第44話 初回のゾンビアタックは普通に失敗した
昨日は、割と勢いで話を進めてしまった気がしていた。
ゲームを終えたあとになって、少しだけ思ったのだ。
ラザロの拠点を潰す。
闇鍛冶場を押さえる。
そのために突っ込む。
言葉にすると筋は通っている。通っているが、実際にやるとなると話は別だ。ガルディーノも頭を抱えていたし、ミルトまで巻き込んで大丈夫だったのか、少しだけ考えはした。
……だが。
今日、いつものようにゲームへログインして、俺はその考えをあっさり忘れることになった。
宿の前には、やる気満々なミルトがいたからだ。
「なんでそんなにやる気満々なんだ?」
思わずそのまま聞くと、ミルトは待ってましたと言わんばかりに説明を始めた。
「実は、鍛冶場と闇鍛冶場って違いがあるみたいなんです」
「違い?」
「はい。普通の鍛冶場だと、その工房の基準を満たさないものは、作っても失敗扱いで破棄されることがあるそうです」
「へえ」
初耳だった。
鍛冶場なんて、作ろうとしたものをそのまま作れる場所だと思っていた。そうじゃないらしい。
「でも、闇鍛冶場だとそういうのがないみたいで……規格外のものでも、気にせず作れるそうなんです」
「……なるほどな」
それはでかい。
確かに、そういう自由度が欲しいなら、わざわざ裏の鍛冶場なんてものが存在する意味もわかる。
ミルトはさらに続けた。
「そういうことをしたければ、本来は設備自体を大金を出して買うしかないらしいんです。でも闇鍛冶場なら、その条件を満たせるかもしれなくて」
「ダンジョンの鍛冶場じゃ駄目なのか?」
「近いことはできるみたいですけど……アイテムのロストもありますし、鍛冶中にモンスターが乱入してくる可能性もあるらしくて、かなり面倒みたいです」
「……ああ」
それは確かに嫌だ。
せっかく何か作っている最中に邪魔が入るとか、面倒どころの話じゃない。しかもロストの可能性まであるなら、なおさらだ。
「なるほど。それで乗り気なのか」
「はい」
ミルトは素直に頷いた。
「それに、僕のアイテムをあなたに預ければ消えませんし」
「まあ、そうなるな」
「今までのこの世界の人たちとのやり取りより、イベントっぽくて面白そうでもあります」
「……お前、思ったよりノリいいな」
俺がそう言うと、ミルトは少しだけ照れくさそうに目を逸らした。
だが、意気は十分だった。
ならもう、昨日の少しばかりの後悔を引きずる必要もない。
「よし」
俺は頷いた。
「行くか」
そうして俺たちは、そのままラザロの拠点へ向かった。
ガルディーノから聞いていた場所へ着いてみると、敷地は思っていたより広かった。
「……でかいな」
建物も一つじゃない。正面から見えるだけでも、それなりに組織立って動いているのが伝わってくる。少なくとも、そこらのチンピラのたまり場、で済ませていい規模ではなかった。
「ちゃんと拠点って感じですね……」
ミルトも少し緊張した声でそう言った。
そして、こっちが観察している間に、向こうもこちらへ気づいたらしい。
拠点前で番をしていた連中が、露骨にこちらへ意識を向けてくる。
「こちらラザロの拠点であってるか、とか聞こうと思ったんだけど」
「言ってる場合じゃなさそうですね」
その通りだった。
向こうは確認も何もなかった。
俺たちが何者か問いただすより早く、手慣れた様子でモンスターをけしかけてきたのだ。
「いきなりかよ!」
しかも動きに迷いがない。普段からこういう対応に慣れているのが丸わかりだった。
「手慣れてやがる!!」
叫びながら、俺は飛んできた一撃を横にずれてかわす。
速い。だが、俺だってこれまでどれだけバルの攻撃を避けてきたと思っている。バルに比べれば、直線気味の攻撃なんてまだ軽い方だ。
「これなら――」
そこまで思って、すぐに横を見た。
ミルトは、普通に食らって霞になっていた。
「はやいだろ!?」
一瞬で消えた。
いや、そうか。こっちが避け慣れすぎているだけで、普通はこんなもんなのかもしれない。
だが問題はない。
そこは事前に打ち合わせ済みだ。
今回の作戦はゾンビアタック。やられても、リスポーン地点からここへ戻ってくる。ミルトにも、俺が戦っていたら加勢すること、もし俺がいなければ待ち合わせ場所で合流することを伝えてある。
「よし、こっちはこっちでやるぞ!」
俺はバルへ指示を飛ばした。
「硬質化して突進!」
バルがぐっと硬くなる。そのまま一直線に飛び出し、相手のモンスターへ突っ込んだ。
鈍い衝撃音。
たしかにダメージは入った。
だが、草原や森の連中とは感触がまるで違う。倒れない。耐久がある。普通に硬い。
「まあ、そうでもないと弱い組織ってことで、すぐ捕まるよな!!」
自分に言い聞かせるように叫ぶ。
拠点を構えてる犯罪者集団が、その辺のモンスター並みに脆かったら逆に困る。そういう意味では納得の強さだった。
とはいえ、納得できても楽になるわけじゃない。
こっちはバル一体。
向こうは複数。
多勢に無勢だ。
「まずは一体!」
俺はバルを動かして、とにかく一匹に集中させた。
相手の連携を崩すには、数を減らすのが先だ。
何度かの攻防のあと、ようやく一体を倒す。
「よしっ!」
だが、その瞬間にはもう遅かった。
他のモンスターがこっちへ殺到する。
「流石に一対四は無理!」
避け切れない。
連続で視界が揺れたところで、俺の体もあっさり霞になった。
次に目を開けたのは、リスポーン地点だった。
「……まあ、そうなるよな」
初回で押し切れるとは思っていなかった。
問題はここからだ。
俺はすぐに周囲を確認する。ミルトの姿はない。
「ってことは、作戦通りあっちに向かったな」
打ち合わせでは、俺が戦っていたら加勢。いなければ待っていろ、と伝えてある。今ここにいないなら、もう待ち合わせ場所へ向かっているはずだった。
俺も急いで歩き出す。
そして待ち合わせ場所でミルトと合流し、そのままラザロの拠点の方へ目を向けた。
「……は?」
人数が増えていた。
さっきまで四人だったはずの番が、今は十人近くに膨れ上がっている。
「いや、いくらゾンビ戦法で行くとはいえ、多すぎでは?」
思わずそのまま口に出た。




