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第40話 また責任を取れと言われても意味がわからない

 闇鍛冶場のことは、ひとまず後回しにした。


 まず解くべきは、ミルトの誤解だ。


「別に、俺は犯罪をやってるわけじゃない」


 歩きながらそう言うと、ミルトは何とも言えない顔をした。


 そりゃそうだろう。


 狂人。

 闇鍛冶場。

 その流れで俺が完全にそっち側の人間だと思うのも無理はない。


「バルを孵化させようとして色々やってたら、いつの間にかそう呼ばれてただけだ」


「……だけ、ですか」


「だけだ」


 言い切る。


 実際、俺の認識としてはそうだ。卵を孵すために試行錯誤して、死んで、戻って、また試した。その結果として評判が終わっただけで、最初から悪党になろうと思っていたわけではない。


 ミルトはそれを聞いて、少しだけ肩を落とした。


「じゃあ、そういった類の相手にツテはないんですね」


「いや、それはある」


「え?」


 ミルトがきょとんとした顔をした。


 顔には、どういうことですか、と書いてあった。


 口では違うと言っていたのに、実はやっているんじゃないか。たぶんそんなふうに考えたんだろう。


「狂人について教えてくれた相手が、その類の相手っぽいからな」


「……」


 ミルトの表情は、さらに微妙になった。


 だが、言葉で説明するより連れていった方が早い。


「行くぞ」


 俺はそのまま歩き出した。


 ガルディーノのところまでの道順は、もう覚えている。あの時は何度でも戦いに行くつもりだったから二回目で覚えた、途中の曲がり角までちゃんと頭に入っていた。


 道中、俺は簡単に経緯を説明した。


「最初はジーノってやつの財布を拾ったんだよ。それを届けに行って、そこで知り合った」


「財布を?」


「そう。親切心で届けただけだ」


 建前としては、それで通す。


 実際、あの日あったことを表向きにまとめるなら、俺は単に落とし物を届けに行った善良な人間だ。途中で勘違いが重なって地下に連れていかれたこととか、開幕でバルに轢かれて死んだこととかは、まあ省略していいだろう。


「そのついでに、狂人って呼ばれてる理由を聞いただけだしな」


「……」


 ミルトは何度かこちらを見た。


 その視線が、明らかに疑っている。


 道中、こっちに突っかかってきそうなチンピラにすら避けられている俺を見れば、そうなるのも無理はない。


 実際、通りを進むたびに、いかにも脛に傷がありそうな連中まで目を逸らしていく。普通なら絡んできそうなやつらが、わざわざ道を空けるのだからひどい話だ。


 ミルトは結局、口に出しかけては飲み込むを何度か繰り返した。


 本当に何もやっていないんですか、という言葉が、たぶん何度も喉まで出ていたんだろう。


 うるさいので、そこはあえて触れないでおいた。


 やがてガルディーノの建物まで着く。


 門番に声をかける。


「ガルディーノに聞きたいことがある。会わせてくれ」


 門番は露骨に嫌そうな顔をしたが、それでも中には通してくれた。


 横でミルトが小声で言う。


「……歓迎されてないように見えるんですが」


「こんなところで歓迎されるわけないだろ」


 俺がそう返すと、ミルトは少しだけ考えてから頷いた。


「それはそうですね」


 納得はしたらしい。


 中へ通される。


 空気は、前回ガルディーノに会った時の最初みたいに、少し緊張していた。張り詰めている、というほどではないが、歓迎ムードではまったくない。


 ただ、今回は話を聞きに来ただけだ。


 だから俺は、何がそんなに構えさせているのかわからなかった。


 不思議に思っていると、先に口を開いたのはガルディーノの方だった。


「狂人さんよぉ、やってくれたなぁ」


「……は?」


 本当に心当たりがなかった。


 今回はマジでない。


 俺はただ、鍛冶場のことを聞きに来ただけだ。そこに誇張も嘘もない。


 ガルディーノは低い声のまま続けた。


「あんたのせいで、ラザロのやつらと抗争が始まりそうだ……責任取ってくれんのかい?」


「は?」


 今日二回目の責任を取れ、だった。


 最初はミルトから。

 今度はガルディーノから。


 だが今回は、本当にわからない。


「いや、待て待て待て」


 俺は思わず手を上げた。


「今回は本当に何もしてないぞ? 話を聞きに来ただけなんだが」


 ガルディーノはじっとこちらを見ている。


 冗談を言っている顔ではない。


 つまり、向こうは本気で俺のせいだと思っているらしい。


「……マジで何の話だ?」


 自分で口にして、ようやく少し実感が湧く。


 本当にわからない。


 こっちは鍛冶場の相談をしに来ただけだ。気づいたら抗争が始まりそうだと言われている。


 意味がわからない。


 横を見ると、ミルトがじっと俺を見ていた。


 その顔には、やっぱり、という文字が浮かんでいる気がした。


 お前までそんな顔をするな。今回は本当に俺も知らないんだ。


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