第38話 第一回ポイント争奪戦が始まるらしい
いつものようにゲームへログインすると、視界の端に見慣れない告知が表示された。
「……イベント?」
反射的に開く。
そこに書かれていたのは、今週の日曜日の十三時から開催される全体イベント――第一回ポイント争奪戦のお知らせだった。
ランキングに応じてアイテム獲得。
参加報酬あり。
お気軽にご参加ください。
「お気軽に、ねぇ……」
俺はそのまま下まで読み進める。
ポイント争奪戦の会場では、プレイヤーへのダメージが無効化される特殊フィールドとなること。
プレイヤー名の横に、召喚、契約、育成のマークと、残モンスター数、現在の獲得ポイントが表示されること。
倒した相手によって得られるポイントが変わること。
召喚相手なら三ポイント。
契約相手なら二ポイント。
育成相手なら一ポイント。
加護持ちのこの世界の住人を倒した場合は百ポイント。
さらに、倒した相手の持っているポイントの十分の一も加算されること。
倒されてもデスペナルティもポイント消失もないが、一度倒されるとそのイベント中では復活できず、観戦モードへ移行すること。
読み終えたところで、俺は腕を組んだ。
「……これ、育成って最弱扱いなのか?」
思わず口に出る。
召喚が三ポイント。
契約が二ポイント。
育成が一ポイント。
どう見ても、倒しやすさや危険度を踏まえた価値づけだろう。つまり運営――いや、このゲームはほとんど全部AIで回っているんだったか。とにかく、システム側の認識としても、育成はその二つより下と見られているわけだ。
「まあ、そりゃ序盤はきついって言われてたしな」
召喚は最初から高レベル。
契約は土地にいる間は最強。
育成は、時間をかければ最終的には強い。
最初に聞いた説明とも一応は噛み合っている。
だが、気分はちょっと複雑だった。
「……いや、でも参加するだろ、普通に」
せっかくの全体イベントだ。
参加報酬もある。
それに、今の自分がどこまで通用するのか、こういう場で測れるのはかなり大きい。
勝てるとは思っていない。
でも、自分の立ち位置がわかるだけでも十分価値はある。
「楽しみだな、これ」
小さくそう呟いて、俺は横のバルを見る。
バルは、俺が告知を読んでいる間ずっと邪魔だったので、昨日買ってもらった餌を食わせておいた。今は機嫌よくそれを食べ終えたところだ。
「万能だな、この餌」
良質な餌とやらの効果が、単に能力補正なのか、気分の問題なのかはわからない。
だが、少なくともバルの機嫌が目に見えてよくなるのは確かだった。
「レグルス関係は面倒だけど、そこだけはれいにゃに感謝しとくか」
そう言うと、バルが小さく揺れた。
否定なのか、どうでもいいのか、そこまではわからない。
俺は立ち上がって宿の外へ出る。
今日は快適だった。
何しろ、昨日のうちにちゃんと宿を変えてある。だから、ログインした瞬間にレグルスが目の前にいる、なんてこともない。
「平和っていいな……」
しみじみそう思う。
どうやら売買はできないが、リスポーン地点である宿の変更自体は問題なくできた。となると、やはり取引関係だけが駄目なのだろう。
そこまで考えて、俺は改めてイベント告知のことを思い出した。
今週の日曜日。
つまり、まだ少し時間がある。
「少しでも強くなっときたいよな、バル」
バルはつかず離れずの位置で転がっている。
「一位は無理でも、せめて上位は目指したい」
せっかく出るなら、ただの参加賞だけで終わるのも悔しい。
となると、やっぱり強くなる方法を考えないといけない。
「……装備か」
そこで、ふとミルトのことを思い出した。
あれから特に用もなかったので、こちらから連絡は取っていない。だが、生産職として進めているなら、もしかしたらもう何かしら作れるようになっているかもしれない。
装備があれば、今より楽になる可能性は高い。
「聞いてみるか……?」
ただ、切り出し方が少し難しい。
久しぶりに連絡して、いきなり装備作れる? はさすがにどうなんだ。いや、フレンドなんだからそのくらい普通か? でも、あまり図々しいのもよくない気がする。
どう言うべきか考えているうちに、ちょうどフレンド一覧の表示が変わった。
「あ」
ミルトがログインしたらしい。
名前のところが、ログイン中の状態になっている。
「ちょうどいいな……」
今なら自然だ。
だが、どう送る?
久しぶり。
装備って作れるようになった?
それとも、まず近況から入るべきか?
そんなことを考えながらメッセージを打とうとしていた、その時だった。
通知が来た。
「ん?」
フレンドになっているのは、れいにゃとミルトの二人だけだ。
だから一瞬、れいにゃかと思った。だが、表示されている名前は違う。
「ミルト?」
ちょうど今、こっちから送ろうとしていた相手だった。
「タイミングいいな」
俺はそのままメッセージを開いた。
短い一文だけだった。
「責任取ってください!」
「……は?」
意味がわからなかった。
俺は一度、メッセージを閉じた。




