅い。
いや、遅いというより、動きに余裕がない。連戦の疲れが残っているのか、モンスターの立て直しも昨日より鈍い。
さらに、ミルトの蜃気楼がでかい。
ミルトとネブラが狙われにくくなったことで、補助が安定している。ダストミストも通る。相手の何体かはまともに戦闘へ参加できず、ただでさえ少ない人数がさらに薄くなる。
「今だ、左!」
「はい!」
バルが突っ込み、ネブラが揺らす。
こっちの動きも昨日とは段違いだった。
ラザロの連中が弱いわけじゃない。むしろ普通に強い。だが昨日の十人相手の経験が、今の俺たちにはしっかり残っていた。
まず一体を落とす。
次の一体も落とす。
モンスターを失った一人が、その場で崩れ落ちた。
「よしっ!」
そこからは一気だった。
数が減り、流れがこっちへ傾く。勢いがついたまま、次の相手を削り、また倒す。
昨日は、四十回やってようやく四人減らした。
それが今日は違う。
五人全員を、倒し切った。
「……やった、な」
息を切らしながら、俺は拠点前を見渡した。
気絶している連中が転がっている。
ラザロの拠点前で、ラザロの構成員を全員倒しているという絵面はなかなかすごい。やっていることはかなり物騒だが、こっちからすれば堂々たる戦果だった。
ミルトも息を整えながら、小さく笑った。
「昨日の積み重ねが効きましたね」
「ああ。十人相手に死にまくった甲斐があった」
クラリスの言葉を思い出す。
モンスターを全部失った加護を持たない人間は、そのまま気絶する。
その状態で連れていけば、報酬が出る。
「後で復活されると面倒だし、今のうちに運ぶか」
「そうですね」
だが、五人全員を一気には無理だ。
俺たちは相談して、とりあえず三人を物陰へ隠し、俺とミルトで一人ずつ運ぶことにした。
バルとネブラはその周囲を警戒する。
こうして冷静に作業へ入ると、ふと妙な感覚になった。
「……なあ、ミルト」
「何ですか?」
「これ、絵面最悪じゃないか?」
俺が肩に担いでいるのは、どう見ても気絶した男だ。ミルトの方も同じ。小さい子どもや女を運んでいるわけじゃないから、ぱっと見で誘拐とは思われない……たぶん。
だが、やっていることを言葉にすると普通に誘拐っぽい。
ミルトも同じことを思っていたらしい。
「それはちょっと思いました」
「だよな」
「でも、実際にやってることはかなりそれっぽいです」
「うん、それは否定できない」
軽口を交わしながら進んでいた、その時だった。
「いたぞ!」
後ろから声が飛ぶ。
振り返ると、昨日途中から増援で出てきた、あの一回り強い二人がこちらへ走ってくるところだった。
「くそっ!」
邪魔が入った。
だが、今度は二人対二人だ。しかも、昨日の十人の中でもこいつらは確かに強かったが、それでも絶対無理というほどではない。
むしろ人数差が縮まった今なら、十分やれる。
「ミルト、やるぞ!」
「はい!」
俺は気絶した男をその場へ下ろし、バルに目を向ける。ネブラもすでに戦闘態勢に入っていた。
――が。
そこで、相手の二人は妙な動きを見せた。
モンスターへ何か指示を出したかと思うと、そのモンスターを後ろに残したまま、自分たちだけ手を上げて近づいてきたのだ。
「……は?」
思わず足を止める。
……騙すつもりか?
降伏すると見せかけて、後ろのモンスターが隙をついて俺たちの近くに移動して一撃を食らわせる。そういうのはいくらでも考えられる。
俺はその考えをすぐミルトへ共有した。
ミルトも頷き、ネブラと一緒に警戒を緩めなかった。
「話だけは聞こう」
「ですね」
そうして距離を保ったまま、相手の口を待つ。
すると、一人が言った。
「ガルディーノに話はつけてきた」
「……は?」
意味がわからない。
いや、言葉はわかる。だが、だから何だ。
信用していいのかどうかが、まるでわからない。
俺は隣のミルトへ小さく声を落とした。
「どうする? 俺はクラリスにこの二人+αを持って行って報酬をもらうか、こいつらの話を信用するのか迷ってる。特にクラリスの報酬で何が貰えるのか気になる」
ミルトは俺と違って、少し別のところを気にしているようだった。
「……クラリスの報酬は気になります。でも、そこまでこいつらを運ぶの、正直かなり面倒じゃないですか?」
「それは一理ある」
本音だった。
気絶した男を担いで、クラリスのところまで何往復もするのは普通に面倒だ。報酬が何なのかも気になるが、移動のだるさを思うと、それだけで天秤はかなり揺れる。
俺は改めて相手を見る。
「とりあえず、話がついてるっていうなら、どういう内容か教えてもらおうか」
そう言うと、強い方の一人が、自分の胸元へ手をやった。
何か武器でも抜くのかと一瞬身構えたが、違った。
そいつは、自分のつけていたバッジをひっぺがすと、そのままこちらへ差し出してきた。
「……何だ、それ」
「受け取れ」
よくわからない。
だが、くれるものなら、とりあえず受け取ってみるかという精神で、俺はそれを受け取った。
その瞬間だった。
いつもの称号取得とは違う表示が、目の前に現れる。
見慣れたような、見慣れていないようなシステム表示。
だが、そこに書かれていた文字だけは、いやでも目に入った。
『ラザロファミリーのボスになりました』
「…………は?」
思わず、間の抜けた声が漏れた。




