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第37話 アンカーの検証をしてみた

 さてと、バル。


 新しい敵を倒すのもいいが、今日は昨日覚えた新スキル――アンカーの検証を行うぞ。


 説明文を見ても、その場にアンカーを設置する、くらいのことしか書かれていなかった。細かい仕様がわからない以上、実際に試して覚えるしかない。


 突進とか、丸くなるみたいな、見てすぐわかる類のスキルじゃないしな。


 買った餌を食べたおかげか、バルは割と上機嫌だった。


 和解したこともあるのだろうが、餌でここまで機嫌が変わるなら、もっと早く試していればよかったかもしれない。


 ……いや、よく考えたら、そもそも取引できなかったわ。


「そこが一番の問題だったな」


 俺がそう言うと、バルは特に気にした様子もなく、小さく揺れた。


 まあ、今はいい。


 機嫌がいいなら、検証も捗る。


 ちょうどフィールドを歩いていると、鈍重そうなカバっぽいモンスターを見つけた。速さはなさそうだし、最初の実験台にはちょうどいい。


「バル、まずはアンカーだ」


 俺は構えて、続けて指示を出す。


「そのあと、相手モンスターと逆側に体当たり!」


 昨日のPVPの時は突進だったが、体当たりだとどれくらいの威力を発揮するのか。それをまず見ておきたかった。


 バルがアンカーを使う。


 次の瞬間、体当たり。


 すると、昨日ほどではないが、バルの身が一度伸びてから戻るような動きになった。そのまま勢いよく敵へ命中する。


 カバっぽいモンスターは、一撃で消えた。


「おお」


 思わず声が出る。


 相手がそこまで強くないというのもあるだろうが、普通に強い。


 ただ、速度的には昨日の突進ほどではなかった。目で追えるくらいの速さだ。


「速さが飛び抜けてるわけでもないし、威力も突進より上って感じじゃないな……」


 そうなると、すでに突進がある以上、アンカーからの体当たりは不要か?


 そう思ったが、まだ決めつけるのは早い。


 次のモンスターで、今度は丸くなってからアンカーで体当たりを試した。


「……ああ、なるほど」


 今度は伸びが減った。さっきより速度も落ちた感じがする。


 だが、威力そのものは下がったようには見えない。


 丸くなることで、弾力性が少し減ったのだろう。だがその代わり、俺の認識では攻撃力そのものは上がっている。そっちの補正はちゃんと反映されているらしい。


 さらに次。


 丸くなる。

 硬質化する。

 そこからアンカーで体当たり、あるいは突進。


 今度は、伸びなかった。


「やっぱりか」


 硬くなることで、弾力性そのものが失われている。


 俺の考えは、どうやら正しかったらしい。


 だが、そこで終わりじゃない。


「……いや、待て」


 逆に、これはこれで使い道があるのではないか。


 物理攻撃なら、バル自身の防御力でカウンターっぽくなるのでは、と思って試してみると、案の定、敵の方がダメージを受けていた。


「これはこれで使えるな」


 なるほど。


 伸びるか、伸びないか。

 弾くか、耐えるか。


 アンカーは、組み合わせるスキルで性質がだいぶ変わるらしい。


 色々試行錯誤するのは、これはこれで楽しい。


 今まで突進だとか、バルを投げて攻撃だとか、単純な攻撃ばかりだったからな。こうして新しいスキルの癖を探っていくのは、ゲームらしくて嫌いじゃない。


 そうこう敵を倒しつつ検証している最中、ふとひとつ思いついた。


「……もしかして、空中でもアンカーを設置できるのか?」


 アンカーという名前のせいで、てっきり地面にしか設置できないものだと思っていた。だが、もしそうじゃないなら話は大きく変わる。


「バル、試してみろ」


 やってみたら、できた。


「マジかよ」


 思わず笑ってしまう。


 空中にアンカーを設置できる。しかも、そこから普通に体当たりや突進が出せる。


 よくわからん。地面じゃないのに成立している理屈はさっぱりだ。


 だが、できるものはできる。


「これ、空の敵にも当てられさえすれば、俺の投擲スキルも不要になるんじゃないか?」


 もちろん、そう簡単な話ではない。


 空中は三次元だ。狙いをつけて命中させるのは、地上の比じゃないくらい難しいだろう。


 それでも、可能性が見えたのは大きい。


 しばらくあれこれ試した結果、ひとまず結論は出た。


 攻撃面で一番強いのは、アンカー×突進。


 ぶち抜けば、一撃で葬れていない敵は今のところいない。


 別方向で有用なのが、丸くなる×硬質化×アンカー。


 これは物理カウンターとしてかなり優秀だ。物理攻撃に対してはめっぽう強い。


 問題点は、相手から攻撃してくる必要があること。それと、遠距離系には無力だということだ。


「思った以上に有用だな」


 そして、検証中にもうひとつわかったことがある。


 敵に当たらず遠くまでバルが飛んでいった場合、プレイヤーから一定の距離を離れると、自動で俺の横に戻ってくるようなのだ。


「これはありがたい」


 外した際に死亡判定になるとか、帰ってくるまで無防備になるとか、そのへんを覚悟していた。だが、思った以上にリスクが少ない。


 これなら思い切って試せる。


「このアンカーで、バルはだいぶパワーアップしたな」


 そう言いながら、俺は最後にひとつ、ずっと気になっていたことを試すことにした。


 空中にアンカーを設置できる。


 それを知った瞬間から、ひとつだけ閃いていた使い方がある。


「バル、最後に実験だ」


 まずは手で持ち上げる。


 できるだけ上の方で、アンカーを設置してもらう。


「よし、そのまま固定」


 俺は位置を調整し、体当たりでちょうど伸び切りそうな場所まで移動した。


「そのまま俺めがけて体当たり!」


 バルが伸びる。


 空中アンカーを支点に、こっちへ向かって一直線に飛んでくる。


 そして、俺のところまで届いた瞬間――


「今だ!」


 俺はバルをがっちり両手で掴んだ。


 そのまま、射出。


「うおおおおっ!?」


 バルが戻る勢いに引っ張られて、俺は一緒に飛んだ。


 風になる、という表現はこういう時のためにあるんだろう。


 景色が一瞬で流れていく。


「速っ!?」


 思った以上だった。


 距離にして、おそらく百メートル前後は飛んだと思う。


 現状、たぶん最速の移動法だ。


 少なくとも俺が知っている中では、間違いなく一番速い。


「これ、すご――」


 そこまで思った瞬間、地面が来た。


 着地失敗。


 というか、着地できるわけがない。


 そのまま俺の体は霞になり、意識が暗転した。


 次に目を開けた時、俺はいつもの宿のベッドの上にいた。


「……やっぱ着地で死ぬか」


 まあ、そこはそうだろう。


 だが、それを差し引いても価値はある。


 百メートル飛べる。

 現状最速。

 問題は最後に死ぬことだけ。


「いや、最後に死ぬの、だいぶ問題ではあるな?」


 自分で言って、自分で笑う。


 でもまあ、使いどころ次第だ。


 移動の最終地点で死んでもいい場面なら、かなり有用かもしれない。


 そう思いながら、俺は宿の天井を見上げた。


 アンカー。


 思っていた以上に、面白いスキルだった。


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