第41話 何もしてないのに抗争寸前らしい
今回は、本当に、本当に心当たりがなかった。
「詳しく聞かせてくれ」
そう言うと、ガルディーノは重たげに息を吐き、低い声で口を開いた。
「俺達と狂人の間には、少しいざこざがあったが、和解して終わり……それまでだった」
その言い方の時点で、それまでではなくなったのだとわかる。
「だが向こうは、下っ端のヴィットが狂人にいいように使われて逃げ帰って、こちらの面目丸つぶれだとさ」
「ヴィット?」
誰だそれは。
本気でわからない。
というか、NPCの名前なんて自分で名乗ってもらわないと把握できるわけがないだろ。こっちはこっちで、狂人だの何だの勝手に呼ばれている立場なんだぞ。
俺は眉をひそめたまま、ガルディーノの話の続きを聞く。
「水面下で多少のやりあいはあった。だが、それをきっかけに、もうすぐ抗争の戦端が開かれそうな状態だ」
「……」
意味がわからない。
いや、言葉はわかる。わかるが、そこに俺がどう繋がるのかがわからない。
俺は目を閉じた。
とにかく、記憶を辿るしかない。
ガルディーノとやり取りした日。
その日に関わった人物。
財布を押しつけてきたジーノ。
ガルディーノ。
土下座したジーノ。
そして――
「……あ」
思い出した。
二回目に、ガルディーノの建物まで案内させた男だ。
怯えきって、ぷるぷる震えながら道を案内していたあのチンピラ。あいつ以外に思い当たるやつがいない。
俺がそのことを口にすると、ガルディーノは小さく頷いた。
「そいつで合ってる」
「いや、待て」
俺はすぐに言い返した。
「単に案内してもらっただけで、そんなことになるぅ?」
自分でもちょっと語尾がおかしくなった。
だが、本気でそう思う。
俺は脅したつもりもない。ただ道がわからなかったから案内してもらっただけだ。それで面目がどうとか、抗争がどうとか、話が飛びすぎだろう。
ガルディーノは腕を組んだまま続けた。
「案内してもらったことだけが問題じゃねぇ」
「じゃあ何だよ」
「俺が一度、狂人を下したってことになってるのが発端だ」
「……は?」
そこで、ようやく少しだけ見えてきた。
ガルディーノは低い声のまま説明する。
「地下での一件だ。結果としては、俺達と狂人は和解して終わった。だから周りから見りゃ、俺が狂人と対等か、それ以上に立ったように見える」
「……」
「だがヴィットは違う。泣きながら俺の建物から逃げ去ったところを目撃されてる」
ああ。
そこまで聞いて、ようやく繋がった。
ガルディーノは狂人とやり合って和解した。
対してヴィットは、狂人にびびって案内させられた挙句、泣いて逃げたように見えた。
そういう構図になっているのか。
「特にラザロの組織は、俺達と違って本物の犯罪者集団だ。面子が特に大事になる」
「……なるほどな」
いや、全然なるほどじゃない。
俺は両手で顔を覆った。
「なんでこう、何もしてないのにこんなことになるんだよ……」
思わず愚痴が漏れる。
運が悪い。
本当に運が悪い。
財布を届けた。
勘違いされた。
和解した。
その余波で別の組織の面子が潰れた扱いになって、抗争が始まりそうになっている。
何をどうしたらこんなことになるんだ。
横で、ミルトが小さな声で突っ込んできた。
「道中で説明してた、親切に財布を届けただけって話じゃなかったんですか……?」
「うるさい」
俺は顔を覆ったまま言い返した。
「和解でそういう結果に落ち着いていたんだよ」
事実だ。
少なくとも俺の中では、あの日の一件はそれで終わった認識だった。まさか別のところで面子がどうとかいう話に発展しているなんて、知るわけがない。
重い空気が部屋を満たしていた。
俺は両手を顔から離し、ぼんやりと考える。
犯罪者集団なんだよな、ラザロって。
だったら、ぶっ殺してもいいのでは?
プレイヤーである俺はゾンビ戦法ができる。バルもいる。何度死んでもいいなら、とりあえずラザロとかいう組織をぶっ潰して更地にしてやれば、解決するんじゃないか。
……そこまで考えて、俺はふと横を見た。
ミルトがいる。
「……あ」
そうだった。
もともとは闇鍛冶場のことを聞きに来たんだ。
抗争だの面子だの、話がでかくなりすぎて危うく忘れるところだった。
俺はひとつ息を吐いた。
考えることは多いが、今この場で全部抱える必要はない。潰せるものから潰した方が、頭の中は整理しやすい。
「ガルディーノ」
俺は空気をぶった切るように声を出した。
「闇鍛冶場って何だ?」
ミルトがものすごい顔をした。
今この状況で聞くんですか、という顔だった。
だが、それはミルトだけじゃないらしい。
ガルディーノの側も、周りの連中も、似たような反応をしていた。
今その話をするのか、と。
だが俺は真面目だった。
早めに潰せる方を潰した方が、考えることが減る。それだけの話だ。
「いや、もともとそれを聞きに来たんだよ」
俺がそう言うと、部屋の空気は一瞬、さらに妙な方向へ沈黙した。




